触れた手
白石も乙女ですねぇ
放課後。
一年一組の教室には、段ボールや模造紙が広げられ、文化祭の準備が本格的に始まっていた。
「神崎ー!」
隣のクラスの実行委員が教室の入口から顔を出す。
「明日の実行委員会、一人ずつ進捗報告ね。」
「了解。」
短い返事だけで会話は終わる。
相変わらず愛想はない。
それでも、不思議と話しかけづらい雰囲気はなかった。
必要なことはきちんと聞いてくれる。
必要なことはきちんと返してくれる。
だからこそ、自然と仕事が集まってくる。
「神崎くん。」
クラスメイトの女子が近寄る。
「この看板、どこに置けばいい?」
「完成したら後ろに並べて。」
「分かった!」
女子は嬉しそうに戻っていく。
それを少し離れた場所から見ていた白石は、小さく笑った。
(やっぱり、頼られてるなぁ。)
勉強だけじゃない。
部活でも。
実行委員でも。
神崎は目立とうとしているわけではないのに、いつの間にか中心にいる。
「美月。」
「え?」
生田が肘でつつく。
「見すぎ。」
「み、見てないよ。」
「さっきから神崎くんしか見てない。」
「そんなこと……。」
否定しようとして、言葉が止まる。
自分でも気付いていた。
気がつけば、視線が向いてしまう。
「はいはい。」
生田は苦笑しながら、ハサミを手渡した。
「こっちも仕事。」
「うん。」
二人は画用紙を切り始める。
しばらくして。
「悪い。」
神崎が近付いてきた。
「テープ余ってる?」
「あるよ。」
白石は慌てて引き出しを開ける。
「あ……。」
手を伸ばした瞬間。
同じロールテープに神崎の手が重なった。
「っ……!」
白石は反射的に手を引っ込める。
「あ、ごめん。」
神崎は何事もなかったようにテープを持ち上げた。
「借りるてくぞ。」
「う、うん。」
それだけ言って戻っていく。
白石は固まったまま動けない。
「……。」
「……。」
生田が横を見る。
「今、手触れたよね?」
「……。」
「美月?」
「……無理。」
白石は机に突っ伏した。
「近かった……。」
「それだけで?」
「それだけで!」
顔を真っ赤にしながら叫ぶ白石を見て、生田は思わず吹き出した。
「まだ付き合ってもないのに、それじゃ先が思いやられるね。」
「だから付き合わないって……。」
そう言いながらも、その言葉にはまるで自信がなかった。
一方その頃。
神崎は教室の反対側で、実行委員の資料を書き込んでいた。
(接客班、順調。)
(装飾班も予定どおり。)
(残るのはダンス練習か。)
文化祭まで、あと三週間。
神崎の頭の中は、文化祭を成功させることでいっぱいだった。
もちろん。
さっき手が触れたことなど、もう覚えてもいなかった。
次はダンスの練習です。
ダンスは前に出てきたのを覚えているはずですよね?




