信じてくれる
こっから白石回が続きます。
二学期中間考査まで、あと六日。
放課後のチャイムが鳴る。
いつもなら「部活行こう!」という声が聞こえる時間。
けれど今週だけは違った。
中間考査一週間前。
部活動停止期間。
教室には、いつもより多くの生徒が残っていた。
参考書を開く者。
友達と問題を出し合う者。
眠そうにノートへ向かう者。
教室全体が、どこか張り詰めた空気に包まれていた。
白石美月も、自分の席で英語の問題集を開いている。
(あと六日。)
ページをめくる。
一問。
また一問。
間違えた問題には赤ペンで印を付ける。
解説を読み、もう一度解く。
正解するまで繰り返す。
「美月。」
生田結菜がカバンを肩に掛けたまま声をかける。
「帰らないの?」
「もう少しやってく。」
「今日も?」
「うん。」
生田は苦笑した。
「最近毎日じゃん。」
「今だけだから。」
白石は笑う。
でも、その笑顔の裏に焦りがあることを、生田はなんとなく感じていた。
「無理しないでね。」
「ありがとう。」
生田が帰ったあと、教室はさらに静かになった。
残っているのは十人ほど。
その中には神崎の姿もあった。
窓際の席で、数学の問題集に向かっている。
シャーペンが止まることはほとんどない。
(神崎くんも頑張ってる。)
その姿を見ると、不思議と自分も頑張れた。
神崎に追いつきたい。
――違う。
追いつくなんて、おこがましい。
でも。
(期待に応えたい。)
あの日、廊下で言われた言葉が頭をよぎる。
『俺が一位を取る。お前が二位を取れ。』
『お前のこと、信じてる。』
白石は小さく頬を叩いた。
「よし。」
気持ちを切り替え、再び問題集へ向かう。
時計の針が六時を回る頃。
神崎が席を立った。
カバンを肩に掛け、そのまま教室を出ようとする。
ふと、白石の席の前で足を止めた。
「まだやるのか。」
白石は顔を上げる。
「あ、うん。」
「もう少しだけ。」
神崎は問題集へ目を向けた。
「英語か。」
「苦手で……。」
「毎日やれば伸びる。」
それだけ言うと、神崎は教室を出て行った。
白石はしばらく動けなかった。
(毎日やれば伸びる。)
きっと神崎は励ますつもりなんてない。
思ったことを、そのまま口にしただけ。
それでも。
「……頑張ろう。」
自然と笑みがこぼれた。
◇
「ただいま。」
家へ帰ると、春乃がリビングでテレビを見ていた。
「おかえり。」
「今日も遅かったね。」
「学校で勉強してた。」
「そっか。」
白石はカバンから問題集を取り出す。
付箋だらけのページを見て、春乃は少し驚いた。
「美月。」
「ん?」
「最近、本当に頑張ってるね。」
白石は少し照れくさそうに笑った。
「神崎くんがね。」
「うん。」
「信じてるって言ってくれたから。」
春乃は優しく微笑む。
「その一言って、そんなに大きかった?」
白石は迷わず頷いた。
「うん。」
「すごく。」
少しだけ目を伏せる。
「神崎くんって、簡単にそういうこと言う人じゃないから。」
「だから。」
問題集を胸に抱く。
「絶対、応えたい。」
春乃は立ち上がると、冷たい麦茶をコップに注いだ。
「じゃあ、まずは休憩。」
「根詰めすぎると逆に覚えられないよ。」
「……うん。」
白石は素直にコップを受け取る。
窓の外では、秋の虫が鳴いていた。
中間考査まで、あと六日。
今日もまた、小さな努力が積み重なっていく。
これもまた青春のかほり




