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森で拾ったのは、半人前の天使でした ― ラグドール一家と小さな天使 ―  作者: くいたん


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第29話 新しい仲間たち


 エッダはアリアたちを見回すと、やさしくほほえんだ。


「それじゃあ、みんなを紹介するね」


 荷馬車の方へ振り返り、大きな声で呼ぶ。


「トア!」


「はーい!」


 明るい返事と一緒に、一人の少女が荷馬車の陰から駆けてきた。


 明るい茶色の髪をハーフアップにまとめ、肩まで伸びた髪を揺らしながら、アリアたちの前でぴたりと止まる。


 アリアたちより少し年上だろうか。


 にこにことした笑顔が印象的な女の子だった。


「この子たち、明日からグラナまで一緒に旅をする子たちだよ」


「ほんと?」


 トアは目を輝かせた。


「よろしくね!」


「よろしく!」


 アリアも笑顔で頭を下げる。


 ルカとノルンも続き、マルルは耳をふわりと揺らした。


「わたし、トア!」


 胸へ手を当てる姿は、どこか誇らしげだ。


 エッダがくすりと笑う。


「トア」


「うん?」


「小さい子がいたら、旅のことを教えてあげなさいって、いつも言ってるだろ」


 その言葉を待っていたかのように、トアは胸を張った。


「もちろん!」


「任せて!」


 その返事に、エッダは満足そうにうなずく。


「じゃあ、先生役をお願いしようかね」


「うん!」


 トアは勢いよくうなずくと、アリアたちへ向き直った。


「まずね!」


 人差し指を一本立てる。


挿絵(By みてみん)


「旅で一番大事なのは、準備!」


 アリアは「うん!」とうなずいた。


「忘れ物をすると大変だから、今日のうちに全部そろえておくんだよ」


「うん!」


「朝はすっごく早いから、起きてから荷物をまとめちゃだめ!」


「なるほど」


 ルカが感心したようにうなずく。


「水筒は持った?」


「持った!」


「着替えは?」


「ある!」


「歩きやすい靴?」


 アリアはその場でぴょんと跳ねる。


「だいじょうぶ!」


「よし!」


 トアは満足そうに笑った。


「これなら合格!」


 アリアもうれしそうに笑う。


 旅に出る前から、こんなふうに教えてくれる人がいる。


 そのことが、とてもうれしかった。


 ルカも自然と表情がやわらぐ。


 昨日まで、どうやってグラナへ行けばいいのか分からなかった。


 それが今では、明日の朝には馬車へ乗って出発できる。


 やっと前へ進める。


 そんな安心が、胸いっぱいに広がっていた。


「ロザ」


 エッダが声を掛ける。


「はい」


 一人の女性が歩いてきた。


 落ち着いた笑顔を浮かべながら、アリアたちへ軽く会釈する。


「護衛をしているロザだよ」


「よろしくお願いします」


「よろしくお願いします!」


 アリアたちも頭を下げた。


「それから……ヴァン」


「……」


 荷馬車の車輪を点検していた猫獣人の青年が立ち上がる。


 ゆっくり歩いてくると、その視線は自然とルカへ向いた。


「猫獣人か」


「うん」


 ルカもうなずく。


「ラグドール族だ」


「そうか」


 ヴァンは小さくうなずいた。


「俺は山猫族だ」


「同じ猫でも、ずいぶん違うんだね」


「まあな」


 短いやり取りだった。


 それでも二人の間には、少しだけ親しみが生まれたようだった。


「フィン!」


 今度は荷馬車の反対側から返事が聞こえる。


「はーい」


 長い耳を揺らしながら、一人のウサギ獣人の青年が歩いてきた。


 穏やかな笑顔でアリアたちへ会釈する。


 その視線が、ふとマルルで止まった。


「あれ?」


 マルルも首をかしげる。


「なの?」


 フィンは思わず笑う。


「君もウサギなんだね」


「そうなの!」


 マルルは耳をぴこんと揺らした。


 フィンは自分の長い耳を触る。


「ぼくは立ち耳だけど……」


 今度はマルルの耳を見る。


「君は垂れ耳なんだ」


 マルルは自分の耳を見ようとして、くるりと首を回した。


 もちろん見えない。


「……なの?」


 その様子がおかしくて、フィンが吹き出す。


「あはは!」


 アリアたちもつられて笑った。


 和やかな笑い声が、荷馬車の周りへ広がっていく。


 笑い声が落ち着くと、エッダが辺りを見回した。


「モーリはまだ戻ってないみたいだね」


 ロザがうなずく。


「夕飯の食材を買いに市場へ行っています」


「そうだったね」


 エッダはアリアたちへ向き直った。


「モーリは料理担当なんだ」


「旅の間のご飯は、全部あの子が作ってくれるよ」


「ほんと?」


 アリアの目がぱっと輝く。


「毎日?」


「毎日だよ」


「やったぁ!」


 思わず飛び跳ねるアリアを見て、トアがくすっと笑った。


「モーリのご飯、おいしいんだよ」


「ぼく、おかわりしちゃうもん」


 フィンが照れくさそうに笑う。


「ぼくだって」


 トアも負けじと言い返す。


「この前なんて、二人ともおかわりしてたじゃない」


 ロザが穏やかに笑う。


「三人でしたよ」


「えっ?」


 トアが目を丸くする。


「トアもおかわりしていました」


「あ……」


 思い出したように頬を赤くすると、みんながどっと笑った。


 その笑いにつられて、アリアも笑顔になる。


(なんだか、みんな家族みたい。)


