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森で拾ったのは、半人前の天使でした ― ラグドール一家と小さな天使 ―  作者: くいたん


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第45話 旅の仲間


 朝。


 小鳥たちのさえずりが、山あいへ気持ちよく響いていた。


 荷馬車の窓から差し込む朝日で、アリアはゆっくりと目を開ける。


「……あさ」


 隣ではマルルが丸くなって眠っていた。


 ノルンはもう起きていて、窓から外を眺めている。


「おはようございます」


「おはよう!」


 アリアが起き上がると、向かいではルカが毛布をきれいに畳んでいた。


「よく眠れた?」


「うん!」


 三人は馬車を降りる。


 朝の空気は少しひんやりとしていて、深く息を吸うと森の香りが胸いっぱいに広がった。


「おはよう!」


 アリアが元気よく手を振る。


「おう、おはよう」


 ヴァンが笑い返す。


「朝ご飯、もう少しでできるよ」


 ロザが鍋をのぞき込みながら声を掛けた。


 モーリの鍋からは、いい匂いが立ちのぼっている。


 昨日と同じ朝。


 昨日と同じ笑顔。


 それなのに、どこか少しだけ違って見えた。


 昨日の夜、自分たちのことを話した。


 誰も笑わなかった。


 誰も疑わなかった。


 ただ、静かに受け止めてくれた。


 ルカは小さく息を吐く。


 昨日話してよかった。


 全部を背負ってもらえるわけじゃない。


 でも、自分たちだけじゃないと思えるだけで、胸の重さは少しだけ軽くなっていた。


 やがて朝食が並ぶ。


 焼きたてのパンと、野菜の入った温かなスープ。


「いただきます!」


 みんなの声が重なった。


 包帯を巻いた足を伸ばしたまま、コルも荷馬車の入口で朝食を食べていた。


 食べ終わると、エッダが地図を広げる。


「順調だね」


 指先が街道をゆっくりとなぞる。


 コルも話を聞きながら、小さくうなずいた。


「このまま進めば、グラナまではあと四日か五日くらいだよ」


「あと四日!」


 アリアが目を輝かせた。


「もうそんなに近いの?」


「山を越えたからね」


 トアが笑う。


「ここからは街道も走りやすくなるよ」


「早く行ってみたい!」


 アリアは嬉しそうにうなずいた。


 その時だった。


「あっ」


 何かを思い出したように、アリアが白いポシェットへ手を入れる。


 ごそ、ごそ。


「これ!」


 取り出したのは、小さなノートだった。


 大切そうに胸へ抱える。


「宝物」


 トアがのぞき込む。


「文字のノート?」


「うん!」


 アリアは嬉しそうにページを開いた。


 一番最初のページには、


アリア


 少しぎこちない自分の名前が書かれていた。


「今日は、新しい文字を書いてみようか」


「やる!」


 アリアはその場へぺたんと座る。


 トアも隣へしゃがみ、小枝で地面へゆっくり文字を書いた。


 グ


 ラ


 ナ


「今、向かっている町の名前だよ」


「グ……ラ……ナ」


「そう。書いてみる?」


「うん!」


 アリアは真剣な顔でノートを開く。


 鉛筆をぎゅっと握り、一画ずつ丁寧に書いていく。


 少し曲がった「グ」。


 少し大きな「ラ」。


 最後に、小さな「ナ」。


「……できた」


 トアが笑う。


「上手!」


 ロザものぞき込み、うなずいた。


「ちゃんと読めるね」


 アリアはノートを胸へ抱きしめる。


「見て! グラナって書けたよ!」


 その声が嬉しそうで、トアも思わず笑顔になった。


「ぼくの町の名前だ」


 コルが照れくさそうに笑う。


「今度はルカね」


 ヴァンが手招きする。


「荷物用馬車に木箱が十八ある」


「前に七箱積んであるとしたら、後ろは?」


 ルカは少しだけ考える。


挿絵(By みてみん)


