19話 なんやこのアホ犬、どつくぞ
なんやねん、僕がどれだけ苦労してここにおるんかわかっとるんか?
マグリッタはもう僕のこと深う信頼しとるでええけど、ローズ王国の内情探ろうと着いてきたんが間違いやったわ。
ほら、隣におるシャルロッテ女王の顔見てみぃな。
僕とアホ犬の顔見比べて今にも気絶しそうやで。
しゃあない。
ここは一芝居打つしかなさそうやなぁ。
グレイに向かって棒読みで話しかけてみた。
「なんで追ってきたんや。もう僕はヘキエ王国には帰らんわ」
グレイは驚愕の表情を浮かべている。
なんでやねん。芝居てわかれや。
「な、なぜ……姫様はあなたを必要としています!」
めんどくさ。こいつがノアールはんの差金やとしたら、もう完敗やわ。
こんなアホを狙って送り込む策略、誰が読めるねん。
よう姫さんもあの鬼畜を飼うとるな、尊敬するわ。
「そうやとしてもなぁ……僕はもう、あの国には戻れへんのや。戻ったら、また宰相のノアールはんに何されるかわからへん」
僕の言葉に、シャルロッテ女王がぴくりと反応している。
やっぱりうちの宰相の情報は欲しかってんな。
防諜解いたて聞いてたから、どの国も情報欲しくて覗いとるな。
多分ノアールはん何かする気やで。
グレイは深く頷いた。
「ノアール様はわたくしめのことをゴミとしか思っておりませんが、時々施しをくださいます! それではいけませんか!?」
……あかんわ。誤解深まるっちゅうの。
シャルロッテ女王の顔、引き攣ってるやろ。
このアホ犬と話するだけ無駄やわ。
しゃーないな……。
袖を目に当てて泣き真似をする。
そしたら隣にいる聖マグリッタ王国の外交官ミゲルが、狙い通り僕を心配してきた。
「やはり、ヘキエ王国ではあれほど深く洗脳が行われているのですね。我が国には洗脳を解く魔法使いがおります。あの方も保護いたしましょう」
ミゲルがそう言うと、シャルロッテ女王が目を見開いて絶望したかのように頬に両手を当てた。
「お、お待ちください! わ、我がローズ王国に国際亡命の仲裁をご期待なのかもしれませんが、わたくしは……交易をしたいだけでした……」
尻すぼみに語気が下がっていった。
まぁそりゃそうやろ。可哀想なお嬢ちゃんやわ……。
このアホ犬を黙ってマグリッタに渡してしもたら、ヘキエ王国を裏切ることになるし、かと言って渡さんかったらマグリッタからはヘキエ王国と同族に見られる。
究極の踏み絵やわ。
頭おかしなるで。
袖を口に持っていき、シャルロッテだけに聞こえるように言う。
「嬢ちゃん、気絶しぃ。僕がうまいことやっとくで」
シャルロッテはその言葉を聞いた瞬間に倒れた。
なんや、知らん人間信用しすぎやろ。
心配なるわ。
「シャル!」
側付きの騎士がシャルロッテを抱き抱える。
「今日は暑いでなぁ。はよ涼しいとこ連れてきーな」
騎士はグレイと僕を見比べて、頭を下げた。
「失礼する。なんのおもてなしもできず申し訳ない」
グレイがハッとして手紙を懐から出した。
「これを持って行ってください!! わたくしめの命です!」
何が命や。説明端折りすぎやろ。
この騎士かて驚いとるわ。
グレイが駆け寄って騎士に手紙を無理矢理渡した。
騎士は驚きすぎて言葉もでないのか、手紙を受け取った後、軽く会釈してシャルロッテ女王と共に城の中に入っていった。
「わたくしめの任務はこれにて終了しました! ジェイド、帰りましょう!」
グレイが差し出した手を取り、僕はそのまま引っ張った。
「……ほな、ちょっと着いてきてもらおか。ミゲルはん、忠誠が深いこいつをうまいこと言うて連れていきますわ」
ミゲルは真剣に頷く。
「なんですか!? わたくしめをどこに連れて行くおつもりですか!」
「姫さんのために、聖マグリッタ王国に行くんや。いいか? その方が姫さんは喜ぶよ」
グレイは僕の言葉に目を輝かせ始めた。
単純すぎるやろ……。
「わかりました。ジェイド、早く案内をしてください!」
グレイに頷いてみせて、ミゲルに成功を伝える。
「行く気になったようやわ。早よぉ僕みたいに救われるとええなぁ」




