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27話 自力救出

 ブランは張り切っていた。

 初めて任された仕事だけに、失敗は許されない。


「スートおじさん、もう少し早く歩けないですかぁ?」

「……おじさん、ここで待ってていい?」


 スートは少し歩いただけで萎びていた。

 王城の裏手にある花壇に腰掛けている。もうタバコ休憩らしい。


「わかりましたぁ。僕一人で行きますぅ」


 冷ややかな目でそう告げたブランは一人、王城へと潜入する。

 スートがもし敵と遭遇しても知らない。

 せいぜい花壇に擬態でもしていろ、とブランは思った。


 堂々とメイドとして通路を歩きながら、通り過ぎる警備兵を薬で寝かしつけていく。


「あははぁ、この作戦が成功したらぁ、姫様に添い寝する権利をいただきますぅ」


 あまりにも簡単な任務に、思わず鼻歌まじりにスキップする。


「それでぇ、既成事実を作ってぇ……ノアールを出し抜くのですぅ!」


 角を曲がってきた通りがかりの兵士の首を音もなく強打して、意識を落とす。


「アイツ絶対処女厨なのでぇ、姫様を守るにはこうするのが一番なのですぅ〜」


 食堂に入り込み、使用人に声をかける。


「すみませぇん。新入りなのですが、お使いを頼まれましてぇ。ヘキエ王国から来た男性はどこにいらっしゃるかご存知ですかぁ?」

「ああ、ジェイドさんとグレイさんなら地下に入って三番目のお部屋にいますよ。こちらを持って行ってあげてください」


 忙しそうに働く使用人からバスケット入ったライスボールをもらった。


「ありがとうございますぅ」


 るんるんで地下へと向かい、三番目の部屋に入る。


 …………。

 部屋の中には誰もいない。綺麗さっぱりもぬけの殻だった。


「あれぇ。グレイさぁん? ――足引っ張りやがってぶっ殺すぞ」


 殺気を放ったブランはバスケットを投げ捨てて、急いで外への出口へと向かった。

 

 ******



 スートは夕暮れの中、顔を出した一番星を眺めていた。

 戦闘や運動は全くできないので、ぼけーっと行き交うマグリッタの使用人達を右へ左へ見ているだけだった。

 ようやく星という眺めるに値する対象物が出てきたと、思い始めた時。


 ――目が合った。


 ジェイドとグレイが、走りながら王城の中から出てきたのだ。

 二人ともスートを見ると、一瞬びくっと驚いていた。


「スートはん、こんなとこで何してんのや……?」

「スート! あなたがここにいるということは、わたくしめのために姫様が!?」


 スートは二人の身体検査を、見るだけで済ませた。

 嫌でも目に入ってくる情報は自身で制御できない。

 特に異常がない……というよりジェイドは心を少し病んでいる。ノアールほどではないので、ショックな事でもあったのだろう。


「あー、入れ違いだねぇ……ブランちゃんと会わなかったんだねぇ……」


 めんどくさいな、とスートは思った。

 説明も面倒ならブランを待つのも面倒だった。


「せやから、兵士達が寝とったんか……。姫さん来てんのか?」

「そうだねぇ……」


 ジェイドはこめかみを押さえている。

 やはり悩みがあるようだった。


「あーこのまま僕のせいで戦争になるんやなぁ……。ノアールはんも一緒か? やったら僕らは僕らで出た方がいいんやないか?」

「……もう判断はジェイド君に任せようかなぁ」


 グレイがスートの前でしゃがんだ。


「わたくしめが運びます! こちらへ!」


 スートは躊躇いもせずにグレイの背に身を預けた。


「グレイ君、よろしくね……」


 若いとは素晴らしい。

 あり余る体力が羨ましいとは思わないが、スートは頷いて目を閉じた。


「ブランはんは後で合流や。僕がこっそり隠してた影馬車でこの国出るでぇ! こっちついてき!」

「さすがです、ジェイド!」


 そうしてジェイドとグレイとスートは、ブランを置いて王城を去ったのだった。

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