第68話 大奥様の尋問
しばらくして、エリオとノルンも着替えを終えて部屋へ戻ってきた。
ノルンは落ち着いた色合いの服に替わっても、いつもとほとんど変わらない顔をしている。一方のエリオも服そのものを着慣れていない様子はなかったけれど、先ほどから襟元を気にしたり、何となく肩を動かしたりしていて、アリアには少しだけ居心地が悪そうに見えた。
「これで全員ですね」
ノルンが部屋を見回した途端、待っていましたとばかりにアリアが立ち上がる。
「じゃあ、ごはん!」
「なの!」
足元のマルルまで、ほとんど同時に長い耳を揺らした。
「お前ら、そこだけは元気だな」
エリオが笑う。
「だって、お腹すいたもん」
「マルルもなの!」
「昼もいっぱい食べてただろ」
「お昼はお昼なの」
「そうだよ。今は夜だよ?」
「お前まで乗るなよ」
エリオが呆れたように息を吐いたけれど、アリアにしてみれば、昼ごはんを食べてからずいぶんいろいろなことをしたのだ。
馬を見て、馬車に乗って、途中で少し眠って、新しい町へ着いて、初めて見るような服まで着た。その間にちゃんとお腹は空いたのだから、夕食を楽しみにするのは当たり前だった。
「ほら、行くぞ」
「うん!」
◇
夕食が用意されていたのは、これまで泊まってきた宿の食堂とはずいぶん違う部屋だった。
大きな卓には真っ白な布が掛けられ、灯りを受けた食器が整然と並んでいる。アリアはセレフィナに案内された席へ座ったものの、料理が運ばれてくるより先に、皿の両側へ並んだたくさんのナイフやフォークが気になった。
右にもある。
左にもある。
しかも一つではない。
どれも同じように見えるものもあれば、少しだけ形や大きさが違うものもある。
アリアはしばらく左右を見比べたあと、隣のルカへ小さく顔を寄せた。
「ルカ、どれ使うの?」
ルカも自分の前を見てから、少し声を落とす。
「外側から」
「ほんと?」
「……たぶん」
「たぶんなの?」
それでは安心できない。
アリアがますます困った顔をすると、向かい側から小さな笑い声が聞こえた。
「分からなければ、聞けばよろしいのですよ」
セレフィナだった。
それなら、とアリアは一番外側にある匙へ手を伸ばした。
「じゃあ、セレフィナおばあちゃん。これ?」
「ええ。それで合っています」
「ルカ、合ってた!」
「だから言ったでしょ」
「たぶんって言ったよ?」
「合ってたからいいの」
ようやく安心したアリアは、これで食べられると匙を握った。
ふと横を見ると、ノルンは何の迷いもなく自然に食事を始めている。エリオも同じで、どの食器を使うのか確かめる様子さえない。
すごいな、とアリアは思った。
自分にはどれがどれだか分からなかったのに、二人には当たり前のことらしい。
けれどその時、向かいにいるセレフィナの視線が一瞬だけエリオの手元で止まったことには、アリアはまったく気づいていなかった。
◇
「おいしい!」
スープを一口飲んだ途端、アリアは思わず顔を上げた。
「それはよかったわ」
「ルカも食べて!」
「食べてるよ」
「おいしい?」
「うん」
「おいしいね!」
「そうだね」
同じものを食べているルカもおいしいと分かれば、それだけで満足だった。アリアはまた匙を持ち、今度はさっきより少し落ち着いてスープを口へ運ぶ。
最初こそ並んだ食器の多さに困ったけれど、一つ分かれば何とかなるような気がしてきた。
しばらくして次の料理が運ばれてくると、それまで足元で静かにしていたマルルの耳が、皿を見るより早くぴんと立った。
「お魚なの!」
「やっぱり」
ルカが笑う。
「さっきまで大人しかったのに」
「お魚が来たなの!」
「見れば分かるよ」
マルルの前にも、小さく分けられた魚の皿が置かれる。
「いただきますなの!」
待ちきれないように顔を寄せかけたところで、ノルンの手が静かに止めた。
「待ってください。まだ熱いですよ」
「なの!?」
マルルは魚のすぐ手前でぴたりと止まり、もう一度皿を見た。
「少し待ちましょう」
「待つなの……」
仕方なく座り直したものの、視線は一度も魚から離れない。
ルカがしばらくその様子を眺めたあと、とうとう言った。
「そんなに見ても早く冷めないよ」
