白石家編
これが今日最後のはなしです。
夕焼けに染まる住宅街を歩きながらも、白石の頭の中には同じ言葉が何度も繰り返されていた。
『一週間以内に、誰かへ告白する約束をしたらしいの。』
神崎くんが。
誰かに告白する。
その事実だけが、胸の奥に重く残っていた。
◇
「ただいま。」
「おかえりー。」
リビングから春乃の明るい声が返ってくる。
「今日は準備どうだった?」
「順調だったよ。」
「そっか。」
いつもなら、それで会話は終わらない。
文化祭の話をしたり、ダンスのことを話したり。
でも今日は、自分から何かを話す気になれなかった。
「美月?」
「ん?」
「疲れた?」
「うん、ちょっとだけ。」
嘘ではない。
でも、本当の理由は違う。
◇
夕食を終え、お風呂も済ませる。
自分の部屋へ戻ると、ベッドへ腰を下ろした。
机には文化祭の資料。
開いたままの英単語帳。
やらなければいけないことはたくさんある。
それなのに。
『好きな人じゃなくてもいいらしい。』
生田の言葉が、また頭をよぎる。
(好きじゃなくても……。)
神崎くんらしい。
恋愛に興味がない神崎くんなら、そう考えても不思議じゃない。
でも。
だからこそ、分からなくなる。
一番信頼できる相手。
それは、どんな人なんだろう。
(私は……。)
その続きを考えそうになって、首を横に振った。
「だめ。」
期待なんてしたら。
あとで苦しくなるだけだから。
神崎くんは、きっと私なんか選ばない。
そう思うのに。
心のどこかでは、小さな期待が消えてくれなかった。
◇
コンコン。
不意に部屋のドアがノックされる。
「美月。」
春乃の声だった。
「まだ起きてる?」
「うん。」
ドアがゆっくり開く。
春乃は部屋へ入るなり、白石の顔を見て小さく笑った。
「やっぱり。」
「今日、何かあったでしょ?」
「え……。」
「お姉ちゃんには分かるよ。」
その一言に、白石は言葉を失う。
隠していたつもりだった。
いつも通りにしていたつもりだった。
でも。
春乃には、お見通しだった。
「……何があったの?」
優しい声だった。
問い詰めるような言い方ではない。
ただ、心配してくれている。
その声を聞いた瞬間。
張りつめていたものが、少しだけ緩んだ。
「お姉ちゃん……。」
白石はゆっくりと俯く。
「今日ね……。」
どこから話せばいいのか分からない。
神崎くんのこと。
生田から聞いた噂のこと。
胸の中がぐちゃぐちゃになっていること。
全部、言葉にできる気がしなかった。
それでも。
春乃になら、話せるかもしれない。
「実は……。」
白石は小さく息を吸った。
そして。
今日、生田から聞いた話を、一つひとつ話し始めた。
次の投稿は16日となります。
文化祭前日、リハーサルとかを書いてます。




