あと3日〜文化祭2日目〜
## 第93話 二日目の景色
文化祭二日目。
昨日と同じように、神崎は少し早く学校へ着いた。
校門の前には、開場を待つ来場者がすでに列を作っている。
「昨日より多くないか?」
桐生が隣で苦笑する。
「口コミでも広がったのかもな。」
「嬉しい悲鳴ってやつだ。」
神崎も小さく頷いた。
初めての文化祭は、想像以上に成功していた。
◇
「神崎!」
実行委員の先生が手を振る。
「体育館前の案内、少し手伝ってくれ。」
「分かりました。」
校内を歩くと、どのクラスも昨日以上の活気に包まれていた。
二年生のお化け屋敷からは悲鳴が聞こえ、三年生の劇には長い列ができている。
文化部の展示にも、多くの人が集まっていた。
(今日で終わるのか。)
ふと、そんなことを思う。
昨日は忙しくて考える余裕もなかったが、この空気が明日にはなくなると思うと少しだけ不思議な気分だった。
◇
一年一組の教室へ戻る。
「いらっしゃいませ!」
昨日と変わらず、教室は満席だった。
「神崎、こっち!」
桐生が注文票を差し出す。
「頼む!」
「了解。」
注文を取り、飲み物を運び、お客さんを案内する。
気付けば自然と体が動いていた。
昨日一日で、役割が身についていたのだ。
◇
昼前。
少しだけ客足が落ち着いた頃だった。
「神崎くん。」
聞き慣れた声に振り返る。
白石だった。
ダンスの衣装姿ではなく、今日は制服のままだ。
「少し休憩?」
「ああ。」
「白石は?」
「私も今だけ。」
二人は教室の隅で立ったまま話す。
「昨日、すごかったね。」
「思った以上だった。」
「カフェも大成功だし。」
「理系部も結構人が来てた。」
「よかったね。」
白石は自分のことのように嬉しそうに笑った。
その笑顔を見ていると、不思議とこちらまで安心する。
「……そういえば。」
神崎が教室を見回す。
「昨日も今日も、ずっと動いてるな。」
「みんな頑張ってるから。」
「白石も。」
「私はそんなに。」
「いや。」
神崎は首を横に振る。
「ちゃんと頑張ってる。」
一瞬だけ、白石が目を丸くした。
そして少し照れたように笑う。
「……ありがとう。」
それだけ言うと、次の担当に呼ばれて駆けていった。
◇
(頑張ってる、か。)
神崎は特別なことを言ったつもりはなかった。
見たままを口にしただけだ。
文化祭の準備でも、本番でも。
白石は誰かに言われる前に動いていた。
困っている人がいれば手を貸し、忙しいところへ自然と入っていく。
だから、そう思っただけだった。
◇
「神崎!」
桐生が笑いながら手を振る。
「ぼーっとしてる暇ないぞ!」
「悪い。」
神崎はすぐに持ち場へ戻る。
文化祭二日目も、時計の針はあっという間に進んでいく。
この時の神崎は、まだ知らない。
今日という日が終わったあと、自分の一週間が、大きく動き始めることを。
ただ今は。
目の前の文化祭を成功させることだけを考えていた。




