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森で拾ったのは、半人前の天使でした ― ラグドール一家と小さな天使 ―  作者: くいたん


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第46.5話 王国への報告


 朝の光が、白い城壁を淡く照らしていた。


 女神ルミエラの教えを受け継ぐ国。


 シルネア王国。


 その中心に築かれた王都の大通りを、一頭の黒馬が力強く駆け抜けていた。


 蹄が石畳を打つたび、乾いた音が城下へ響く。


 道を行き交っていた人々が振り返り、露店の店主たちも並べていた品から顔を上げた。


「あれは……」


「西方騎士団長だ」


 濃紺の外套。


 銀色の肩当て。


 黒馬の背で手綱を握る男は、前だけを見据えていた。


 西方騎士団団長、シリル。


 城門を守る衛兵たちが、その姿を認めて一斉に姿勢を正した。


「シリル団長、お帰りなさい!」


 シリルは軽くうなずいたが、速度を緩めることはなかった。


 開かれた門を抜け、そのまま王城の中庭へ入る。


 黒馬が足を止めると、シリルはすぐに鞍から降りた。


「頼む」


 駆け寄ってきた厩番へ手綱を預ける。


 何日も街道を走ってきた黒馬の首筋には、うっすらと汗がにじんでいた。


 シリルはその首を一度だけ撫でると、休む間もなく城内へ向かった。


 歩みは落ち着いている。


 けれど、普段の彼を知る者なら、その足がいつもよりわずかに速いことへ気付いただろう。


 長い廊下ですれ違う騎士たちが、次々と道を開ける。


「団長、お帰りなさい」


「ああ」


 短く返しながら、シリルは歩みを止めない。


 やがて、正面から一人の近衛騎士が歩いてきた。


 シリルの姿を見つけると、すぐに立ち止まって敬礼する。


「シリル団長、ご帰還でしたか」


「陛下はご在室か」


「はい。執務室におられます」


「至急、お目通りを願いたい」


 近衛騎士の表情が引き締まった。


 シリルが帰還の挨拶もそこそこに、至急の謁見を求める。


 それだけで、ただの定期報告ではないと分かった。


「承知しました」


 近衛騎士は深く一礼すると、王の執務室へ向かって足早に去っていった。


     ◇


 王城の執務室には、紙をめくる小さな音だけが流れていた。


 窓から差し込む朝日が、重厚な机の上を照らしている。


 机には、王国各地から届いた報告書や嘆願書が積み重ねられていた。


 その一枚へ目を通していたアルディオン・シルネアは、扉を叩く音に顔を上げた。


「失礼いたします」


 近衛騎士が部屋へ入り、王の前で頭を下げる。


「西方騎士団団長シリルが帰還いたしました」


「至急、ご報告申し上げたいことがあるとのことです」


 アルディオンの手が止まった。


 書類を机へ置き、静かに近衛騎士を見る。


「通せ」


「はっ」


 近衛騎士が退室して間もなく、重い扉が再び開いた。


 シリルは部屋へ入ると、机の前まで進み、片膝をついた。


「ただいま戻りました」


「ご苦労だった」


 アルディオンは椅子へ座ったまま、シリルの姿を見つめた。


 外套には旅の埃が残っている。


 それでも、姿勢に乱れはなかった。


「報告を聞こう」


「はっ」


 シリルは顔を上げた。


「女神様より使命を託された者たちを確認いたしました」


 アルディオンの目が、わずかに見開かれる。


 しばらく、何も言わなかった。


 その手が、机の上で静かに組まれる。


「……女神様は」


 低い声が、執務室へ落ちた。


「何と仰った」


 シリルは一度息を整えた。


「世界をつなぐ鍵を集めてほしいと、託されたそうです」


「鍵は八つの欠片へ分かれ、各地へ散らばっております」


「八つすべてを集めることが、失われた村へ帰る道につながると」


 アルディオンは黙って聞いていた。


「その村は、滅んだわけではないとのことです」


「女神様は、場所がずれ、別の場所へ流されたと仰ったそうです」


「鍵が完成すれば、そのずれた場所を再びつなげられる可能性があると」


 静寂が降りる。


 窓の外から聞こえていた鳥の声が、ひどく遠く感じられた。


 アルディオンは目を伏せ、ゆっくりと息を吐いた。


「女神様が、直々に使命を……」


 信じられないという響きではなかった。


 長く待っていた何かが、ようやく動き始めたことを受け止めるような声だった。


 やがて顔を上げる。


「その者たちについて、詳しく聞かせよ」


「はっ」


 シリルは姿勢を正した。


「最初の一人は、アリア」


「六歳の少女です」


「種族は……天使です」


 アルディオンの眉が、わずかに動いた。


「天使だと?」


「はい」


「幼い白い翼を持ち、飛行することができます」


「地上でラグドール族の夫婦に保護され、その家で兄妹として育ったようです」


 アルディオンは、すぐには言葉を返さなかった。


 机へ置いていた指が、ゆっくりと動きを止める。


「天界の者が、地上でラグドール族の家族に育てられたというのか」


「そのようです」


「本人は空から落ちてきたことは覚えておりますが、その理由については分からないそうです」


「……そうか」


 アルディオンは椅子の背へわずかに体を預けた。


「女神様に仕える使者が、遠い昔に一度だけ地上へ降りたという記録は残っている」


「だが、その使者が何者であったのか、その後どうなったのかは、記録から失われている」


「それに、幼い天使が地上で育てられたという話は聞いたことがない」


 視線を伏せ、しばらく何かを考える。


「その子は、使命を恐れてはいなかったか」


挿絵(By みてみん)


