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24話 平伏か、死を

 この日、大陸中がヘキエ王国の動向を見守っていた。

 聖マグリッタ王国でも、ジェイドと共に聖王ルシウス達がユメノの反応を見るために、とある一室で監視魔法の鏡を覗いていた。


「姫さあああん!! アカーン!」


 ジェイドは頭を抱えて崩れ落ちた。

 違う。ジェイドが思い描いていた結末と、いささか違う。


 なんで僕の穏便な交渉案が、世界征服の幕開けみたいになっとんねん!


 ジェイドは、ユメノがノアールを置いて聖マグリッタ王国に来れるようにあの文を書いたつもりだった。

 あの内容ならば、内政干渉ではあるものの、冷静なユメノは嫌がって直接交渉しに来るはずだった。

 

 たしかにノアールはんの引き渡しを条件に入れたのは僕や。そんな条件、飲むはずがないからなぁ。

 そしたらなんや、姫さんがノアールはんを飲んだ。

 なんの冗談や。


「あほかボケぇ……」


 なんとか絞り出した声も、か細く消えていった。

 床に拳を打ちつけて、泣きそうなのを堪える。


「ジェイドさん、あの吸血鬼の本性が暴けました……! やはり悪魔でした!」


 密偵ルシルは、ジェイドの背中をさすった。

 ちゃうねん。あれはどう見ても姫さんがレスバに負けて悔しくて噛んだだけなんや。

 決して大陸の覇者になるために噛んだわけじゃないんや。

 ……そんなん言うても誰も信じやんやろ。


「ミゲル! 全軍に警戒を命じろ! 今より二時間、吸血鬼が攻めて来たとしても時間を稼ぐのだ!」


 聖王ルシウスの言葉に外交官のミゲルが慌ただしく走り出した。


「防御結界を急ぎ構築するのだ。あの宰相め、先んじて防御結界を自国に張るとは、やはり元より戦争する気でいたのだな!」


 魔法使いも聖王ルシウスの指示で急いで部屋の外へと出ていく。

 

「ジェイドよ、吸血鬼の能力はわかるか?」


 問われたジェイドは固まる。

 そういえばノアールはん、姫さんの能力教えてくれへんかったな。

 それに防御結界言うてたけど、アレ、ただの見てくれだけのハッタリやろ。うちにそんな魔力ないで。

 もしかして、全部ノアールはんが仕組んでるんか?


「……僕は知らんのや。直接吸血した姫さんがどうなるのか」

「そうか……。お主のせいではないぞ。よくやってくれた」

 

 聖王ルシウスはジェイドを労る。


「しかし、本当に二時間で終わるのだろうか。我が国の兵士が吸血されたら、さらに時間は伸びるのではないか? ええい、忌々しい吸血鬼め!」


 その疑問は尤もや。

 ノアールはんが言った最強が意味することも何かわからへん。

 姫さん、お願いやから今来んといてな……。

 

 聖王ルシウスは、苛立ちながらも素早く部屋を出て行った。

 密偵ルシルもジェイドを気遣った後、ルシウスを追って部屋を飛び出して行った。


 ジェイドは力なく起き上がり、俯きながら呟く。


「あーもうあほらし。やっとれんわ。アホ犬連れて早よぉこの国出よ」


 ジェイドは少し自暴自棄になった。


 ******



 同時刻。

 ローズ王国の執務室にてシャルロッテは頭を抱えていた。


 どうすれば、どうすればよろしいのですか!?

 まさか、ユメノさんはPVP勢だったとでも言いたいのですか!?

 ここはもう現実ですのよ!?


 先ほど監視魔法で見た光景が頭から離れない。

 『私が上で、お前が下』

 まるで、ローズ王国とヘキエ王国の行く末のようだった。


 手元にあるユメノからの手紙をもう一度読む。


 "ごめんなさい、よく確認したらこちらも資源がありませんでした。もしよろしければ、大魔境攻略の宿場町として我が国を貸し出しますので、援助していただけませんか?"


 震える手で手紙を見つめた。

 あれほどの魔法を一人で扱える従者に魔力を供給できるほどの魔石を保有し、大陸の覇者となるつもりの国家が本当に支援を求めるほど困窮しているとは思えない。

 つまり資源不足を装って、ローズ王国から継続的に援助を引き出し、こちらの国力を削るつもりだったのでは?

 

 それに、聖マグリッタ王国の使者に混じってヘキエ王国の密偵までもがローズ王国の内情を探りに来ていた。

 あの糸目の男、わたくしを庇ったのではなく、マグリッタに余計な疑念を抱かせないための工作をあの瞬間に企んでいたなんて。

 見た目からして怪しいと思っていたが、やはり仕組まれていた。

 ……どれほどヘキエ王国は優秀な人材が揃っているの?


 勢力拡大に特化したビルド。

 このゲームの課金勢の中でも、交流をせずに他国を侵略することを楽しんでいるプレイヤーがいた。

 特にそういう者は、自身の種族を人外に設定する傾向にあった。


 シャルロッテは思わず爪を噛む。

 獣王国が怪しいと思っていたのに、まさか味方であってほしい人物が敵だなんて。


「シャル。相手は手練です。慎重に動きましょう」


 ローズ王国の宰相が、追い詰められたシャルロッテを優しく宥めた。


 わたくしの従者は至って普通。

 恋愛ゲームとしてストーリーを終わらせたローズ王国は、わたくしを愛し、労わってくれる者しかいない。

 課金勢だけで周りを囲んで安全地帯を作っていた過去と比べても、こんな状況に追いやられるなんて思ってもみなかった。


 ヘキエ王国に恭順を示すか、他国と連携を取り覇権争いに身を投じるか……。

 ここがわたくしの分水嶺ですわ。

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