「ルカ」
「なに?」
「今、忙しいなの」
「何が?」
「待ってるなの」
「それ、忙しいの?」
アリアは吹き出した。
セレフィナまで口元へ手を添えて笑っている。
知らない食器が並び、いつもとは違う服を着て、宿の食堂とはまるで違う部屋で食事をしている。それでも、ルカとマルルが話しているのを聞いて笑ってしまえば、さっきまで少しだけ感じていた緊張はいつの間にか消えていた。
ルカがいる。
ノルンもいる。
マルルがいて、エリオもいる。
向かいには、昨日知り合ったばかりなのに、もうすっかり「セレフィナおばあちゃん」になった人がいる。
場所が違っても、一緒にいる人たちが同じなら、それほど困らないのかもしれない。
◇
食事が半ばまで進んだ頃、小さな音が部屋へ響いた。
からん。
給仕の一人が、手にしていたスプーンを落としたのだ。
「あっ」
アリアは反射的にそちらを振り返り、ルカも同じように顔を向ける。
「申し訳ございません」
給仕はすぐに身をかがめてスプーンを拾った。
「大丈夫?」
アリアが尋ねると、給仕は少し驚いたあとで微笑んだ。
「はい。ありがとうございます」
「よかった」
怪我をしたわけでもなく、何かが壊れたわけでもない。それが分かれば、アリアにはもう十分だった。
安心して自分の料理へ戻ったので、その時エリオが何をしていたのかまでは見ていなかった。
けれど、セレフィナは見ていた。
音がした瞬間、エリオが最初に見たのは落ちたスプーンではなかった。
まずアリアへ視線を向け、次にルカとノルンを確認し、三人に何も起きていないことを見てから、ようやく給仕の方へ目を向けた。
ほんの一瞬のことだった。
本人自身、意識して動いたわけではないのかもしれない。
セレフィナは何も言わず、ただその様子を覚えておくように一度だけエリオを見てから、静かにカップへ口をつけた。
◇
食事が終わる頃には、アリアのお腹はすっかり満たされていた。
「お腹いっぱい……」
満足して息を吐くと、すぐ隣からルカの声がする。
「食べすぎだよ」
「ルカもいっぱい食べたよ?」
「アリアほどじゃないよ」
「マルルもいっぱいなの……」
足元を見ると、マルルまでいつもより丸くなったように見える。
「マルルは魚ばっかりだったじゃん」
「お魚は大事なの」
「何が大事なの?」
「お魚なの」
「答えになってないよ」
そんなやり取りをしているうちに、食後の飲み物が運ばれてきた。アリアたちの前へ置かれたのは、ほんのり甘い香りのする温かな果実の飲み物だった。
一口飲んだアリアは、すぐに目を丸くする。
「甘い!」
「おいしいなの!」
「さっき、お腹いっぱいって言ってなかった?」
「飲み物は入るよ?」
「マルルも入るなの」
「どこに入ってるんだよ……」
ルカが呆れている。
アリアがもう一口飲もうとした時、向かいにいたセレフィナが静かにカップを置いた。
「ところで、エリオさん」
「はい?」
「少し、お話を伺ってもよろしいかしら」
「ええ。もちろん」
呼ばれたエリオは、いつものように軽く笑っていた。セレフィナも微笑んでいるので、最初はアリアも何でもない話が始まるのだと思っていた。
「あなたは、行商人でしたわね?」
「ええ」
「どのくらいになるの?」
「さて。何年かは」
「何年か?」
「いちいち数えてませんからね」
「そう」
ここまでは普通だった。
アリアも果実の飲み物を口へ運びながら、二人の話を何となく聞いていた。
「普段は何を扱っていらっしゃるの?」
「いろいろですよ。町によって売れるものは違いますから」
「たとえば?」
「布だったり、日用品だったり。向こうで安く仕入れて、別の町で売れそうなものがあれば、それも」
「なるほど」
セレフィナは一度頷いてから、何気ない調子のまま続けた。
「ずいぶん身軽な行商人ですのね」
その時だった。
アリアにはなぜなのか分からなかったけれど、エリオの返事がほんの少しだけ遅れた。
「荷物のことですか?」
「ええ」
「今回は仕入れの途中なんですよ。売る物を抱えて歩いている時ばかりじゃありませんから」
「それはそうですわね」
セレフィナはあっさり頷いた。
