25話 突撃!隣の晩御飯!
玉座の間にて、私とノアールが対峙した。
全能感が体を支配する。
ノアール由来の思考が頭を支配しかけている。
額を押さえて、その場にうずくまった。
頭の中のノアールが私と喧嘩している。
なんとか私の敬語キャラ化だけは阻止したいのに!
――なぜ拒むのですか?
当たり前だろ! 恥ずかしすぎるだろ!
――そのようなことより、やるべきことがあるでしょう。
それを過小評価してお出かけしたら、私が社会的に恥ずか死ぬんだよ!
「ククク、面白い……ですね。なんて言うとでも思ったか!」
「……殿下、何をしているのですか?」
この状況にした張本人のノアールが困惑している。
本当にコイツ、私の気持ちがわからないんだな!
もしかして本当に大陸の覇者になるつもりだった!?
「あ゙ーー! 嫌だ! 慇懃無礼が血液に染み込んでくるぅ!」
「なぜそこまで私を拒絶するのですか……」
ノアールはしょんぼりしている。
どこに鬼畜ドS変態紳士の成分を取り込んで喜ぶ奴がいるんだよ!
「悪かったですねぇ! ちょっとキャラ定まるまで待ってくださいますか!?」
ノアールは腕を組んで、顔を顰めてこちらを見た。
なんだよ、文句あるのか!?
いささか想定外だとでも言いたげだなぁ!
「逸脱の仕方があまりにも……馬鹿馬鹿しい」
困ったことに、そう言ったノアールの気持ちがわかってしまう。
ノアールはね、常に退屈してて、予想外を探してて、やること全部が人を追い詰めなきゃいけないの。
そうだ、だからノアールはあの約束にこだわってたんだ。
ちょっと待てよ?
今の私の頭脳なら全従者がどんなやつだったか思い出せる!
これを覚えているうちに紙に記すべきでは?
いや、二時間しかないんだぞ!?
まずは早くグレイを助けに行ってその後だ!
戦争なんてしてる暇はねぇ!
すくっと立ち上がる。
額に当てていた手で髪を払ってかっこつけた。
「ふん、見せてあげますよ! 君の力を取り込んだ私の、素晴らしい仕事をね……」
なんだよこの仕草と喋り方、気持ち悪い!
でも矯正しようとしたら一時間くらい食いそうだからできない。
早くマグリッタに行って条約を結ばないと!
パチンと指を鳴らして空間に穴を開けて手を突っ込んだ。
ブランを引っ張り出して、縛っている紐と目隠しを焼き切る。
「姫様ぁ!?」
ブランはノアールの首筋に流れる血と私を見比べた。
そして、ノアールに指差して怒鳴った。
「おいノアール! 先駆けしやがって! 僕の姫様なんだぞ!!」
「……あなたのものではありませんよ」
ブランは両手を広げて、ノアールから私を守るように立ち塞がった。
ノアールは首筋を押さえて、勝ち誇った笑顔でブランに微笑みかけている。
「ブラン。準備をして一緒にマグリッタに来て……ください」
「姫様ぁ!? 僕、一緒にお仕事できるんですかぁ!?」
「そう……です」
ブランはこちらに振り返って大喜びしている。
「すぐ準備してきますぅ!」
脇目も振らずにブランは走り去っていった。
もう一度空間に穴を開けて、今度は医務室で寝転がっている白衣のおじさんを引っ張り出した。
「おわ、なんだ?」
「おじさん、お仕事です」
「あー、ユメノちゃんにノアール君入ってるね……」
だるそうに床に座った煙臭いおじさん医師スートは、諦めたようにタバコを吸い出した。
スートはちらっとノアールを見て片手を上げる。
「あぁ、ノアール君、おはよう。君いつも体調不良だねぇ……。もう少し休んだらどうだろうと、おじさんは思うよ……」
「もう夕方ですよ。私の健康状態は至って普通です」
「そうだけど、健康にも色々あると思うけどねぇ……」
スートの能力は些細な病も見逃さない眼と、医療技術もさることながら極上のエステ体験も施せる癒しのエキスパートだ。
そんなスートが言うのならば、ノアールには何かしら悪いところがあるのかもしれない。
だが今は後回しだ。
マグリッタにスートを連れて行ったら、グレイに何か異常があった時にその場で診察できる。
「お待たせしましたぁ!」
ブランが戻ってきた。
見た目は変わっていないが、服の下に色んなものを隠し持っているのがわかった。
ブランの能力は、毒物から薬物まで幅広い生成能力を持ち、体術はうちの従者の中でもトップクラス。
スートを守りつつ、見つかっても敵を殺さず無力化できる。
よし、このメンツならマグリッタでグレイを助けにいけるぞ。
「二人とも。現地に到着後、グレイを捜索してください。見つけ次第、転移した場所で待機すること。よろしい……ですか?」
「姫様ぁ、喋り方変ですぅ……ノアール様みたいで。僕、少し嫉妬しちゃいますぅ」
ブランの声は氷点下まで冷めていて低い。
ノアールのことを目を細めて見つめていて、少しどころか殺気が漏れている。
「これでも抗ってる方なんだ……です。ふふ、おかしいですねぇ」
私は眉を下げた。
困り眉だ。
誰か助けて。
「え、おじさんも行くの……? 今から……?」
「はい」
「人使い荒いねぇ……」
おじさんも困り眉だ。同じだね。
さっさと終わらせようね。
「ノアール。留守をお願い……します」
「ええ。殿下、こちらをお持ちください」
ノアールは小瓶を投げつけてきた。
パシッとキャッチして小瓶を見てみる。
陶器で出来た小瓶の中身はわからなかった。
「効果が切れる前にそちらをお飲みください」
予備の血液か。
ノアールの保存血なら効果を延長できたりするのかな?
「ありがとう」
懐にしまって、私はパチンと指を鳴らして目の前に転移ゲートを呼び出した。
転移先はもちろん聖マグリッタ王国。
監視魔法が効く外から現地を確認して、転移地点もすでに決めた。
そしてスートとブラン用の人気のない場所に繋がるゲートも用意する。
「さて、グレイ救出作戦決行ですよ」
「はぁい! がんばりまぁす!」
「はぁ……ブランちゃん、おじさんを助けてね……」
スートがブランの後ろに隠れながらゲートに入っていくのを見届ける。
私も真っ暗なゲートの中へ、迷いもせず足を踏み入れた。
***
聖マグリッタ王国正門には、大勢の武装した人が集まっていた。
私を見たマグリッタの人間達は後退り、一人が走って指揮権のある者を呼びに行ったのが見えた。
こんなにも敵に囲まれているのになぜか怖くはなかった。
それどころか、ノアール由来の傲慢な余裕、そして愉悦すらある。
前髪を掻き上げて、横に流す。
監視魔法でこの場は見られている。穏便に終わらせないと。
指揮官が出てきたところで、私は害意を感じさせないように片手を優雅に振って大きな声で挨拶した。
「お夕飯時に失礼しますねぇ! 私のせいで大変申し訳ありませんが――今からあなたたちの代表とお話があります」




