13話 この国終わってるよ1
魔石の間。
この城の地下にある、魔力貯蔵施設だ。
中央の大きな金属の輪っかの中に、水晶のような握り拳大の魔石がくるくると回りながら浮かんでいた。
本来ならここには背の丈以上の大きな魔石が浮かんでいるはずだった。
「の、ノアール、状況を説明してくれ」
私は振り返って、付き従っていたノアールを見た。
まるで焦った様子はなく、至って普通だ。
「我が国の魔石は、収支が相殺され現状維持を継続しております」
おい、それは何かあったら終わりってことじゃないか!!
この魔石がなくなったら、私は死ぬんだぞ!?
「もしかして……飛ばされてすぐに状況確認に行ったやつが響いてるんでしょ!?」
世界に分身を放って、情報取りに行ったやつ!
普通、ゲームを始めたばかりの初期魔石は多少ボーナスがあって、数ヶ月は持つようになっている。
なぜなら、魔石は課金石みたいなもので食料や燃料に代替可能な万能資源だからだ。
「殿下。あの時点で世界を把握することは、必須事項でした」
ちょっと待て。だからと言ってボーナス資源を初手で溶かすか!?
思い切りが良すぎだろ!
「ちょっと収支報告書を確認させて」
「執務室にございますよ」
私は踵を返して魔石の間を出ようとすると、隣にいたブランが不安そうにこちらを見つめているのに気付いた。
「ブラン、心配しないで。なんとかするから」
「姫様ぁ」
ブランの頭を撫でると、頬を赤らめて気持ちよさそうに擦り付けてきた。
可愛い。小動物みたい。
破綻させるわけにはいかない。
私がちゃんとしないと。
***
執務室に行くと、グレイが窓を掃除をしていた。
こいつ、頭がおかしいこと以外は勤勉なんだよなぁ。
悪いやつではないことは確かなんだけど……残念というか……。
「グレイ、お疲れ様。飲み物入れてきて」
「はい!!」
グレイは元気よく返事をして取りに行った。
ブランもそれを見て、迷いながらも後を追いかけて行った。
対抗意識燃やしすぎだろ。
「殿下、こちらが我が国の現状です」
椅子に座った私に、ノアールは資料を渡してくれた。
なになに。
まず供給は自国内の魔石採掘場から。
これはどの国にもある最低限の設備だ。
「この、臨時供給源って何?」
資料を指差す。
明らかに自国の魔石採掘場より供給量が多い。
「国境近くの採掘場から拝借しております」
拝借? ……嫌な予感がするんだが。
ノアールを見ると、にこやかに微笑んでくれた。
違う、そうじゃない。
「ねぇ、それって盗掘って言わない?」
「いいえ。正確には無認可採掘と言うべきです。この土地は緩衝地帯ですし、お相手方も無認可でしたので、実質的には無法地帯かと」
待て待て。お互い勝手に採掘してるから大丈夫、じゃないんだよ!
これ、揉めるやつじゃん!
「地図! お相手はどこの誰!?」
ノアールが本棚から世界地図を取り出す。
「隣国、聖マグリッタ王国です」
ノアールが指でヘキエ王国より西にある王国をトントンとつついた。
世界地図を見ると、ヘキエ王国は大陸最南端、大魔境の入口を塞ぐように位置していた。
そして、その大魔境に隣接する形で魔石採掘場があった。
なるほど、大魔境は色んな資源が豊富だけど危険な魔物が多い。
この場所にある採掘場だと大魔境の魔物の影響も強そうだ。
ノアールがさらに資料を渡してきた。
これは、魔物を排除して採掘路を開拓した記録だ。
聖マグリッタ王国のここでの月間採掘量は三割が魔物の襲撃により失われ、作業員の死亡率も高かったのに、ノアールが一週間で改善したと書いてある。
いや、ノアール有能か!?
「それより、なんで聖マグリッタ王国の月間採掘量がわかってるんだよ」
「参考資料が欲しかったので、気付かれぬように現地にて複製、拝借いたしました」
……それは犯罪だねぇ!
ようやく、名前がつきそうな犯罪が出てきたよ!!
むしろそれ以外で犯罪してないのがすごいよ。
ノアールは少し恥ずかしそうに目を逸らしている。
ん?
ちょっと待って。
別に参考資料がなくてもノアールなら月間採掘量なんて計算できる。
「これ、別に盗む必要なかったよね?」
「正確な評価には比較対象が必要です」
……え、つまり褒めてほしくて盗んだの!?
成果をアピールするために!?
私は褒めるべきか少し悩んで、目を閉じて悩む。
褒めて欲しいからって、やっていいことと悪いこと、あると思う。
「……すごいと思うよ? これだけのことを一人でやるのは、私じゃ無理だし。けどさぁ……なるべく犯罪しないでほしいなぁ……」
「善処いたします」
ノアールを見ると、少し嬉しそうに口角を上げていた。
絶対やる。こいつなら絶対にまたやる。
「もういいや。次は支出か……」
最初の資料に目を通すと、食費、燃料費、その他警備や施設運営費が並んでいる。
……数字上は本当にプラマイゼロだ。
食料自給や燃料の足りない分が魔石で帳消しになっている。
いや、待て。
数字が完璧すぎて逆に不安になってきた。
そういえば、私の国民はノアールの傀儡らしいけど、具体的には?
「ちょっと街に出て確認していい?」
「ええ。視察ですね」
ちょうどグレイとブランが戻ってきた。
まだ扉も開けてないのに声が聞こえてくる。
「グレイッ! その量はバレるだろ!? 一滴でいいんだよ!」
「姫様は飲み物とおっしゃいました。であれば血でもいいはずです!」
……なんの喧嘩だよ。
さっき吐いたのになんで血を持ってくるんだ。
「ノアール、面倒だから一日一人で血のローテーション組んで」
「……承知いたしました」
私が執務室の扉を開けると、外ではブランがグラスをスカートの中に入れて証拠隠滅を図っていた。
知らないふりをして声をかける。
「はいはい、そこまで。街に行くから支度してね」
ブランは嬉しそうに目を輝かせた。
「姫様ぁ、僕が姫様をおめかししてもよろしいですかぁ?」
「……まぁいいけど」