アリアは少し拍子抜けした。エリオが一瞬止まったので何かあるのかと思ったけれど、どうやらそれで終わったらしい。
ところが、セレフィナはすぐに別のことを尋ねた。
「では、この辺りの相場は?」
「……何のです?」
「そうね。布でよろしいわ」
「種類によりますよ」
「では麻布」
また、ほんの一瞬だけエリオが止まった。
「ここから南へ行けば、どのくらい変わるのかしら」
「それも町によりますね」
「では、どの町なら?」
今度は、すぐに答えが返ってこなかった。
アリアは果実の飲み物を口元まで運んだまま、エリオとセレフィナを交互に見た。
さっきまでなら何を聞かれても、エリオはすぐに何か返していた。それなのに今は、ときどきほんの少しだけ止まる。
何を聞かれて困っているのかまでは分からない。
けれど、二人がただ世間話をしているのではないことだけは、アリアにも少しずつ分かってきた。
「セレフィナおばあちゃん」
「なあに?」
「エリオお兄ちゃんに、いっぱい聞くね」
「ええ」
「なんで?」
「少し気になっていることがあるの。それを今、確かめています」
「ふうん」
分かったような、まだよく分からないような。
でもセレフィナが何かを確かめているなら、もう少し聞いていれば分かるかもしれない。
アリアがまたカップへ口をつけると、エリオが苦笑した。
「助けてくれないのか?」
「なにを?」
「……何でもない」
本当に何を助ければいいのか分からないので、アリアは首を傾げただけだった。
「それで?」
セレフィナは何事もなかったように続ける。
「南のどちらへ?」
「まだ決めてませんよ」
「行商人なのに?」
「行商人だからですよ。売れそうなところへ行くんです」
「なるほど」
セレフィナはしばらくエリオを見たあと、素直に頷いた。
「では、これは私の負けですわね」
「勝ち負けだったんですか?」
「今のところは」
「今のところ?」
エリオの眉が少し動く。
「商売のことは、私よりあなたの方がお詳しいでしょうから」
「でしょうね。一応、商人ですから」
「ええ」
セレフィナはゆっくりお茶を口へ運んだ。
「一応」
たった一言だったのに、エリオが黙った。
その顔をルカがちらりと見る。
アリアにも、ようやく少し分かった。
セレフィナはエリオの答えそのものより、答える時のエリオを見ている。
「では、別のお話をしましょう」
「まだ続くんですね」
「嫌ならやめますよ?」
エリオは一瞬考えてから、首を横へ振った。
「いや。ここでやめられる方が怖いんで、続けてください」
「賢明ですわね」
「やっぱり怖いな、この人……」
「何か?」
「何でもありません」
ルカが横で小さく笑った。
◇
「あなたは、この部屋へ入った時、最初に何をご覧になった?」
セレフィナが尋ねた。
「何って……」
エリオは辺りを見回したものの、すぐに肩をすくめた。
「覚えてませんよ」
「私は覚えています」
「でしょうね」
「扉です。正確には、出入口」
そこで、それまでエリオの顔に残っていた軽い笑みがほんの少しだけ薄くなった。
「それが?」
「別に。旅をする者なら、出入口を確認することくらいあるでしょう」
「なら」
「でも、あなたは窓も見た。給仕が出入りする扉も」
エリオはすぐには返さなかった。
「……よく見てますね」
「ええ」
「元辺境伯夫人っていうのは、そんなことまで見るんですか?」
「必要でしたから。人を見ることも、人に見られていることへ気づくことも」
そこまで言ってから、セレフィナは少しだけ目を細めた。
「あなたもでしょう?」
エリオは答えない。
アリアは二人の顔を見比べた。
さっきまでと同じように静かに話しているだけなのに、何となく声を挟まない方がいいような気がしてきた。
それでも、セレフィナの話はまだ終わらなかった。
「先ほど、給仕がスプーンを落とした時のことも覚えています」
その視線がアリアへ向く。
「あなたは音のした方より先に、アリアを見ました」
「え?」
今度はアリアがエリオを見る。
「次にルカ。そしてノルン。三人に何も起きていないことを確かめてから、ようやく給仕の方を見た」
ルカの表情も変わった。
ノルンだけは、何も言わず静かにセレフィナを見ている。
