3話 やつはとんでもないものを盗んでいきました
何やってんだこいつ。
そもそもゲームでは、一つのサーバーの中に複数の国が存在していた。
国との間に緩衝地帯として魔境やら資源採掘地などがあるのだが、どこの村を滅ぼしたと言うのだ。
ノアールが黒い手袋をした右手指で一、左手指で五を示す。
「現在時刻から十五分前。我が王国全体が大規模な転移現象に巻き込まれました。十四分前、状況確認のため私は空へ飛び立ち、世界中に分身を放ちました」
指折り時間が減っていく。
「十分前。本大陸のおおよその国境線、及び緩衝地帯を確認。五分前。我が国の国境内に見知らぬ村を発見」
ぱちん。とノアールが指を鳴らすと、私たちがいる大陸と思われる地図が机の上に現れた。
おそらく村のあった場所を指差して、そのままヘキエ王国まで指をなぞる。
「原住民達を洗脳、我が国への従属を誓わせ城下町へと住まわせ使役しております」
いや、判断早スギィ!
なんで勝手に原住民洗脳してんの!?
「あのさぁ。資源足りてるの? 人増やしたら大変でしょ」
勝手にコスト増やして……。
バッドエンド直行してない?
「いいえ、我が国の資源状況は逼迫しておらず、殿下が動くまでもございません。なぜなら、我が国の国民は全て私の作り出した傀儡なのですから」
ニコニコした笑顔で、まるで褒めて欲しそうに伝えてきた。
――やつはとんでもないものを盗んでいきました。
我が国民です。
ほんとやめてくれ……。
「わかったよ。わかった。内政しなくてもいいってことは嫌ほどわかりました」
ひとまず確認だ。
私は執務室の外へと出た。
晴れてゲームスタートといったところだろうか。
大幅にフライングしているような気もするが。
城内ですれ違う、嫌味も言わずにニコニコと働く使用人と文官達を見ているといたたまれなくなる。
「いつ、私との約束を果たしてくださいますか?」
私の横に並んで歩くノアールが私の顔を覗き込んでくる。ノアールは高身長で、傍から見るとどっちが主人か間違われそうだ。
「まだだよ。むしろ、こんなに早くしていいの? ダメでしょ。舞台が整ってないよ」
「ふむ……」
ノアールが一考の余地あり、という風に悩んでいる。
とにかく口から出まかせを言って、この状況を長く作らなければならない。
そもそも今の私の姿……淡い金髪に赤い瞳のユメノがどれだけ動けるのか未知数すぎる。
それにまだ調べたいこともたくさんあるし、やることが山積みだ。
「はぁ。とりあえずみんなを集めないとね」
「そうですねぇ。殿下がお創りになった方々を一度拝見したいと思っていたところです」
後ろをついてきていたグレイに、ノアールが指示を出す。
「駄犬。広間に従者達を集めなさい」
「はいノアール様! しかし……全員となると時間がかかるかもしれません……」
「十分以内に集まった方々だけで結構です」
「かしこまりました!」
命令を受けた駄犬、もといグレイは嬉しそうに走って行った。
さすがドS設定なだけあってドMと相性が良い。
そのまま引き取ってほしいぐらいだ。
広間の椅子に座って待つ。
何人作ったか忘れたけど、たしか十人は超えていたはず。
グレイが嬉しそうに走り回っている。
ノアールは私の隣に姿勢良く立って待機している。
五分。
八分。
十分。
集まったのは、たった二人だけだった。
「……え、もしかして私、人望ない?」
「命令の優先順位を理解できる知性の持ち主が、二名だけだったということでは?」
それ、バカにしてるね?
間接的に創造主の私もバカにしてるね?
ノアールの微笑を崩さない態度に、私は反論すら面倒になって前を向いた。
「で、来たのが我が弟の忘れ形見かぁー……」
胡散臭く微笑む丸眼鏡で糸目の男が、和装の袖を合わせてお辞儀した。
「お久しゅう。姫さんに呼ばれたら地獄の底からでも参じますわぁ」
「……お前は地獄の底でも商売できそうだよなぁ」
彼の名前はジェイド。
商人であり、諜報員であり、弟からキャラトレードでもらった、裏切りそうな男だった。
姉ちゃんこんなやつ好きでしょ?って言って弟が送りつけてきたのだ。
まぁ、好きではある。
絶対裏切りそうだけど。
「姫様ぁ〜僕もいますよぉ」
可愛い声でアピールしてきたのは、淡い桜色の入った白髪メイド、ブランだ。
天使みたいな見た目と完璧なメイドの所作だが、彼はすでに性別を裏切っている。
「ブランは相変わらず可愛いね〜」
私がキャラデザしたのだから当然だ。
そもそもAIイラストが多い中、私は全員手描きでキャラデザしている。
「姫様ぁ、ありがとうございますぅ! グレイ、早く茶ぁ出せよ!」
「よろこんで!」
なぜか、メイドが執事をこき使っている。
可愛いのに私以外に口が悪い。
グレイが淹れたお茶をブランが運んできた。
「姫様ぁ、どうぞぉ」
「うん……」
受け取ったカップの中には、茶柱が立った緑茶が入っていた。
ブランは天使のような笑顔のまま、こちらをじっと見つめて飲むのを待っている。
なんか飲みたくないな……。
仕方なく、隣に立っているノアールに横流しした。
「……」
ノアールは顔を顰めて私からカップを受け取る。
そして、躊躇いもせず一気に飲み干した。
ペロリと妖艶に舌舐めずりをして微笑むが、目が笑っていない。
「貸し一つですよ」
まさか、毒見役にしただけで貸しにする!?
……もしかして。
「ブラン、何入れたの?」
「筋弛緩剤ですぅ」
……正気か、このメイド。
いや、こいつはたしかヤンデレ要素が入っていた気がする。
なんで性癖盛っちゃったんだよ私ィ!
男の娘腹黒ヤンデレメイドとか誰得だよ!
「姫さん。薬剤耐性をつけるためのお薬、一式揃ってますでぇ」
「エセ関西弁! 商売をするんじゃあない!」
額に手を当てて、天を仰ぐ。
深刻なツッコミ不足だ。
こんな国家で大丈夫か? ――大丈夫だ、問題ない。
何が問題ないだよ、大アリだよ!!
……ああ、やっていける気がしない。
ちらっとノアールを見て、確認だけ取る。
「ノアール、体調は?」
「この程度で具合が悪くなるようでは、創造主に対する侮辱です」
私は私に侮辱しようとしたのか!?
こいつの最強設定、どれだけ効いてるんだよ!?
「はぁ、もういい。解散。ちょっと自分の部屋で今後の対応について考えるから」
立ち上がって自室に向かう。
「はぁい、では一緒にお風呂に入りましょうねぇ」
ブランが当然のように付き従ってきた。
デフォルトの設定では、自室は執務室の隣にあることになっている。
扉の前で立ち止まり、ブランを見た。
「ブランは部屋の前で待機。何かあったら呼ぶから」
「わかりましたぁ」
口を尖らせて残念そうなブランが、扉を開けてくれた。
女子がいない。
私のお世話ができる女子がいない。
どうせなら、ツンデレメイドの女の子が良かったなぁ。
自室に入り、目下最大の脅威である自分の体を見た。
――私の種族も、終わってるんだよなぁ。




