準備開始!
二学期も始まりましたね。検証期間についての報告は別途行います。
二学期が始まって数日。
教室の後ろに貼られた文化祭実行委員会からのお知らせには、大きく「準備開始」の文字が書かれていた。
昼休みになると、一年一組の教室はいつもより少し騒がしい。
「じゃあ、カフェ班はこっち集合!」
クラス委員の声で、生徒たちが机を囲む。
今年の一年一組の出し物は、喫茶店。
壁の装飾、メニュー、接客、厨房補助……それぞれ担当を決め、少しずつ形にしていく。
神崎悠真は教室の前方で、文化祭実行委員として配られた資料を眺めていた。
「神崎。」
同じクラスの女子実行委員が近づく。
「各班の進み具合、今日中にまとめて提出したいんだけど。」
「分かった。」
「あと、装飾班の人数足りないみたい。」
「確認してくる。」
短く返事をすると、神崎はそのまま教室を歩き始めた。
余計なことは話さない。
けれど頼まれたことはきちんとやる。
そんな姿は、入学当初から何も変わっていなかった。
「白石。」
「え?」
突然名前を呼ばれ、白石美月は少し肩を震わせる。
「装飾班、人足りてる?」
「あ、えっと……まだ少し足りないかも。」
「分かった。」
神崎は教室を見回し、近くにいた男子へ声を掛けた。
「悪い。少し手伝ってくれ。」
「了解ー。」
それだけ言うと、また別の班へ向かっていく。
白石はその背中を見送りながら、小さく息を吐いた。
(……ちゃんと名前、呼んでくれた。)
そんなことだけで、胸が少し温かくなる。
「美月。」
「ひゃっ!」
後ろから肩をつつかれ、思わず変な声が出た。
「びっくりした。」
振り向くと、生田結菜が笑いをこらえていた。
「今の反応、分かりやすすぎ。」
「ち、違うって。」
「神崎くんに名前呼ばれただけで顔赤いじゃん。」
「赤くない!」
「はいはい。」
生田は笑いながら段ボールを持ち上げる。
「ほら、運ぶよ。」
「うん。」
二人で廊下へ向かう途中。
向こうから神崎が大きな板を抱えて歩いてきた。
「あ。」
目が合う。
「それ、どこに運ぶ?」
神崎が尋ねる。
「えっと……家庭科室の前。」
「じゃあ、俺が持つ。」
「え?」
返事を待たず、神崎は段ボールを受け取った。
「軽いから大丈夫なのに……。」
「ついでだから。」
そう言って歩き出す。
白石と生田も後ろをついていく。
「ここでいい?」
「う、うん!」
神崎は静かに段ボールを置いた。
「じゃ。」
そのまま教室へ戻っていく。
白石は何も言えず、その背中を見送る。
隣で生田がにやっと笑った。
「優しいじゃん。」
「……みんなにだよ。」
「そういうところも含めて好きなんでしょ?」
「……。」
白石は答えられなかった。
否定したい。
でも、できない。
神崎が誰にでも優しいことくらい知っている。
それでも、その優しさに救われてきたのも事実だった。
文化祭まで、あと一か月弱。
教室にはまだ、恋の気配よりも、木材と絵の具の匂いが広がっていた。
けれど、その何気ない準備の時間こそが、二人の距離を少しずつ縮めていくことを、このときの二人はまだ知らなかった。
こっから結構激しいですよ