「それは……」
「心配だった?」
「そうですよ」
今度のエリオは、迷わなかった。
「俺はこの子たちと旅してるんです。何かあれば見るでしょう」
「ええ。私もそう思います」
「なら」
「一度なら」
そこで、エリオがまた黙った。
「街道でも同じでした。御者が倒れていた場所へ戻ってきた時、あなたは御者を見るより先に、その周囲を確認した」
「人が集まってましたからね」
「そうですわね」
「旅をしていれば警戒くらいしますよ」
「ええ」
セレフィナは、エリオの言うことを一度も否定しなかった。
けれど、そのたびに別のことを一つずつ重ねていく。
アリアには難しいことは分からなかったけれど、エリオが言い訳をするたび、かえって少しずつ逃げる場所がなくなっているように見えた。
「一つ一つなら、どれもおかしくありません。けれど、出入口を確認し、人の動きを見て、物音に反応し、何かあれば自分より先に同行者の安全を確かめる。それをあなたは、そのたびに考えてからしているわけではないでしょう?」
エリオの指が、いつの間にかカップの取っ手から離れていた。
「身体が勝手に動いている」
さっきまで柔らかかったセレフィナの声から、ほんの少しだけ笑いが消える。
「訓練を受けた方の動きですわ」
「くんれん?」
とうとう我慢できなくなって、アリアが口を挟んだ。
「ええ」
「何の?」
けれどセレフィナは、まだ答えなかった。
まっすぐエリオを見ながら、今度は別のところへ視線を落とす。
「それに、一番分かりやすいものが残っています」
「……まだあるんですか?」
「ありますよ」
「何です?」
「あなたの手」
エリオが自分の手を見る。
つられてアリアも見た。
荷物を持ってくれた時にも、頭をぽんとされた時にも見ている、いつものエリオの手だ。アリアには何が違うのか、まるで分からない。
「手?」
「ええ。商人の手にも、もちろん硬いところはできます。荷を運び、縄を扱い、馬車を使うのですから」
「でしょう?」
「でも、あなたの手は違います」
その言葉で初めて、エリオの目がはっきりと細くなった。
「どこが?」
「硬くなっている場所です。あれは荷を運ぶだけでできるものではありません」
セレフィナは静かに言った。
「剣を握る者の手ですわ」
部屋が、しんと静かになった。
エリオも今度ばかりはすぐに言葉を返さない。
「剣?」
アリアは驚いてエリオを見た。
「エリオお兄ちゃん、剣使えるの?」
「…………」
「使えるの?」
「まあ」
「すごい!」
「アリア」
「なに?」
「今はちょっと静かにしててくれるか?」
「なんで?」
「俺が困ってるから」
「分かった!」
アリアは素直に口を閉じた。
そして、そのままじっとエリオを見る。
「…………」
「見なくていいよ」
「静かに見てるだけだよ?」
「そういうことじゃないんだよな……」
その様子を見ていたルカが、小さく息を吐いた。
「もう諦めた方がいいんじゃない?」
「お前まで言うのか?」
「だって、セレフィナ様、たぶんもう分かってるよ」
「……私もそう思います」
ノルンまで静かに加わった。
「ノルン?」
「はい」
「俺の味方いないの?」
「マルルがいるなの!」
足元から、白い前足がすぐに上がる。
「お前は俺の味方なのか?」
「エリオの味方なの!」
「ありがとな」
「お魚くれたからなの!」
「理由が軽いな!」
とうとうアリアが吹き出した。
ルカも笑い、さっきまでぴんと張っていた空気がほんの少しだけ緩む。
けれど、セレフィナはそこで終わらせなかった。
「それで?」
笑いが収まるのを待ってから、またエリオへ向き直る。
「剣を扱う訓練を受けている。周囲を警戒することが習慣になっている。そして何かあれば、自分より先に守る相手を見る」
一つずつ重ねてから、ほんの少しだけ間を置いた。
「それでも、ただの行商人だと?」
エリオはしばらく何も言わなかった。
何か返そうとしているようにも見えたけれど、結局うまい言葉は見つからなかったらしい。やがて諦めたように背もたれへ身体を預け、大きく息を吐いた。
「……参ったな」
「何が?」
アリアが聞く。
「このおばあさん、怖い」
「怖くないよ?」
「アリアにはな」