 シリルはアリアの姿を思い出した。


 教会の庭で元気に走り回っていた小さな背中。


 ルカやマルルと並び、旅へ出ると決めた顔。


「不安はあるはずです」


「ですが、女神様との約束を果たし、家族のもとへ帰るため、前を向いております」


「……六歳で、か」


 アルディオンの声が、少しだけ低くなる。


 けれど、哀れむ言葉は口にしなかった。


「次を」


「二人目はルカ」


「八歳のラグドール族の少年で、アリアの兄です」


「ラグドール族……」


 アルディオンの表情が、わずかに和らいだ。


「陛下は、ご存じなのですか」


「名だけはな」


 アルディオンは遠い記憶を探るように、窓の外へ目を向けた。


「幼い頃、祖父から昔話を聞かされたことがある」


「昔話、ですか」


「ああ」


 その口元に、ほんのわずかな笑みが浮かんだ。


「遠い昔、女神ルミエラは、ふわふわとした毛並みの獣をたいそう好まれたそうだ」


「その中でも、ラグドール族の毛並みを特に気に入られた」


「一度でよいから背に乗ってみたいと願われ、ラグドール族の大きな背へ乗り、空の散歩を楽しんだのだと」


 シリルが一度だけ瞬きをした。


「女神様が……ですか」


「子どもへ語る昔話だ」


 アルディオンは小さく笑った。


「どこまで本当のことかは分からぬ」


「だが、ラグドール族が女神様に愛された一族として語られてきたことは確かだ」


 笑みを収め、シリルへ視線を戻す。


「今では、ほとんど姿を見せぬと聞いていた」


「その少年には、一族の力が残っているのか」


「はい」


「ラグドール族特有の力により、大型の猫へ姿を変えることができます」


「大人を背に乗せるほどではありませんが、アリアたちを守れるほどの大きさです」


「また、女神様より授けられた青いチョーカーを常に身につけておりました」


「女神様から、チョーカーを……」


 アルディオンは小さくうなずいた。


「昔話が、まるきり作り話とも限らぬのかもしれんな」


 シリルは何も答えなかった。


 それが本当かどうかを知る者は、ここにはいない。


「三人目はマルル」


「白い垂れ耳を持つ、小さな兎です」


 アルディオンが首をかしげる。


「兎?」


「はい」


「女神様より額に宝石を授けられ、人の言葉を話します」


「また、胸元に世界をつなぐ鍵を持ち、欠片の位置を示す役目を担っております」


 アルディオンはしばらく黙っていた。


「そのような存在は、王家の記録にもない」


「元から言葉を話していたわけではないのだな」


「はい」


「宝石を授かるまでは、普通の鳴き声しか発していなかったと聞いております」


「女神様が、導き手として選ばれたのか」


「おそらくは」


 シリルが答えると、アルディオンはわずかに考え込んだ。


「女神様が何をお考えになったのかは、我々には分からぬ」


「だが、その兎が鍵を預かっていることには、何か意味があるのだろう」


 勝手に答えを決めつけることなく、起きている事実だけを受け止める。


 その声は穏やかだった。


「最後の一人は、ノルン」


 シリルの声に、アルディオンが顔を上げた。


「見た目は10代半ばほどの少女ですが、実際の年齢は不明です」


「古い木箱の中から現れました」


「木箱から?」


「はい」


「本人の記憶と特徴から、種族はハイエルフである可能性が高いと考えております」


 今度こそ、アルディオンは言葉を失った。


「……ハイエルフ」


 その名を確かめるように、ゆっくりと口にする。


 椅子から立ち上がり、机の脇へ一歩出た。


「間違いないのか」


「断定はできません」


「ですが、長い耳と魔力、古い時代の知識を持ち、本人も自らをハイエルフと認識しております」


「ハイエルフは、とうの昔に地上から姿を消したと伝えられている」


 アルディオンは険しい表情で、机の上へ目を落とした。


「王家に残る記録にも、最後に確認されたのは何百年も前とある」


「その少女が、なぜ木箱の中に?」


「分かっておりません」


「本人も、そこだけは思い出せないそうです」


「……天使、ラグドール族、女神様に選ばれた白兎、そしてハイエルフ」


 アルディオンは四人を一人ずつ確かめるように口にした。


「まるで、異なる時代と世界から集められたようだな」


「はい」


「ですが、四名は互いを仲間として認め、共に旅をしております」


 アルディオンはしばらく黙っていた。


「現状を報告せよ」


「はっ」


