あと3日 最高の舞台
文化祭二日目。
体育館の舞台袖には、一年一組の生徒たちが集まっていた。
「あと五分です。」
担当の先生の声が響く。
さっきまで賑やかだった空気が、一気に静まる。
「緊張してきた……。」
「昨日は平気だったのに。」
「今日は保護者も多いらしいよ。」
誰かの言葉に、小さなどよめきが起きる。
白石も胸の前で手を組み、小さく息を吐いた。
(大丈夫。)
そう言い聞かせても、鼓動は少しずつ速くなっていく。
◇
「美月。」
隣から生田が肩を軽く叩いた。
「顔、固いよ。」
「えっ?」
「そんなに緊張しなくても大丈夫。」
生田は笑いながら続ける。
「失敗しても、みんな一緒だから。」
その言葉に、白石も少しだけ笑った。
「……そうだね。」
この数週間、毎日のように放課後へ残った。
最初は振り付けもバラバラだった。
音楽に合わず、何度も最初からやり直した。
それでも少しずつ形になっていった。
ここまで来られたのは、一人じゃない。
みんなで頑張ったからだ。
◇
「整列!」
声が掛かる。
全員が自分の位置へ移動する。
白石の少し前には神崎が立っていた。
ダンス練習を始めた頃は、動きを覚えるのに苦戦していた神崎。
「そこ、こうだよ。」
「腕はもう少し高く。」
放課後、一緒に何度も練習した。
脚の運び方が分からず首をかしげる神崎に、何度も説明したこともあった。
その姿を思い出す。
(今日は、大丈夫かな。)
そんなことを考えていると、神崎が小さく振り返った。
「緊張してる?」
不意に聞かれ、白石は少し驚く。
「……少しだけ。」
「俺も。」
神崎は短く答えた。
その一言が、なぜだか少しだけおかしくて。
二人は小さく笑い合った。
それだけで、不思議と肩の力が抜けた。
◇
照明が落ちる。
体育館が静まり返る。
そして、音楽が流れ始めた。
一歩前へ出る。
何度も練習した振り付け。
体が自然に動いていく。
視界の端に神崎が映る。
リズムを外すことなく、しっかり踊っていた。
(よかった。)
胸をなで下ろす。
教えたからではない。
神崎自身が、一生懸命練習した結果だ。
その姿が、少しだけ嬉しかった。
◇
曲は後半へ入る。
みんなの動きがぴったり揃う。
昨日まで何度も繰り返したフォーメーション。
何度も失敗した場所。
そのすべてが、今日はきれいにつながっていく。
(楽しい。)
ただ、その気持ちだけだった。
神崎も。
生田も。
桐生も。
一年一組のみんなが同じ音楽に合わせて踊っている。
その時間が、とても愛おしかった。
◇
最後のポーズ。
全員で息を合わせる。
音楽が止まる。
一瞬の静寂。
そして、大きな拍手が体育館いっぱいに響いた。
「すごい!」
「一年一組、よかった!」
客席から歓声が上がる。
みんな自然と笑顔になっていた。
◇
舞台袖へ戻ると、誰かが大きな声を上げた。
「終わったー!」
その一言をきっかけに、あちこちから笑い声が広がる。
「成功したね!」
「最後、ちゃんと揃ってた!」
「めちゃくちゃ楽しかった!」
桐生が神崎の肩を軽く叩く。
「ほらな、踊れただろ。」
「……何とかなった。」
神崎は少し照れくさそうに笑った。
その表情を見て、白石も思わず笑みを浮かべる。
最初はあんなに苦戦していたのに。
ちゃんと踊り切った。
それが、自分のことのように嬉しかった。
◇
教室へ戻る廊下。
神崎が何気なく呟く。
「思ったより、楽しかったな。」
その一言に、白石は隣で静かに笑う。
「……うん。」
本当に、その通りだった。
この時間が、ずっと続けばいいのに。
そんなことを思いながら、白石は教室への道を歩いていった。




