教えようか?
ネタバレします。神回です。
「じゃあ経験者は近くの人を教えてあげて!」
体育委員の声が体育館に響く。
白石は小さく息を吸った。
(……行こう。)
一歩。
また一歩。
神崎の前まで歩いていく。
「神崎くん。」
「ん?」
「……教えようか?」
神崎は少しだけ驚いたような表情を見せた。
「ああ。」
「助かる。」
あまりにも自然な返事だった。
白石は少し肩の力が抜ける。
「じゃあ最初のステップからね。」
「頼む。」
二人は列から少し離れた場所へ移動した。
体育館の端では、他の生徒たちもそれぞれ練習している。
笑い声があちこちから聞こえてくる。
「まず右足から。」
白石がお手本を見せる。
「次に左。」
神崎も真似をする。
しかし。
「逆!」
「あ。」
白石は思わず笑った。
「右右。」
「……難しい。」
神崎が少し困ったように呟く。
「勉強より難しい?」
「多分。」
「ふふっ。」
珍しい答えに白石は笑みをこぼした。
神崎もつられて少しだけ笑う。
それだけで胸が温かくなる。
「もう一回ね。」
「うん。」
今度はゆっくり。
一歩。
二歩。
三歩。
「そこ!」
「……また逆か。」
「うん。」
二人で顔を見合わせる。
神崎は苦笑した。
「才能ないな。」
「そんなことないよ。」
白石は首を横に振る。
「足じゃなくて、体が覚えてないだけだから。」
「そういうものか?」
「うん。」
そう言ってから、少し迷う。
(……触っても大丈夫かな。)
体育委員は他のペアのところへ行っている。
周りでも普通に教え合っている。
(教えるだけ。)
(教えるだけだから。)
勇気を出して手を伸ばした。
「ちょっとだけ、ごめんね。」
神崎の右手首をそっと持つ。
「腕はもう少しこっち。」
「こう?」
「うん。」
今度は肩に手を添える。
「肩、少し力入ってる。」
「ああ。」
「もっと楽に。」
神崎は言われた通り力を抜いた。
「これでいい?」
「うん!」
顔が近い。
制服の袖が触れそうな距離。
(近い……。)
(近すぎる……。)
心臓がうるさい。
こんなに近くで神崎を見るのは初めてだった。
「白石?」
「えっ!」
「次は?」
「あ、ご、ごめん!」
慌てて一歩下がる。
「えっと……ターン。」
「ターン?」
「そう。」
白石がお手本を見せる。
くるり、と軽く回る。
「できそう?」
「やってみる。」
神崎も真似をした。
一歩。
二歩。
くるり。
「お。」
今度は成功した。
「できた。」
「すごい!」
思わず拍手する。
「飲み込み早いね。」
「教え方がいい。」
神崎は照れもなく言った。
「分かりやすい。」
白石は固まる。
「……。」
「?」
「な、なんでもない!」
耳まで真っ赤になってしまう。
神崎は理由が分からず首をかしげた。
「そうか。」
そのままもう一度ステップを踏む。
さっきまでぎこちなかった動きが、少しずつ形になっていく。
「ほら。」
「できるようになってる。」
「本当だ。」
神崎は少し嬉しそうだった。
「ありがとう。」
「助かった。」
その笑顔は、本当に一瞬だった。
けれど白石の胸には、その一瞬だけで十分だった。
「……うん。」
それしか言えなかった。
体育館の反対側。
生田結菜は佐倉陽菜の腕をつついた。
「見て。」
「ん?」
「あれ。」
二人の視線の先では、白石が神崎に何かを教えていた。
楽しそうに笑う白石。
素直に教わる神崎。
その距離は、他のペアより少しだけ近く見えた。
「お似合いじゃん。」
陽菜がぽつりと呟く。
「ね。」
生田は嬉しそうに微笑む。
「美月、すごく楽しそう。」
チャイムが鳴る。
「今日はここまでー!」
体育委員の声で練習は終わった。
帰り際。
神崎は体育館の出口で白石を見つけた。
「白石。」
「え?」
「今日のおかげで助かった。」
「明日も教えてくれるか?」
一瞬。
時間が止まったように感じた。
「……うん!」
その返事は、自分でも驚くほど大きな声だった。
神崎は軽く頷く。
「じゃあ、また明日。」
そう言って歩いていく。
その背中が見えなくなるまで、白石は立ち尽くしていた。
きゃー青春。
次は一旦中間考査です。色々行事多すぎてわからなくなりそうですが、理解してください