 シリルは軍人らしい簡潔な口調へ戻った。


「使命を担う者は、アリア、ルカ、マルル、ノルンの四名」


「現在は、グラナへ向かう商隊と行動を共にしております」


「商隊はエッダをまとめ役とし、七名で構成されています」


「加えて、道中で保護したモグラ獣人の少年コルが一名」


「足を負傷しており、商隊の馬車で故郷グラナへ送り届ける途中です」


「西方騎士団からは一名、遠距離からの監視と護衛へ当たらせています」


「子どもたちには、騎士団の存在を知らせておりません」


 アルディオンがシリルを見る。


「なぜだ」


「女神様から与えられた使命を、彼ら自身が果たす必要があると判断したためです」


「危険をすべて取り除けば、彼らの旅を奪うことになります」


「ですが、命に関わる状況では、ただちに介入するよう命じております」


「なるほど」


 アルディオンは小さくうなずく。


「現在地は」


「報告の時刻から見て、本日中にはグラナへ到着しているものと思われます」


「二つ目の欠片は、大地の精霊の体内にあることが判明しております」


「大地の精霊は、古い井戸まで案内すると話したそうです」


「古い井戸……」


 アルディオンの表情が、わずかに曇った。


 何かを思い出したようにも見えた。


 けれど、問い返すより先に、扉の向こうから慌ただしい足音が近付いてきた。


 ドンドンッ。


 先ほどとは違う、強いノックが執務室へ響く。


「陛下!」


「急報でございます!」


 アルディオンの目が扉へ向く。


「入れ」


 扉が開き、近衛騎士が飛び込んできた。


「本日未明、グラナより伝令鳥にて緊急報告が届きました!」


 その後ろには、一人の騎士が立っている。


 伝令鳥が運んできた報告書を胸に抱え、そのまま王の前へ進み出る。


「申し上げます!」


 息を整える間も惜しむように、声を張る。


「地下昇降塔に度重なる停止が発生」


「整備を行いましたが、昼前に完全停止いたしました!」


 アルディオンの顔から、わずかに色が消える。


 伝令は続けた。


「地下都市との通常の往来はすべて停止」


「予備の連絡路も、一部で崩落が確認されております」


「地下から届く合図は次第に弱まり、現在は一部、連絡を取ることができない場所が発生しております!」


 シリルの耳に、最後の言葉だけが重く残った。


「原因は」


 アルディオンが尋ねる。


「不明です!」


「昇降塔の歯車、滑車、綱、いずれにも大きな破損は見つかっておりません!」


「地下河川の水量も調査中ですが、動力が歯車まで伝わらないとの報告です!」


「地上の工房にも、魔道具が不安定になる異常が広がり始めています!」


 伝令はうつむき、拳を握った。


「地下には、まだ多くの住民が残されております」


 執務室が静まり返る。


 伝令は大精霊の存在を知らない。


 昇降塔がなぜ止まったのかも分からない。


 ただ、グラナで実際に起きていることだけを、必死に王へ届けていた。


「分かった」


 アルディオンは静かに答えた。


「よく知らせてくれた」


「下がって休め」


「はっ!」


 伝令と近衛騎士が退室する。


 扉が閉じても、アルディオンはしばらく動かなかった。


 シリルは立ち上がることなく、王の言葉を待つ。


 やがてアルディオンは机へ両手をつき、低く息を吐いた。


「……古い井戸」


 そのつぶやきに、シリルが顔を上げる。


「陛下」


「何か、ご存じなのですか」


 アルディオンはゆっくりとシリルを見た。


「シリル」


「お前は、大地の大精霊という存在を知っているか」


「大地の……大精霊」


 昨日、アリアたちと行動を共にしている大地の精霊が、何者かを「主」と呼んだという報告があった。


 だが、その正体までは分かっていない。


「いいえ」


 シリルは正直に答えた。


「ならば聞け」


 アルディオンは机から離れ、窓辺へ歩み寄った。


「これは、王家へ代々伝えられてきた話だ」


 窓の向こうには、穏やかな王都の景色が広がっていた。


 市場へ向かう人々。


 煙を上げる家々。


 何も知らずに遊ぶ子どもたち。


 アルディオンはその景色を見つめたまま、静かに語り始めた。


「大地の大精霊は、山や岩を動かすだけの存在ではない」


「大地の奥を巡る魔力を整え、山を支え、地下の水脈を守るものだ」


「グラナは、その加護が最も強く現れる場所の一つとされている」


「地上の鉱山都市も、地下で暮らす者たちの町も、大精霊の眠る大地の上に築かれた」


