神崎くんの苦手なこと
体育祭の伏線回収的なものです。
二学期が始まって一週間。
放課後の一年一組は、文化祭の話題で持ちきりだった。
「カフェの看板、もう少し大きい方がいいんじゃない?」
「いや、入口に置くならこれくらいで十分だろ。」
教室の後ろでは装飾班が模造紙を広げ、接客班はメニュー表を考えている。
一方、教室の前では文化祭実行委員の神崎悠真がプリントを配っていた。
「ちょっと静かに。」
教室が少しずつ落ち着く。
神崎は紙を見ながら淡々と話し始めた。
「クラス企画のカフェとは別に、一年生全クラス参加のダンス発表があるのは知ってるよな。」
「今日から体育の時間と放課後を使って練習するらしい。」
「面倒くさ……。」
男子の誰かがぼやく。
その声に教室中が笑った。
「以上。」
プリントを机に置くと、神崎はすぐ実行委員の女子と話し始めた。
「体育館の使用時間、確認してくる。」
「お願い。」
そのまま教室を出ていく。
白石はその背中を見送りながら、小さく微笑んだ。
「美月。」
隣から生田結菜が顔を覗き込む。
「また見てる。」
「み、見てないって。」
「いや、見てた。」
白石は慌てて目を逸らした。
「それよりダンスだよ。」
「楽しみじゃない?」
「うん。」
白石は少しだけ笑う。
「ダンス、好きだから。」
「そうだった!」
生田は思い出したように手を叩く。
「美月、小学校のとき習ってたんだっけ?」
「少しだけね。」
「じゃあ絶対上手いじゃん。体育祭の時もすごかったし」
「そんなことないよ。」
照れくさそうに笑う白石。
そこへ神崎が教室へ戻ってきた。
「明日の放課後、一回目の練習。」
それだけ伝えると、自分の席へ向かう。
「神崎くんってダンスできるのかな。」
生田が小声で言う。
「どうなんだろう。」
白石も首をかしげた。
勉強は学年一位。
卓球も上手い。
何でも器用にこなすイメージがある。
だからきっと、ダンスも。
そんな風に思っていた。
翌日。
放課後。
体育館には一年一組の生徒たちが集まっていた。
「じゃあ音楽かけるよー!」
体育委員が声を上げる。
軽快なリズムが体育館に響く。
最初は簡単なステップ。
……のはずだった。
「逆逆!」
「そこ左!」
「あー違う違う!」
あちこちから笑い声が上がる。
その中でもひときわ目立っていたのが——
「……難しいな。」
神崎だった。
右と左が噛み合わず、周りより半拍ずつ遅れている。
珍しく困ったような表情を浮かべる神崎を見て、桐生が吹き出した。
「お前にも苦手なもんあるんだな!」
「……あるらしい。体育祭の時も苦戦してたし。」
神崎は少し苦笑する。
その様子を見た白石も、思わず小さく笑ってしまった。
(なんだ……。)
(神崎くんにも苦手なこと、あるんだ。)
どこか親近感を覚えながら、その姿を見つめる。
その時だった。
「経験者いる?」
体育委員の声が体育館に響く。
何人かが手を挙げる。
その中に、白石の手もあった。
「じゃあ経験者は近くの人に教えてあげて!」
白石はゆっくり神崎の方を見る。
神崎もこちらを見ていた。
二人の目が合う。
白石は小さく息を吸い込んだ。
(……よし。)
そう決心して、一歩踏み出した。
白石、頑張れっ




