前日
前日まで来ました。
二学期中間考査前日。
朝の教室は、いつもより静かだった。
普段なら聞こえてくる雑談も少ない。
あちこちで参考書を開く音だけが響いている。
白石美月も、自分の席で英単語帳を見つめていた。
(あと一日。)
ここ数日、毎日勉強した。
家でも、学校でも。
それでも、不安は消えない。
「美月。」
生田が隣に座る。
「大丈夫?」
「……たぶん。」
「"たぶん"なんだ。」
二人は思わず笑った。
「でもね。」
白石は単語帳を閉じる。
「ここまでやったんだから、もうやるしかない。」
「その意気!」
生田は親指を立てた。
「応援してる!」
「ありがとう。」
その時、教室のドアが開く。
神崎が入ってきた。
教室を見回し、自分の席へ向かう。
その途中、一瞬だけ白石と目が合った。
「おはよう。」
神崎が短く言う。
「お、おはよう。」
白石も笑顔で返した。
ほんの数秒。
それだけのやり取りだった。
それでも、少しだけ肩の力が抜ける。
◇
昼休み。
桐生が神崎の席へやって来た。
「なあ。」
「ん?」
「今回も一位取れそう?」
「取る。」
「やっぱ即答か。」
神崎は教科書を閉じる。
「中山も仕上げてきてる。」
「でも負けない。」
桐生は苦笑した。
「その自信、少し分けてほしいわ。」
神崎は少し考えてから言う。
「自信じゃない。」
「準備しただけだ。」
◇
放課後。
部活動停止期間最後の日。
白石は先生に質問をしてから教室を出た。
廊下を歩いていると、前から神崎が歩いてくる。
「あ。」
「白石。」
二人は立ち止まった。
「質問?」
「うん。」
「英語。」
「そうか。」
少しだけ沈黙が流れる。
「……神崎くん。」
「ん?」
「ありがとう。」
「?」
「この前のこと。」
神崎は少し考えた。
「ああ。」
"信じてる"と言った日のことだと気付く。
「まだ結果は出てない。」
「だから礼は早いと思うぞ。」
白石は思わず笑ってしまう。
「ふふっ。」
「それもそうだね。」
神崎は頷く。
「明日。」
「頑張れ。」
その一言だけ言って歩き出した。
白石はその背中を見送りながら、小さく拳を握る。
(うん。)
(頑張る。)
◇
夜。
机の上には教科書とノート。
時計の針は十時を回っていた。
白石は最後の問題集を閉じる。
「……よし。」
もう新しいことは覚えない。
今日は早く寝る。
それが先生からのアドバイスだった。
ベッドに入る。
目を閉じる。
だけど。
「お前が二位を取れ。」
「お前のこと、信じてる。」
その言葉が頭の中で何度も繰り返される。
「……絶対。」
小さく呟く。
「応えるから。」
窓の外では秋の夜風が木々を揺らしていた。
明日。
努力の結果が試される。
どうなんだろうな。いけんのかな。




