放課後の一コマ
息抜き
のつもりです。
やっぱ白石のこと入れたくなるな…
放課後。
チャイムが鳴り終わった教室には、昼間とは違う空気が流れていた。
部活動へ向かう生徒。
居残って課題を進める生徒。
友達と寄り道の約束をする生徒。
それぞれの「放課後」が始まる時間。
「神崎ー。」
「何。」
「帰る?」
「帰る。」
「即答かよ。」
鞄に教科書を詰めながら、神崎悠真は立ち上がった。
「お前って寄り道とかしないよな。」
「する理由がない。」
「高校生っぽくねぇ。」
「高校生っぽさって何だ。」
「知らん。」
男子たちが笑う。
「そういや体育祭どうする?」
「どうするって?」
「全員リレー。」
「優勝狙う?」
「せっかくだし狙いたくね?」
「一組、意外と強そうだし。」
「神崎いるしな。」
「普通だ。」
「その普通、信用ならないって。」
「あと白石さん。」
「分かる。」
「ダンスめっちゃ上手かったよな。」
「意外だった。」
「最初めっちゃ静かな人かと思った。」
「眼鏡かけて本読んでそうな。」
「偏見だろ。」
「でも優しそうじゃん。」
「教え方も丁寧だったし。」
「男子にも教えてくれそう。」
「お前、それ目的だろ。」
「違うって!」
「いや絶対そうだろ!」
どっと笑いが起こる。
神崎は黙って聞いていた。
「まあ、白石さんって普通にいい人だよな。」
「分かる。」
「話しかけやすいし。」
「でもなんか、ちゃんと線引きしてる感じする。」
「それ。」
「変にベタベタしないというか。」
「……。」
神崎は特に口を挟まなかった。
ただ。
歓迎遠足で少し落ち込んでいた顔。
ダンスを教えながら困ったように笑っていた顔。
この前のリレー練習で、
『それなら十分。』
と言って笑った顔。
そんなものが、ぼんやりと思い浮かぶ。
「神崎。」
「何。」
「お前はどう思う?」
「何が。」
「白石さん。」
「……。」
数秒の沈黙。
「普通じゃないか。」
「雑!」
「絶対それだけじゃないだろ。」
「同じクラスだし。」
「それ感想じゃねぇよ!」
また笑い声が上がった。
◇
「おーい。」
教室の入り口から声がした。
「一年一組ってここで合ってる?」
「ん?」
振り向くと、そこには見覚えのある顔があった。
「あ。」
「一年三組の。」
「桐生だ。」
桐生蓮は気楽そうに片手を上げた。
「神崎いる?」
「俺?」
「うん。」
「何。」
「今度の全員リレー、走順の確認プリント届けに来た。」
「あー、ありがとう。」
「三組の担任に頼まれてさ。」
「律儀だな。」
「断るの面倒だった。」
「お前もか。」
「何が?」
「面倒なの嫌いなタイプ。」
「お前ほどじゃないと思う。」
「……。」
「図星?」
「知らん。」
桐生は笑った。
「模試一位ってもっと怖いやつかと思ってた。」
「失礼だな。」
「思ったより普通だな。」
「よく言われる。」
「いや、あんまり言われてないだろ。」
「確かに。」
「自覚ないんかい。」
男子たちが吹き出した。
◇
「そういえば。」
桐生が何気なく言った。
「一組って雰囲気いいよな。」
「そうか?」
「なんか楽しそうじゃん。」
「全員リレーも強そうだし。」
「お前いるだろ。」
「俺だけじゃ無理だって。」
「そういうもんか。」
「そういうもん。」
桐生は肩をすくめた。
「ダンス上手い子もいるし。」
「白石さん?」
「たぶんその人。」
「有名になってるな。」
「一年の女子たちの間でも話題だったぞ。」
「へぇ。」
「神崎、同じクラスなんだろ?」
「まあ。」
「どんな人?」
「……。」
また視線が集まる。
「何でみんな俺に聞く。」
「同じクラスだから。」
「それ以外に理由ある?」
「ない。」
「ないな。」
「……。」
神崎は少し考えて。
「真面目。」
「うん。」
「意外とよく笑う。」
「へぇ。」
「あと。」
「あと?」
「……。」
ダンスを教えていた姿。
遠足の時の横顔。
嬉しそうに笑った顔。
「困った顔する。」
「何それ。」
「感想?」
「たぶん。」
「ふははっ!」
桐生が声を上げて笑った。
「お前、面白いな。」
「意味が分からん。」
「分からないならいいや。」
そう言って、桐生は手を振った。
「じゃ、俺帰るわ。」
「おう。」
「またな、神崎。」
「ああ。」
◇
夕焼けが教室をオレンジ色に染めていた。
「じゃあ俺らも帰るか。」
「課題やばいし。」
「体育祭も近いな。」
「全員リレー頑張ろうぜ。」
「優勝したいな。」
「まずバトン落とさないようにしろ。」
「それな。」
笑いながら男子たちは教室を出ていく。
最後に神崎も鞄を持った。
窓の外。
グラウンドには部活動の声が響いている。
騒がしくて。
くだらなくて。
でも、少しだけ楽しい。
そんな放課後だった。
――白石美月のことを、男子たちは「いい人」と言った。
神崎悠真は、それを否定しなかった。
ただ。
まだそれ以上の言葉を持っていない。
体育祭まで、あと一週間。
気づかないうちに。
「同じクラスの誰か」は、「なんとなく目に入る誰か」に変わり始めていた。




