あと6日 〜神埼編〜
今日は「あと6日」を3話公開しています。なるべく順番に見てください。
水曜日。
朝。
教室へ入ると、すでに何人かのクラスメイトが登校していた。
「おはよう。」
桐生が軽く手を挙げる。
「ああ。」
短く返し、自分の席へ向かう。
机の中から文庫本を取り出し、ページを開いた。
文化祭まであと一週間。
実行委員の仕事はほぼ終わり、残るのは細かな確認くらいだ。
(あとは当日、問題なく進めばいい。)
そんなことを考えながら本を読んでいると、不意に昨日の会話が頭をよぎる。
『一週間だけ本気で恋愛について考えてみろよ。』
(……。)
約束は約束だ。
とはいえ、何かを無理に変えるつもりはない。
いつも通り過ごして、その中で考えればいい。
◇
昼休み。
文化祭の準備で教室は慌ただしかった。
「メニュー表、もう貼っていい?」
「こっちは飾り付け終わったよ。」
あちこちで声が飛び交う。
神崎も実行委員として、備品の確認をしていた。
「神崎。」
名前を呼ばれ、振り向く。
白石だった。
「この名札、ダンスで使う場所に運んでいいかな?」
「ああ、頼む。」
「分かった。」
それだけ言うと、白石は名札を抱えて歩いていく。
(仕事が早いな。)
頼んだことはきちんとやってくれる。
確認しなくても任せられる。
そんな印象は、入学した頃から少しずつ変わらず積み重なっていた。
◇
放課後。
体育館。
ダンスの練習が始まる。
最初の頃よりは、体も動くようになってきた。
「そこで一歩大きく!」
声に合わせて動きを修正する。
休憩になったところで、白石が近づいてきた。
「神崎くん。」
「ん?」
「昨日より上手くなってる。」
「そうか?」
「うん。」
真っ直ぐな表情で頷く。
お世辞を言うような性格ではない。
本当にそう思ったから伝えてくれたのだろう。
「ありがとう。」
自然と口から言葉が出た。
白石は少し照れたように笑って、自分のグループへ戻っていく。
(教え方が上手いんだろうな。)
最初は覚えられる気がしなかった振り付けも、今ではだいぶ形になってきた。
それは何度も丁寧に教えてもらったおかげだ。
◇
帰り道。
自転車を押しながら歩く。
夕方の風は少し涼しかった。
(一番信頼できる相手、か。)
昨日よりは、その言葉を考える時間が増えている。
信頼とは何だろう。
約束を守ること。
頼んだことを任せられること。
無理をしなくても自然に話せること。
そんな条件を頭の中で並べていく。
すると、今日の出来事が浮かんだ。
白石は、頼んだことを当たり前のように引き受けてくれた。
ダンスも、嫌な顔ひとつせず教えてくれる。
「……。」
だからといって、すぐに答えが出るわけではない。
まだ六日ある。
焦って決める必要はない。
神崎は自転車にまたがると、ゆっくりとペダルを踏み込んだ。
信頼という答えは。
まだ、はっきりと形になってはいなかった。
次の投稿は9/13日になります。いつも通り18:00公開です。