「エリオさん」
「はい」
「誤魔化さない」
「……はい」
返事がさっきより明らかに早い。
ルカがすぐに気づいて笑った。
「エリオお兄ちゃん、昨日より返事早くなってるよ」
「うるさい」
アリアもつられて笑ったけれど、セレフィナの表情が少し変わると、自然と口を閉じた。
「別に、あなたの秘密を暴きたいわけではありません」
「……そうなんですか?」
「ええ」
「今までのは何だったんです?」
「確認です」
「十分、暴きに来てましたけど」
「ですが、この子たちと一緒に旅をしている以上、あなたが何者なのか。そして、何のためにこの子たちのそばにいるのか。それだけは知っておきたいのです」
今度の声には、さっきまでとは違うものがあった。
セレフィナはアリア、ルカ、ノルンと順番に見てから、最後にエリオへ視線を戻した。
その時になって、アリアにも少しだけ分かった気がした。
セレフィナおばあちゃんは、ただエリオを困らせたくて、こんなにたくさん質問しているわけではない。
自分たちと一緒に旅をしている人が、本当に大丈夫な人なのか。
それを知ろうとしているのだ。
昨日知り合ったばかりの自分たちのことを、心配してくれている。
アリアがそう気づいた時、エリオの表情からもいつもの軽い笑みが消えていた。
「もし」
少し考えてから、エリオが口を開いた。
「俺が、この子たちに害をなす人間だったら?」
「馬車から降ろします」
セレフィナは迷わなかった。
「…………」
「場合によっては、それだけでは済ませません」
「セレフィナおばあちゃん強い!」
「アリア、今そこじゃない」
「でも強いよ?」
「そうだけど!」
ルカの声に、とうとうエリオまで笑った。
張っていたものが少しだけ抜けたように姿勢を戻し、それから改めてセレフィナを見る。
「分かりました。全部は話せません」
「ええ」
「でも、この子たちを傷つけるつもりはありません」
エリオは一度、アリアたちへ目を向けた。
「むしろ逆です」
「逆?」
「守りたいと思ってます」
アリアは瞬いた。
「わたしたちを?」
「ああ」
「なんで?」
「なんでって……」
エリオが困ったように眉を下げる。
「一緒に旅してるからだよ」
「そっか!」
「それで納得するのか?」
「うん!」
「……そうか」
エリオは小さく笑った。
アリアには、それで十分だった。
エリオはこれまで一緒に歩いてきた。
困った時には手を貸してくれたし、危ない時にはすぐに声を掛けてくれた。自分たちが見えなくなりそうになれば追いかけてくるし、知らない場所へ行けば、いつも少し離れたところから見ている。
だから「守りたい」と言われても、アリアには少しも不思議ではなかった。
けれど、どうやらセレフィナにとっては、まだ一つ残っているらしい。
「では、もう一つだけ」
「まだあるんですか?」
「最後です」
「本当に?」
「たぶん」
「たぶん!?」
今度はルカまで吹き出した。
セレフィナは涼しい顔のままカップへ指を添え、それからエリオをまっすぐ見た。
「あなたは」
ほんの少しだけ目を細める。
「どこの騎士ですの?」
エリオが、完全に止まった。
それまでなら、何を聞かれても何かしら返していた。
笑ってごまかすこともあったし、別の話へ逃げることもあった。それでも言葉だけは、すぐに出てきた。
けれど今度は、本当に何も出てこない。
「騎士?」
アリアは首を傾げ、ルカも今度ばかりは笑わずにエリオを見る。
「……エリオお兄ちゃん?」
「…………」
「当たってるの?」
返事はなかった。
けれど、アリアにもその沈黙が何を意味しているのか、何となく分かった。
セレフィナの太い眉が、ほんの少しだけ上がる。
そして何事もなかったようにカップを持ち上げ、静かに一口飲んだ。
「どうやら、今度は私の勝ちのようですわね」
★お読みいただきありがとうございます★
ドレスアップした2人と、尋問されたエリオの動画はこちらから
↓↓↓
https://www.instagram.com/reel/DcE0XTpzKTs/?igsh=MTlqNHFsZjIyanh6NQ==&igsi=MTlqNHFsZjIyanh6NQ==




