あと4日 理学部にて
今日最後の投稿です。
放課後。
クラスでの最終確認を終えた神崎は、そのまま理系部の部室へ向かった。
文化祭前日ということもあり、校舎はどこも慌ただしい。
大道具を運ぶ生徒。
展示の準備をする文化部。
体育館からは、最後のリハーサルを終えた生徒たちの笑い声が聞こえてきた。
「失礼します。」
部室の扉を開けると、部長の中山樹が振り返った。
「お、神崎。」
「ちょうどいいところだった。」
「何かありましたか?」
「展示が届いた。」
机の上には、大きな段ボール箱が置かれていた。
箱には透明なケースや色付きの球、仕切り板などが丁寧に梱包されている。
「ああ。」
神崎は中身を見て小さく頷いた。
「これですね。」
「お前の案。」
樹が笑う。
数週間前の部会で決まった展示。
『見るだけより、体験できる展示にしたい。』
その一言から生まれた企画だった。
「じゃあ組み立てよう。」
◇
段ボールを開け、一つずつ部品を取り出していく。
透明な箱。
仕切り板。
赤、青、黄色の球。
「球の数、確認します。」
「赤十個。」
「青十五。」
「黄色二十五。」
「予定通りですね。」
神崎は説明書を見ながら仕切り板を固定していく。
部員たちも自然と役割を分け、それぞれ作業を進めた。
「思ったより本格的だな。」
「文化祭っぽい。」
「子どもも喜びそう。」
十分ほどすると、一つの展示が完成した。
透明な箱の中で色とりどりの球が転がる。
横には問題カード。
『赤い球を引く確率は?』
『一番当たりやすい色は?』
考えてから挑戦できるようになっていた。
「いい感じですね。」
神崎が言うと、樹も満足そうに頷いた。
「やっぱり体験できる展示にして正解だったな。」
◇
「試運転してみよう。」
樹が球を入れ、箱を軽く振る。
神崎が一枚引く。
「青ですね。」
「ちゃんと混ざるな。」
問題なく動いている。
その横では、実験装置の準備も進んでいた。
「……あれ?」
一人の部員が首をかしげる。
「ランプが点かない。」
見ると、実験装置の電源ランプが消えたままだった。
「さっきまで動いてたのに。」
樹が装置を見つめる。
神崎はしゃがみ込み、配線を一本ずつ確認した。
電源。
スイッチ。
コード。
異常はない。
しばらく見ていると、一か所だけ端子が少し浮いていることに気付いた。
「ここです。」
軽く押し込む。
カチッ、と音が鳴る。
もう一度電源を入れると、装置は静かに動き始めた。
「おお!」
「直った!」
部室に安堵の声が広がる。
「助かったよ、神崎。」
「接触不良だったみたいです。」
「その程度で済んでよかった。」
樹は胸をなで下ろした。
◇
展示物を最後まで確認し終え、部員たちは一息つく。
「これで準備完了ですね。」
「ああ。」
樹は完成した展示を見渡した。
「いい文化祭になりそうだ。」
そう言ってから、神崎の方を見る。
「神崎。」
「はい。」
「お前、実行委員もクラスも理系部も全部頑張ってるな。」
「やるって決めたので。」
「お前らしい。」
樹は笑った。
「でも、一つだけ。」
「文化祭は成功させるためだけの行事じゃない。」
「来た人に楽しんでもらう。」
「自分たちも楽しむ。」
「それを忘れるな。」
神崎は完成した展示を見つめる。
透明な箱の中で、色とりどりの球が静かに転がっていた。
この展示で、誰かが確率に興味を持ってくれるかもしれない。
誰かが「面白い」と笑ってくれるかもしれない。
そう考えると、少しだけ楽しみになった。
「それと。」
樹が展示を軽く叩く。
「これはお前が考えた展示だ。」
「来た人の反応、ちゃんと見とけ。」
「きっと面白いぞ。」
神崎は自然と笑みを浮かべた。
「はい。」
◇
校舎を出ると、夕焼けがグラウンドを赤く照らしていた。
文化祭まで、あと一日。
そして、一週間ルールの期限も、あと三日。
その約束が一瞬頭をよぎる。
だが、すぐに前を向いた。
(今は文化祭だ。)
まずは明日を成功させる。
それが、今の自分にできることだった。
神崎は夕暮れの道を、自転車でゆっくりと走り出した。
次からは文化祭の様子を書いていきます。 イソガシ-タスケテ-
次の投稿は20日になります。時間はいつもと違うので、見逃さないようにしてください




