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体育祭 リハーサル

我慢できませんでした。これで最後です。


体育祭りはーさるって独特な雰囲気ですよね。もうこれ本番じゃんみたいな。


リハーサルなのにリレー走っているのは気にしないでください。

 体育祭前日。


 ――リハーサルの日。


 朝の校門をくぐった瞬間、白石美月は小さく息をついた。


 いつもと違う。


 まだ体育祭は明日なのに。


 もう学校全体が、浮き足立っていた。


 廊下を歩けば、


「お前、応援団のハチマキ忘れんなよ!」


「分かってるって!」


「今日って午前で終わりだっけ?」


「リハ終わったら解散らしい。」


 そんな声が飛び交う。


 教室に入れば、


「ねぇ、明日のお弁当どうする?」


「お母さんが張り切ってる。」


「写真撮りたいなぁ。」


「うちのクラス優勝できるかな?」


 誰も授業の話なんてしていなかった。


 チャイムが鳴っても。


 先生が入ってきても。


 どこか落ち着かない。


 担任も苦笑しながら出席簿を閉じた。


「お前ら、どうせ授業どころじゃないだろ。」


 教室に笑いが起こる。


「リハーサルだからって気を抜くなよ。」


「はーい!」


「怪我だけはするな。」


「了解でーす!」


 返事だけはやけに元気だった。



 グラウンドに出ると、空気はさらに違っていた。


 テント。


 並べられた長机。


 放送席。


 白線で区切られたトラック。


 朝露が乾ききった土の匂い。


 拡声器のノイズ混じりの声。


『三年生、入場門前に集合してください。』


『実行委員は本部へお願いします。』


 普段の学校じゃない。


 でも、まだ本番でもない。


 この中途半端な熱気。


 少しだけ緩んだ空気。


 それなのに、どこかそわそわしてしまう感覚。


 白石はこの雰囲気が好きだった。


「白石さん!」


「おはよう!」


「おはよう。」


「なんかもう本番みたいだね。」


「分かる。」


「授業ないの最高。」


「それが本音?」


「うん!」


 女子たちが笑った。



「神崎。」


「何。」


「眠そうだな。」


「朝早かった。」


「体育祭嫌い?」


「別に。」


「好き?」


「別に。」


「じゃあ何。」


「……騒がしい。」


 陽菜は吹き出した。


「それ、嫌いってことじゃん。」


「違う。」


「でもさ。」


 陽菜は周囲を見回した。


「こういうの、ちょっとワクワクしない?」


「しない。」


「即答。」


「でも。」


「ん?」


「……嫌いではない。」


 ぼそり。


「お。」


「何だ。」


「珍しく素直。」


「帰るぞ。」


「まだ始まってない。」



『それでは入場行進の確認を行います!』


 放送が響く。


 ぞろぞろと並び始める生徒たち。


「前の人と間隔空けて!」


「列ずれてる!」


「そこ喋らない!」


 三年生の声が飛ぶ。


「これ、本番ちゃんとできるのかな。」


「無理じゃない?」


「いや、何だかんだできるよ。」


「去年もそうだったって。」


 そんな会話が聞こえてくる。


 そして。


「一年一組、前進!」


 ぎこちなく歩き出す。


 周囲から笑い声。


「お前、ロボットかよ!」


「緊張するんだって!」


「まだリハだぞ!」


 あちこちで失敗して。


 あちこちで笑って。


 それでも進んでいく。



「次、全員リレーの確認!」


「うわ。」


「来た。」


「緊張する。」


 ざわつく一年一組。


「バトン落としたらどうしよう。」


「明日本番じゃないし大丈夫。」


「でも嫌だ。」


「白石さんなら大丈夫そう。」


「なんで?」


「落ち着いてるし。」


「そんなことないよ。」


 白石は苦笑した。


 本当は少し緊張していた。


 でも。


 隣を見れば。


「……。」


 神崎が無表情で立っている。


「神崎くん。」


「何。」


「緊張してる?」


「別に。」


「本当に?」


「失敗したらやり直せばいい。」


「それ、リハだから言えるんだよ。」


「そうか。」


「そうだよ。」


 白石は思わず笑った。


「でも。」


「ん?」


「ちょっと安心した。」


「何で。」


「神崎くん、いつも通りだから。」


「そうか。」


「うん。」


 神崎は少しだけ考えた。


「……お前も。」


「え?」


「いつも通りだろ。」


「……。」


 一瞬。


 白石の目が丸くなる。


「そうかな。」


「知らん。」


「ふふ。」


 それだけで。


 少しだけ肩の力が抜けた。



 リハーサルは続く。


 応援席の位置確認。


 ダンスの立ち位置。


 放送のタイミング。


 入退場。


 全てが中途半端で。


 でも、確かに本番へ向かっていた。


 空を見上げる。


 雲ひとつない青空。


 テントの白。


 グラウンドの土。


 歓声と笑い声。


 先輩たちの怒鳴り声。


 拡声器のハウリング。


 汗ばんだシャツ。


 少し強い日差し。


 どれも。


 この時期にしか存在しない。


 リハーサル独特の景色だった。



 帰り際。


「明日だね。」


「ね。」


「なんか緊張してきた。」


「でも楽しみ。」


「写真いっぱい撮ろう!」


 女子たちは笑いながら教室へ戻っていく。


 男子たちも。


「明日優勝しようぜ。」


「まず寝坊するなよ。」


「お前こそ。」


「桐生やべぇよな。」


「神崎もいるし、うち結構いけるんじゃね?」


「期待すんな。」


「そこは『任せろ』だろ!」


「言わない。」


 そんなくだらないやり取りを交わしていた。


 明日は体育祭。


 でも。


 本当に特別なのは、たぶん今日だった。


 本番の前だから許される失敗。


 少し緩んだ空気。


 みんなの浮ついた気持ち。


 授業では味わえない高揚感。


 青春というには少し曖昧で。


 思い出というにはまだ早い。


 そんな一日。


 高校一年生の4月は、明日という特別な日を待ちながら、ゆっくりと暮れていった。


次は本番ですね。


本番は三話構成にしようかな。

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