「……十一」


 ヴァンがにやりと笑った。


「正解」


「やった」


 ルカの尻尾が小さく揺れた。


「旅をしてると、数えることが多いからな」


「少しずつ覚えていけばいい」


「うん」


 二人のやり取りを見ながら、エッダは静かに微笑んだ。


「そろそろ出発しようか」


「はーい!」


 二台の馬車がゆっくりと動き始める。


 車輪が街道を転がり、山の景色が少しずつ流れていく。


 窓から外を眺めるアリアは、何度も自分のノートを開いていた。


 グラナ。


 少し曲がった文字。


 それでも、自分で書いた町の名前だった。


 もうすぐ、その町へ着く。


 そう思うだけで、胸が少し弾んだ。


 荷馬車は、朝の光の中をゆっくりと進んでいく。


     ◇


 昼近くになると、街道は昨日よりなだらかになっていた。


 山肌は少しずつ遠ざかり、木々の間から青い空が広がっている。


 荷馬車は心地よい揺れを刻みながら進んでいた。


「アリア、見てごらん」


 トアが窓の外を指さす。


「あっ!」


 街道脇に、小さな黄色い花が一面に咲いていた。


「きれい……」


「春の終わりになると咲く花なんだよ」


「グラナにもある?」


「あるよ。もっとたくさん」


「ぼくの町にもいっぱい咲いてるよ」


 コルは少しだけ胸を張った。


「楽しみ!」


 アリアは窓へ頬を寄せた。


 その横では、マルルも同じように外を見ている。


「お花なの」


 丸い尻尾が嬉しそうに揺れた。


 荷馬車の前では、ヴァンが歩きながら振り返る。


「ルカ」


「なに?」


「荷物用馬車の樽は六つ」


「片方へ二つ積んだら、反対は?」


「四つ」


「正解」


 ルカは少しだけ笑った。


 前より考える時間が短くなっている。


「慣れてきたな」


「少しだけ」


「焦らなくていい。毎日一つ覚えれば十分だ」


「うん」


 その様子を見ていたエッダが、小さく笑う。


「急ぐだけが旅じゃないさ」


「覚えることだって、大事な旅のうちだよ」


 アリアはノートをもう一度開いた。


 さっき書いたばかりの文字を指でなぞる。


「グラナ」


「忘れないように?」


 トアが尋ねる。


「うん!」


「着いたらね」


「ちゃんと読めるようになりたい」


 トアはうれしそうにうなずいた。


「じゃあ次は町の看板を読めるようになろう」


「ほんと?」


「一文字ずつ覚えていけば大丈夫」


 アリアはノートを大切に閉じる。


 その表紙を、そっと一度だけなでた。


 旅へ出てから覚えた文字。


 これから覚える文字。


 その一つ一つが、宝物になっていく気がした。


 午後になり、馬車は森の中へ入る。


 木漏れ日が窓から差し込み、床へ丸い光を落としていた。


 リン。


 小さな音が響く。


 マルルの胸元についたコンパクトが、淡く青く光った。


「カケラなの」


 アリアたちが窓の外を見る。


 地面では、落ち葉が一本の線を描くようにゆっくりと盛り上がり、馬車と同じ速さで進んでいた。


「トカゲさん!」


 アリアが窓を開ける。


「ちゃんといるね」


「おる」


 土の下から短い返事が返る。


「疲れてない?」


「問題ない」


「お腹すかない?」


「問題ない」


「眠くない?」


 少しだけ間があく。


「……問題ない」


 ルカが小さく笑った。


「今日はちゃんと答えてくれるね」


「質問が短いからなの」


 マルルも満足そうにうなずく。


 その時だった。


 地面を進んでいた盛り上がりが、不意に止まった。


「トカゲさん?」


 返事がない。


 しばらくして、低い声が響く。


「……悪いが、急ぐ」


「え?」


 落ち葉が大きく波打つ。


 今までより速く、地面の下を走り始めた。


「トカゲさん、待って!」


 アリアが窓から身を乗り出す。


「主の気配が弱い」


 短く、それだけ答えた。


 ルカが首をかしげる。


「……あるじ?」


「我を統べる御方だ」


 短く答える。


 少し間が空く。


「このようなことは初めてだ」


 落ち葉の下の盛り上がりは、さらに速度を上げる。


「先へ行く」


 その一言だけ残し、トカゲさんは街道の先へ消えていった。


 アリアたちは思わず顔を見合わせる。


 主の気配が弱い。


 それが何を意味するのかは、誰にも分からない。


 けれど、古い井戸では、これまでとは違う何かが待っている。


 そんな予感だけが、静かに胸へ残った。

お読みいただきありがとうございます。


★夏なので、ひとつ……★


「お判りいただけただろうか……。」


「ルカの指が一本消えているのを。」


「ギャーッ!」


……ということで、生成AIあるあるでした(笑)


生成回数に上限があるので、今回はあえてそのままです。(^^;

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