 初めて会ったばかりなのに、不思議と緊張しなかった。


 昨日まで、知らない町で知らない人たちに声を掛けることを少し不安に思っていた。


 でも、エッダも、トアも、みんな笑顔で迎えてくれる。


 それがうれしくて、胸の中がぽかぽかと温かくなった。


 ルカもそっとみんなを見回す。


 旅は十日ほど続く。


 長い道のりになるはずだ。


 それでも、この人たちとなら安心して旅ができそうだと、自然と思えた。


「さて」


 エッダが手を合わせる。


「明日は日の出の少しあとには出発するよ」


「遅れないようにね」


「はい!」


 アリアが元気よく返事をする。


「今日は教会へ戻って、ゆっくり休んでおいで」


「荷物ももう一度確認しておくんだよ」


「うん!」


 トアも笑顔でうなずいた。


「忘れ物したら教えてあげられないからね!」


「しないもん!」


 アリアは胸を張る。


「ちゃんと準備する!」


 その返事にトアは満足そうに笑った。


「よし!」


「じゃあ、明日ね!」


「うん!」


 アリアたちは一人ずつ商隊のみんなへ頭を下げる。


「よろしくお願いします!」


「こちらこそ」


 エッダたちが手を振る。


 教会への道を歩きながら、アリアは何度も後ろを振り返る。


 二台の荷馬車。


 その後ろでは、赤い布に金の縁取りをした商会の目印が風に揺れていた。


 忙しそうに働くエッダたち。


 何度も手を振りながら、四人は荷馬車をあとにした。


 町の通りを歩くアリアの足取りは軽い。


 昨日まで、どうやってグラナへ行けばいいのか分からなかった。


 けれど今は違う。


 明日の朝になれば、エッダたちと一緒にグラナへ向けて出発できる。


 そのことがうれしくて、自然と笑みがこぼれた。


「楽しみだね!」


 アリアが振り返る。


「うん」


 ルカも笑ってうなずいた。


「やっと次の町へ行ける」


「二つ目の欠片も探せるなの」


 マルルが耳を揺らす。


 ノルンもうれしそうにほほえんだ。


「みんな、優しい人たちだったね」


「うん!」


 アリアは大きくうなずく。


「きっと楽しい旅になるよ!」


 話をしているうちに、教会の尖塔が見えてきた。


「あっ!」


「着いた!」


 教会が見えると、アリアはほっと胸をなで下ろした。


 明日の朝には、ここを出発する。


 そう思うと少し寂しい気持ちもあったけれど、それ以上に新しい旅への楽しみが大きかった。


「早くシスターたちに知らせよう!」


「うん」


 四人は教会の扉を開けた。


 教会の扉を開けると、ちょうどシスターたちが夕食の支度をしていた。


「あら、お帰りなさい」


「ただいま!」


 アリアは笑顔で駆け寄る。


「馬車が見つかったの!」


 シスターたちの表情がぱっと明るくなる。


「まあ、本当ですか」


「はい!」


 ルカがうなずいた。


「明日の朝、エッダ商会の荷馬車でグラナへ向かいます」


「それはよかったですね」


 シスターたちは顔を見合わせ、ほっとしたように笑った。


「これで安心して送り出せます」


 その言葉を聞いて、アリアも胸をなで下ろした。


 自分たちだけではなく、シスターたちも一緒に心配してくれていた。


 そのことが、とてもうれしかった。


「それじゃあ」


 ルカがみんなを見る。


「先に荷物をまとめよう」


「うん!」


 四人は部屋へ戻った。


 アリアはポシェットの中身を一つずつ確かめる。


「お着替え」


「ハンカチ」


「水筒」


 全部しまうと、ポシェットの口をきゅっと閉めた。


「これで大丈夫!」


 自然と笑みがこぼれる。


 明日の準備は終わった。


 あとは朝を待つだけ。


 ルカも荷物をまとめ終えると、小さく息をついた。


 昨日まで、グラナへの行き方さえ分からなかった。


 それが一日で、旅の仲間と出会い、馬車も決まった。


 ようやく前へ進める。


 そう思うと、肩の力がふっと抜けた。


 ノルンも木箱を抱え直して微笑む。


「わたしも準備できた」


 マルルは胸元のチョーカーに付いたコンパクトを前足でそっと開いた。


 中には、一つ目の欠片が静かに収まっている。


「ちゃんといるなの」


 コンパクトを閉じると、満足そうに耳を揺らした。


 アリアはその様子を見て、やさしく笑う。


「一つ目、見つけられたね」


「うん」


 ルカもうなずいた。


 村が消えて、何をすればいいのか分からなかったあの日。


 ただ手がかりを探して歩き続けてきた。


 そして、この教会で一つ目の欠片を見つけることができた。


 次の行き先も決まった。


 まだ旅は始まったばかり。


 それでも、一歩ずつ前へ進めている。


 そう思うと、四人の胸には同じような安心が広がっていた。


「行こう」


 ルカが静かに言う。


「シスターたちに、もう一度お礼を言おう」


「うん!」


 四人は顔を見合わせると、笑顔で部屋をあとにした。


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