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12話 おじさん

「姫様ぁ、お背中さすりますねぇ」


 こちらを見ているおじさんを無視して、ブランが私の背中をさすってくれている。

 ブランの中では完全におじさんは空気扱いだ。


「まっ、おじさん、おぇッ」


 手でおじさんからの視線を遮るも、全く意味がない。

 吐くとこ見られてるの嫌なんだけど!?

 誰だっけコイツ。

 医者で作ったキャラ……。

 思い出した!


「スート・ヴェイン……! おぇ!」


 また吐いてしまった。

 ここの空気が煙臭いせいな気がする。

 

「おじさん、傷付いちゃうなぁ……」


 そう言いつつ、それでもスートは寝転がるのをやめない。

 声とは違って全然傷付いてなさそうな態度だ。


 たしか性癖設定はダウナー喫煙おじさん医師だった気がする。

 お前がウイスキーの持ち主だな!?


「スートおじさん、黙っててくださぁい」

「ブランちゃん……ここ、おじさんの部屋なんだけど……」


 やっと吐き気が落ち着いてきた。


「おじさん、あっち向いてて」


 私は壁の方を指差した。

 スートは眉を顰めて私を見ている。


「ユメノちゃん、ちゃんぽんしたでしょ。血は混ぜちゃダメだよね〜」


 医師らしいことを言ってるけど、動く気がない。

 水くらい汲んできたらどうなんだ。

 やる気を全く感じられないんだが?


「あの量でっ、吐くことに、なるなんて……」


 昔の私なら考えられない。

 だって、リキュールグラスにちょっと入ってるだけだよ?


「あのねぇ、酒と一緒にしちゃダメ。特にさぁ、ノアール君のは濃いから……。グレイ君、おじさんのも持って行ったの、びっくりしたよねぇ」

「スートおじさん、見てたなら止めてくださいよぉ〜」


 ブランの言葉に、スートはため息をついた。


「おじさん、そこまでやる気ないんだよねぇ……」


 哀愁が漂っている。

 声が中村悠◯なのに、弱そう。


「もしかして、みんなここで採血してる……?」

「そうですよぉ。ジェイド様以外は、皆さんここで一度だけ健康診断を受けていますぅ」


 私の職場、健全だった!?


「ノアール君がさぁ、やれって言うから……。面倒だよねぇ」


 健康診断くらいは医師としてやってほしい。

 

「姫様ぁ、お水どうぞぉ」

「ありがと」


 ブランに渡された水を飲み干す。

 

「ふぅ、まさか吐くとはなぁ……」

 

 吸血鬼として欠陥じゃない?


「ユメノちゃん、生命維持の保存血は一日一人まで。血を操りたい時にもう一人分。直接吸血なら、無制限なのにさぁ……。おじさんの手間、考えて欲しいなぁ……」


「う……ごめん、おじさん……」


 いや、働いてよ。

 憐憫を感じさせないでよ。

 ブランがしれっと飲んだグラスと吐いたバケツを持って外に出ていった。

 ちらっとブランが出ていくのを確認したスートが、私の腕を指差す。


「あと、ユメノちゃん……右腕出して」

「?」

「袖の下。自分で噛んだでしょ」


 言われて、今朝の噛み跡の事を思い出した。

 今日はまだ誰にも腕を見せてないのに。

 

 スートがむくっと起き上がって、だるそうに診察机の前にある椅子に座った。

 そしてピンセットとわたを取り出す。


「おじさんさぁ、怪我とか体調不良はすぐわかるんだよね……」

「こんなの、何もしなくても治ると思うけど」


 私もスートの前の椅子に座る。

 袖を捲って、腕を出した。

 血は固まっていたが、痛そうな噛み跡が残っていた。

 スートの温かい手が私の腕を掴む。


「あのねぇ、吸血鬼の噛み跡は、なかなか治らないもんなんだよね〜」


 消毒と、包帯を慣れた手つきで巻いてくれた。


「おじさんは魔法使えないの?」


 回復魔法使えばすぐ治りそうだけど。

 というか、ウイスキーの時点で魔力高そう。

 

「……魔力はさぁ、体から抜けると魔石から補填しなきゃだめでしょ? でもこの国にある魔石はさぁ……ノアール君が全て管理してるんだよねぇ……」


 まじかよ、ノアール!

 インフラ牛耳ってるじゃねぇか!!

 こんなことをしている場合じゃない。

 やっぱり内政やばいのか!?


「おじさんごめん、そこのところ今からノアールと話し合ってくる!」


 魔力は資源だ。

 国の中枢にある魔石の大きさで、だいたいこの国の豊かさがわかる。

 すぐに確認に行かなければ!


 立ちあがろうとしたら、スートが私の腕を少し強く握った。


「ねぇ、ユメノちゃん。気をつけなよ? ノアール君は、君が思う以上に――厄介だから」


 スートは一瞬真面目な顔になって、そしていつものだるそうなおじさんになった。


「それはどういう……」

 

 キィと戸が開く音がして、ブランが帰ってきた。

 

「姫様ぁ、汚物処理終わりましたぁ。こんな煙臭いところ早く……どうしたんですかぁ?」

 

 スートは私の腕から手を離して、手を振った。


「またね、ユメノちゃん」

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