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17話 覗き見

 アイドル王国の国王、キリキリ・イキリトが作った従者は、実は一人だけだった。

 転生者会議で見せた資源不足も嘘だ。他国に寄生されないよう、困窮した国王を演じていたにすぎない。


 キリキリは執務室の椅子に座って、鏡の向こうのヘキエ王国を見る。


「アスーナさん、見てください! 完璧な布陣ですよ!」

「キリちゃん、また見てるの?」


 アスーナも後ろから鏡を覗き込んだ。


「僕、昔から金髪吸血鬼好きなんですよ! しかもあのキャラデザ、SNSフォロワー十万人超えの有名絵師、柚乃先生のなんです! いやぁ、本人? いずれにせよ、あれだけの濃いメンツを作って統率する手腕……彼女欲しいなぁ!」


 早口でオタクのように捲し立てたキリキリに、呆れたようにアスーナはため息をついた。

 そもそも、キリキリはこの王国を柚乃に触発されてネタで作り始めただけだった。


 鏡の中では玉座にユメノが座り、その横には黒髪金眼の妙に色気のある美青年が映っている。

 美青年が長い前髪を掻き上げているのを見て、アスーナが声を弾ませた。


「キリちゃん、あの人かっこいいね!」

「当たり前ですよ、柚乃先生が描くキャラはイケメン美少女で有名なんですから」


 ここ数日、キリキリは暇さえあればこの鏡を覗いていた。


「あの宰相、多分ドS策士ですね。突然玉座の間だけ防諜魔法を解きましたから、見せつけるつもりですよ!」

「……そうなの?」


 アスーナはキリキリの予想が合っているのかわからなかったが、先ほどからあのイケメンがこちらをたまに見ているのが気になった。


『ノアール、グレイ大丈夫かな?』


 ノアールは、チラッとこちらを見てからユメノに対して腰を折る。

 

『殿下、少々髪が乱れておりますよ』

『え?』


 ノアールはユメノの髪を整えている。


『な、な!? いきなり何!?』


 顔を真っ赤にしたユメノが硬直している。

 

『ご安心ください、殿下のお姿が最も美しく映るよう調整しております』


 キリキリは、勢いよく鏡を指差した。


「ほら! 見せつけてきてますよ!」

「仲良しなんじゃない?」

「いえ、違います! あれは主従関係の倒置を他者に見せつけて、愉悦に浸っているんですよ!」


 アスーナは、眉を顰めた。

 キリキリがなぜそこまで確信を持って言えるのか、不思議だった。

 そんなアスーナに、キリキリは力説した。


「ユメノさんが恥ずかしがっているところが、一番完成度が高いんです! 彼女、わざとしてます。やっぱり柚乃先生本人ですよ! 性癖ドラゴン天国作るってSNSで言ってましたから!」

「そうなのかなぁ……?」


 鏡の中で、ユメノはキョロキョロとこちらを探しているようだったが、全くこちらを見つけられないようだった。


「……ドS宰相によるビジュアル管理、国家規模の羞恥プレイの成立。柚乃先生の叡智は計り知れませんね!」


 キリキリが上機嫌に笑う。

 鏡の向こうでノアールもまた、こちらを見て微笑んでいた。


 ******


 ユメノは防諜魔法が解けた時から、ずっと緊張していた。

 まさかプライベートがなくなるとは思ってもみなかったのだ。

 それに、いつあの旗が他国にバレるか戦々恐々だった。

 資源が無さすぎて、旗のデザイン変更すらできないのだから。


「ノアール、これいつ終わるの? 魔力運用ミスってない?」


 ノアールの謎の映え意識のおかげで、私の見苦しい姿を晒さずに済むのはありがたいけど、どこで誰が見ているのか全くわからないのが問題だ。

 もう、正しい王様の演技は疲れた。

 

「この程度で音を上げるとは……。防諜へ回していた魔力は、現在グレイの守護に使用しております。彼が戻るまでは、このままですよ」


 ノアールがあからさまに悲しそうな顔をしている。

 おい、何がこの程度だよ。

 がっかりしました、じゃないんだよ!

 あ、もしかして約束の件心配してたりする?


「このくらいなんてことないよ。余裕余裕。ちゃんと約束は守るから、安心して」


 私の言葉にニヤニヤと口角が上がり始めたノアールは、やっぱり約束の心配をしていたらしい。

 危なかった。約束を守るつもりがないことがバレたらこの国どころか私が終わる。


「姫様ぁ、今日の血はぁ僕のですぅ! あと、文が届きましたよぉ」


 ブランが血と文を同じトレイに乗せてやってきた。

 ……血より文の方が重要じゃない?


 私の前で跪いたブランのトレイからグラスを取って血を飲む。

 あれ? 今日はカルーアじゃない。


「味違うんだけど……」


 そう言うと、ブランがパァっと笑顔になった。


「わかりますかぁ? 整えてきましたぁ!」


 …………。

 どう整えたか聞きたくないなぁ。

 なんでカルーアがカシスオレンジになってるんだよ。

 怖いよ。


「……が、頑張ったね。これも美味しいけど、無理はしなくていいよ」


 ブランの頭を撫でた。

 当のブランはノアールを見てほくそ笑んでいる。

 なんなの? そこ敵対してるの?


「姫様ぁ、僕嬉しいですぅ!」

「そ、そう……」


 グラスを返して、文を取る。

 広げて、一文一句逃さないように二回読み込む。

 さらにもう一度読もうとして、私は前を向いた。


 ブランが可愛らしい笑顔でこちらを見ている。

 横にいるノアールを見ると、目を細めて見透かしたような笑みを浮かべている。


 口をぱくぱくさせて、言葉を探す。

 なんと言えばいいだろう。

 だが、他国に見られている状況で取り乱すことはできない。

 私は王様失格かもしれない。

 

「……ねぇ。グレイ、捕まっちゃった……」

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