第46話 グラナ到着
三日が過ぎた。
商隊は山を越え、小さな村へ荷物を届けながら、予定どおりグラナへの街道を進んでいた。
そして四日目の朝。
荷馬車は朝露の残る街道を、心地よい音を立てながら進んでいた。
がたん。
ことん。
昨日まで続いていた険しい山道は終わり、車輪はなめらかな街道を軽やかに転がっていく。
「ほんとだ」
アリアが窓の外を見ながら声を弾ませた。
「この前のお山より揺れない!」
エッダが御者台から笑う。
「山を越えたからね。」
「ここからはグラナへ続く街道さ。」
ルカも窓から外を眺める。
道幅は広く、両脇には草原が広がっていた。
向こうからは荷車が一台、また一台とすれ違っていく。
荷台には丸太。
鉱石。
木箱。
今までより、人の往来も多かった。
「あっ!」
コルが身を乗り出す。
「あの荷車!」
荷台を指差す。
「あれ、グラナの荷車だよ!」
荷車の側面には、小さな歯車の紋章が描かれていた。
「知ってるの?」
アリアが尋ねる。
「うん!」
コルは嬉しそうにうなずく。
「鍛冶屋さんの荷車!」
「毎日見てたもん!」
荷車は軽く手を振りながら通り過ぎていく。
御者もコルには気付かず、馬車は街道の先へ消えていった。
「もう近いんだね。」
アリアがぽつりと言う。
「うん。」
コルは小さく笑った。
「もうすぐ帰れる。」
その横顔は嬉しそうだった。
けれど、どこか少しだけ落ち着かないようにも見えた。
◇
昼前。
街道は少しずつにぎやかになってきた。
大きな荷車。
鉱石を積んだ馬車。
背の低いドワーフたちが行き交っている。
「こんにちは!」
アリアが元気よく手を振る。
ドワーフたちも笑顔で手を振り返した。
「こんにちは!」
「旅かい?」
「気を付けてな!」
町が近い。
そんな空気が街道いっぱいに流れていた。
その中で、一台の荷馬車が道端へ止まっていた。
数人のドワーフが荷台を囲み、困ったように話している。
「また止まったのか。」
「ああ。」
「今日で三回目だ。」
「困ったもんだな。」
アリアは首をかしげた。
「何が止まったの?」
トアも耳を澄ませたが、それ以上は聞こえない。
荷馬車は再び動き出し、そのまま走り去っていった。
エッダが小さくつぶやく。
「何かあったのかねぇ。」
ヴァンも腕を組んだ。
「町が近いから忙しいだけならいいが。」
誰も、その意味は分からなかった。
◇
午後。
街道は緩やかな坂を上っていた。
「もう少しだよ。」
コルが前を指差す。
「あの丘を越えたら見える。」
アリアは待ちきれないように窓へ張り付く。
「まだ?」
「もうちょっと!」
ルカも隣へ並んだ。
馬車はゆっくりと坂を登る。
やがて、頂上へ差しかかった、その時だった。
リン。
マルルの胸元で、小さなコンパクトが開く。
今までよりも強く。
今までよりも深い青い光が、町の方角を真っすぐ指していた。
「カケラなの」
マルルが静かに言う。
ルカは青く光るコンパクトを見つめた。
ようやく着いた。
二つ目の欠片は、この町にある。
でも、まだ取り出す方法は誰にも分からない。
ここからが、本当の始まりだ。
その横で、アリアはコンパクトをそっと両手で包む。
「トカゲさん。」
小さく笑う。
「待っててね。」
「今、行くから。」
けれどその時は、まだ誰も知らなかった。
この町の地下で、静かに異変が広がり始めていることを。
馬車はそのまま坂を下り始めた。
町へ近付くにつれ、金属を打つ音が少しずつ大きくなってきた。
カン。
カン。
カン。
乾いた音が町中へ響いている。
「あっ!」
「鍛冶屋さんだ!」
アリアが目を輝かせる。
「いっぱいある!」
ヴァンがうなずいた。
「ここは王国でも有名な工房の町だからな。」
街道脇には、今まで見たことのない荷車も並んでいた。
長い鉄の棒。
歯車。
銀色に光る鉱石。
丸太ではなく、加工途中の木材。
どれも町へ運ばれていくものばかりだった。
「すごい……」
ルカも思わず見入る。
「こんなにたくさん」
ヴァンは町を見渡しながら続けた。
「道具も武器も、この町で作られたものが多い」
やがて荷馬車は大きな石造りの門をくぐった。
「こんにちはー!」
アリアが元気よく手を振る。
門番のドワーフが笑って帽子を持ち上げた。
「いらっしゃい!」
「商隊かい?」
「はい。」
エッダが御者台から答える。
「いつもの品を届けに来たよ。」
「ご苦労さん!」
門番は大きくうなずいた。
「……おや?」
その視線がコルで止まる。
「コルじゃないか!」
コルも目を丸くした。
「ハルトさん!」
門番は驚いたように門を飛び出してきた。
「無事だったのか!」
「足はどうしたんだ?」
コルは照れくさそうに笑う。
「ちょっとケガしてまだ痛いけど、大丈夫。」
「この人たちが助けてくれたんだ。」
門番は深々と頭を下げた。
「ありがとうございます。」
「この子は町のみんなが心配していたんです。」
エッダがやさしく首を振る。
「無事に送り届ける約束だったからね。」
門番はほっとしたように笑った。
「ご家族にも知らせなくちゃな。」
その言葉を聞いたコルの耳がぴくりと動く。
「お母さん……」
小さくつぶやいた声は、嬉しそうでもあり、少しだけ緊張しているようでもあった。
荷馬車は門をくぐり、町の中へ入っていく。
「わぁ!」
アリアは窓へ張り付いた。
通りの両側には石造りの建物が並び、一階にはたくさんのお店が軒を連ねている。
工具を並べた店。
鍋や食器を売る店。
歯車が飾られた工房。
窓からは金属を削る音が聞こえてきた。
行き交う人の多くはドワーフだったが、時折、人間や獣人の姿も見える。
「にぎやか!」
「ぼく、この通り好きなんだ。」
「学校の帰りによく通ってたんだ。」
コルが笑う。
「あのお店のパン、おいしいんだよ。」
「あっちはね、ゴーグルを作ってるお店!」
アリアは目を輝かせる。
「コルのも?」
「うん!」
コルは額のゴーグルを指で軽く叩いた。
「ぼくのおじいちゃんが買ってくれたんだ。」
その時だった。
カラン。
どこかで鐘が鳴った。
町の人たちが、一斉に同じ方向を見上げる。
「あれ?」
コルも顔を上げた。
通りの先。
建物の向こうに、ひときわ大きな石造りの建物が見える。
高く伸びた塔。
複雑に組まれた木と鉄。
何本もの太い綱。
巨大な歯車。
けれど。
「……動いてない。」
コルが小さくつぶやいた。
周りのドワーフたちも、どこか困ったような表情で、その塔を見つめていた。
アリアは不思議そうに首をかしげる。
「あれ、なあに?」
コルはしばらく塔を見つめたまま、小さく答えた。
「あれは……」
「地下のみんなのおうちへ行くための、昇降塔なんだ。」
お読みいただきありがとうございます♪
AIさん。挿絵でまたやってしまいましたね…
「お判りいただけただろうか……。」
「門番さんは、ヘルメットを二枚重ねで装備していたのである。」
そこまで重装備にしなくてもいいんじゃ?