 シリルは言葉を挟まず、耳を傾ける。


「グラナの地下には、巨大な河川が流れている」


「その水は生活を支え、工房を動かし、昇降塔の水車へ力を与える」


「昇降台へ施された古い重量軽減の魔法や、浮遊石の力も、地下を巡る魔力が安定しているからこそ働く」


 アルディオンが振り返る。


「大精霊が目覚めず、その力が弱まり続ければ、まず魔道具が不安定になる」


「浮遊石は重さを支えられなくなり、昇降塔は止まる」


 伝令が届けた報告と、すべてが重なる。


「次に地下河川の流れが乱れる」


「水車は回らなくなり、浄水設備も止まる」


「地下へ水があふれる場所もあれば、逆に干上がる場所も出るだろう」


「地下都市の食料や水も、長くはもたぬ」


 シリルの拳が、膝の上でゆっくりと握られた。


「それだけではない」


 アルディオンの声が、さらに低くなる。


「大地を支える力が失われれば、坑道や地下空洞を保っていた岩盤が崩れ始める」


「最初に失われるのは、地下都市だ」


「その後、崩落は地上へ広がる」


「最悪の場合、グラナの町そのものが、山の内側へ沈む」


 シリルが息をのむ。


 山肌に広がる大きな町。


 地上の工房。


 地下で暮らすモグラ獣人たち。


 そして、その町へ今まさに到着している子どもたち。


「大精霊は、眠りから目覚めることで、乱れた大地の流れを整えると伝えられている」


「だが、目覚めなければ……」


 アルディオンは言葉を区切った。


「グラナに残された時間は、そう多くない」


 執務室に、重い沈黙が降りる。


 シリルはゆっくりと顔を上げた。


「アリアたちは、すでにグラナへ到着しています」


「ああ」


「そして、二つ目の欠片を持つ大地の精霊は、古い井戸へ向かった」


 アルディオンは窓の外へ目を戻した。


「女神様が、この異変をどこまでご存じなのかは分からぬ」


「すべてを見通したうえで、子どもたちを導かれたとも限らぬ」


 少しの間を置く。


「だが、子どもたちが今、グラナにいる」


「それもまた、動かしようのない事実だ」


 シリルは立ち上がった。


「陛下」


「ただちにグラナへ向かいます」


 アルディオンも、まっすぐシリルを見る。


「間に合うか」


「分かりません」


 迷いのない答えだった。


「ですが、参ります」


「命を奪う危険が迫った時に備え、影から見守ると約束しました」


「今が、その時です」


 アルディオンは静かにうなずいた。


「ならば急げ」


「使命を奪ってはならぬ」


「だが、子どもたちだけへ、グラナのすべてを背負わせてもならぬ」


「はっ!」


 シリルは胸へ拳を当て、深く頭を下げた。


 踵を返し、執務室を出る。


 扉が閉じると同時に、その足は走り始めていた。


 長い廊下を駆け抜ける。


 騎士たちが驚いて道を開ける中、シリルは中庭へ飛び出した。


「団長?」


 先ほど黒馬を預かった厩番が、目を見開く。


 黒馬は長旅を終えたばかりだった。


 シリルは一瞬だけその姿を見ると、隣の馬房へ視線を移した。


「一番速い馬を」


「すぐに出せる馬だ」


「は、はい!」


 厩番が慌てて動き始める。


 ほどなくして、一頭の黒鹿毛の馬が引き出された。


 筋肉の締まった脚。


 落ち着かないように地面を蹴る蹄。


 シリルは鞍へ飛び乗る。


「グラナまで、最短ならどれほどだ」


 駆け寄ってきた騎士が答える。


「馬を替えながら休まず走っても、三日はかかります!」


 三日。


 その間にも、地下では異変が広がっていく。


 アリアたちは、すでにその町の中にいる。


 シリルは手綱を強く握った。


「街道沿いの各支部へ伝令を」


「替え馬を用意させろ」


「はっ!」


 王城の門が開かれる。


 黒鹿毛の馬が、地面を蹴った。


 濃紺の外套が大きくはためく。


 城門を抜け、王都の大通りを駆け抜ける。


 人々が道を開ける中、シリルは遠く街道の先を見据えていた。


 小さな天使。


 猫獣人の少年。


 女神様に選ばれた白兎。


 時を越えて現れたハイエルフ。


 もう、ただ遠くから見守るだけでは間に合わないかもしれない。


 馬の首筋へ身を伏せる。


 手綱を握る手へ、自然と力が入る。


(頼む…)


 黒鹿毛は主人の思いに応えるように、さらに速度を上げた。

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