2話 私が主人って本当ですか?
ペンタブのペンを机に置いて、横にある自作の一年漬けた梅酒を飲み込む。
「うへ〜仕事終わりの酒うめぇ〜! よっしゃVRオン!!」
そのままVR機材を頭に被り、非現実へとログインする。
目の前に現れたのは、落ち着いた雰囲気の洋風な執務室だった。
資源略奪系恋愛ゲーム「ドリームメイカー・キングダム」は、舞台設定からキャラクターメイキングまで、全てプレイヤーが自由に変えられる。
さらに恋愛に至るまでのシナリオは、AIが自動生成してくれる今話題のゲームなのだ。
本アカの方ではすでに学園ファンタジーを攻略し終えている。
今はサブアカで、面白おかしくSNSで有名な性癖ドラゴンミームにあったようなキャラをノリで一人ずつ作っているところだった。
「イイ! 素晴らしい出来! イケメンさることながら、めんどくさい性格! これ本当に現実にいたらやだな……」
VRのダメなところは酒飲みながらできないことだ。それ以外はいいのに。
最後のキャラ設定に二時間ほど費やし、満足したところでログアウトしようとすると……。
「あれ?」
メインコンソールが出てこない。
「なんで? バグ?」
手をぱんぱんしてみたり、ジャンプしてみたり、ありとあらゆることを試してみたが、ログアウト出来なかった。
コンコン。
ドアをノックして入ってきたのは、執事だった。
「姫様、お呼びでしたか?」
「え、呼んでない。ってかなんでこの部屋に勝手に入れるの?」
この執務室にいる間はストーリーが進行せず、キャラの設定やセーブが出来るようになっていた。
なので、呼ばない限りはこの部屋にキャラクター達は入れない。
「!? ありがとうございます! そういうことですね!」
執事――たしかグレイと名付けたはずの灰色の髪の執事はテンション高めに部屋を出て行ってしまった。
ドタバタと音がして、次に入ってきたグレイの手には鞭が握られていた。
「姫様、これでわたくしめを躾けてください!!」
「あー」
そういえば、コイツの設定はドMだった。
「ちょっと全裸になってくれる? 多分脱げないと思うけど」
このゲームは十八禁に相当する行為はできないようになっている。なので下半身は脱げないはずなのだ。
「喜んで!!」
ウキウキという効果音が出そうなほど素早く、そして正確に服を脱いでいく。
グレイがズボンに手をかけたところで、私は目元に手を当てた。
そして少し指をずらして見てみる。
そこには、デデーンと腰に手を当てたグレイが全裸で立っていた。
「汚ねぇな」
私がそう言うと、グレイは嬉しそうに顔を綻ばせた。
その様子に私は顔を顰める。
ここはまごうことなき現実だ。
「オワタ……はは。よりによってこの世界に閉じ込められるとか、終わってる」
誰が好き好んで中学生の黒歴史みたいなコイツらと恋愛するんだよ。
眺めて笑ってSNSにアップしたかっただけなのに。
もはや乾いた笑いしかでない。
「さっさと服着て出てけよ、この変態が!」
これは切実な悲鳴だ。
思わず机の上のペンを投げつけた。
ペチンと肌に当たって、グレイはさらに飛び跳ねそうなくらい喜んでいる。
「ハァハァ……はい!!」
こんな理不尽な罵倒にも喜ぶ。
私がそう創ったんだから……。
興奮しながら素早く服を着ている美麗な執事を尻目に、執務室の椅子に座って頭を抱えた。
このゲームには一応ゲームオーバーが存在する。
資源が尽き王国が維持できなくなると、民が暴動を起こして王様……つまりプレイヤーは殺される。
基本は恋愛ゲームなのだから、資源が尽きることはそうそうない。
資源が尽きるとしたら、それは作ったキャラクターが多かったり、城内の設備を豪華にしたりした課金前提プレイの人だけだろう。
――そう、私のことだ。
やばい。
普通はテストプレイをして収支がマイナスになるか確認してから始めるのがこのゲームのセオリーだ。
なのにキャラと設備だけを増やしまくって、ゲームを始めてすらいなかったのが痛い。
このままだとバッドエンド直行だ。
着替え終わって外に出ようとした変態に指示を出す。
「グレイ。アイツを呼んでくれ」
「かしこまりました!」
このゲームにおける裏ワザは課金だけではない。
そもそも、現状課金が出来る状態ではない。
だから――"成立"しているかどうかが一番重要なのだ。
お願いだから、成り立っていてくれ!!
ガチャリ。
グレイと共に入ってきたのは、黒髪金眼の美青年。
私の作成したキャラの中で破格のスペックを備えた人物。そしてこのゲームの重要ポジションである宰相の地位についている彼こそが、私の命綱だった。
「ノアール・グランツェルト宰相。我が国の状況を教えてほしい」
「おやおや……」
薄い笑みを浮かべ、人を見下した態度を取るこの鬼畜ドS変態紳士……まぁいい。癖を盛り盛りした奴こそ、この国の現状を知る唯一の人なのだ。
なんで重要ポジをドSにした?
終わりだろ。
「私に面倒事を押し付けた割に現状すら理解していないとは、嘆かわしい」
「ごめん、この世界から出られないとは思ってなくてね」
「ククク……えぇ、そうでしょうねぇ。殿下との約束を果たすまでに逃げられては困りますから」
良かった。
約束が成立していた。
こいつみたいにスペックが高い人物は、設定を凝らないと破綻して裏切る可能性もある。
要は自分より賢いやつを生み出すときは、使役(恋愛)するための矛盾のない設定が必要になる、ということなのだが……。
ひとまず、第一関門を突破した。
反乱の可能性もないようだ。
「それで? 統治はどうなっている」
「村を一つ」
「ひとつ?」
「滅しました」
「……はぁ?」
何を言ってるんだコイツは?




