↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

18/30

18話 はじめてのおつかい

 グレイは馬車の中で最愛の主人からもらった手紙を大事に握りしめていた。


 ローズ王国は馬車で数日の距離だ。

 といっても、この馬車は影馬車といって影の中を走る特殊な馬車なので、実際の馬車で走れば倍の時間はかかるだろう。


 グレイは主人の言葉を思い出す。

 恥ずかしくない真似とは一体なんなのだろうか。

 主人に相応しい自分であるために、できることとは?


 そういえば、転生者会議中に椅子になった際も、わざわざ踵で蹴ってもらえたことを思うと、やはり主人に一番愛されているのは自分に違いない。


 グレイは馬車の中で一人、大きく頷いた。


 ローズ王国に到着した。

 馬車が影の中から浮上し、街並みが見えてきた。

 ローズ王国と言うだけあって、街は薔薇で溢れていた。

 街には活気があり、色とりどりの露店が道の両側に並んでいる。


 ノアールに言わせれば、食料をその場で売り、衣服すら好きに選ばせているような非効率に資源を無駄遣いする国、というやつだろう。

 やはり統治において、ローズ王国は我が国の足元にも及ばない。思い返してみると、ローズ王国の女王はいつも不安そうな顔をしていた。

 堂々としている我が主人を見習ってほしいものだ。


 王城の前で馬車が止まった。

 たくさんの騎士が出迎えにやってきた。

 その表情は皆恐怖が浮かんでいた。

 それもそのはず。主人ですらこの馬車を初めて見た時は、若干引いていたのだから。


 馬の姿はなく、地面に黒い馬の影だけが見える馬車からグレイは堂々と降りた。

 前に出た騎士がグレイの顔を確認し、息を呑んだ。

 他の騎士達も、グレイの顔を見るなり青ざめた。

 会議での勇姿が語り継がれているのだろう。


「……ヘキエ王国の従者の方ですね。本日はどのようなご用件で参られましたか?」


 騎士が震える声で言った。


「わたくしめは、この命より大切な姫様の手紙を預かっております! どうか通していただきたい!」


 この言葉に騎士は目を見開く。


「今日がどのような日かご存知か!?」

「もちろんです! 姫様にとっての吉日です!」

「失礼!」


 血相を変えた騎士は、走って城の中に入って行った。

 グレイも後に続こうとすると、他の騎士に止められた。


「も、申し訳ございません。ご存知の通り、本日は……聖マグリッタ王国より使者が来ております。少々お時間をいただきたく……」


 聖マグリッタ王国。グレイに言わせれば主人を困らせている不届きな国だ。

 我が国に勝手に侵入した挙句、拷問部屋送りとなったことは当然の報いである。

 そして今日、またしてもグレイの邪魔をしている。

 だとすれば、言うことはひとつだった。


「いいえ。わたくしめの使命はこの手紙をいち早くローズ王国の女王に届けること。我が国を優先していただきたい!」


 騎士達は揃って顔を見合わせた。

 ざわざわと騒がしい。統率が取れていないのではないのだろうかと、グレイは眉を顰めた。


「し、しかし! 外交儀礼として……」


 外交儀礼とは何だろうか?

 グレイは顎に手を当て考える。


 城の中に入って行った騎士が慌てて戻ってきた。


「お待たせして申し訳ありません! ひとまずこちらへ移動をお願いしたく!」


 言い終わる前に城の中からシャルロッテ女王と知らない壮年の男性、そして――ジェイドが出てきた。


 ジェイドはこちらを見ると、すぅっと目を細めて袖で口を隠した。

 

「……なんであんさんがおんねん。冗談も大概にしとき」


 グレイは目を見開いた。ついでに足も開いてガッツポーズをした。

 そう、我が主人はジェイドを所望していたことをグレイは思い出したのだ。


 これほどの幸運があるだろうか。

 グレイは満面の笑みを浮かべる。


「ジェイド! 姫様が探しております! 共に帰りましょう!」


 グレイが叫ぶと、全員がジェイドとグレイを見比べた。

 そしてジェイドは――天を仰いで目を閉じた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。