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君を好きになるのは、一週間だけのはずだった。  作者: 松茸の香料
第一章 青に染まるまで

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4/16

バトンにこもっていた思い

予定通りリレーです。今日は今まで書きだめしていた文を放出しているので、かなり投稿数が多いと思います。

今日の投稿はこの次までにします。


体育祭編、半分まで行きます。

 体育祭まで、あと十日。


 4月の終わりが近づくにつれて、青峰高校の空気は少しずつ浮き足立っていた。


 朝の教室。


「ねえ、聞いた?」


「何が?」


「今年の全員リレー、アンカー長距離なんだって。」


「えぇぇぇ!?」


「待って、全員リレーって全員走るの?」


「去年もそうだったらしいよ。」


「嘘でしょ!?」


 一年一組は朝から騒がしかった。


 入学して一か月。


 最初は「おはよう」すらぎこちなかったクラスも、今では誰かが話し始めれば自然と輪が広がるようになっていた。


「ホームルーム始めるぞー。」


 担任が教室に入ってくる。


「今日は午後から全員リレーの練習だ。走順も決めるから、ちゃんと話し合えよ。」


「先生、全員って本当に全員ですか?」


「全員だ。」


「運動苦手な人は?」


「頑張れ。」


「ひどっ!」


 教室中に笑いが広がった。


「三年生が言ってたけど、全員リレーが一番盛り上がるらしいぞ。」


「本当かなぁ。」


「いや、絶対盛り上がるでしょ。」


「私は走りたくない!」


 悲鳴混じりの声。


 そんな中。


「神崎、足速い?」


 男子の一人が振り返った。


「普通。」


「その普通、信用できないんだけど。」


「中学でリレー走ってたって聞いた。」


「マジ?」


「へぇ。」


 少しだけ視線が集まる。


「白石さんは?」


「え?」


「走るの得意?」


 突然話を振られた白石美月は、眼鏡の奥で目をぱちぱちさせた。


「得意ではないかな。」


「ダンス上手かったのに?」


「ダンスと走るのは違うよ。」


「確かに。」


 女子たちが笑う。


 白石もつられて笑った。


 教室の前方。


 神崎は特に興味もなさそうに窓の外を見ていた。



 昼休みを終え、一年生たちはグラウンドへ移動した。


 五月の陽射しは強い。


 土の匂い。


 白線の引かれたトラック。


 グラウンドの隅では野球部が声を出していた。


「一年生はこっちに集まってくださーい!」


 腕章をつけた三年生が声を張る。


「まずはバトンパスの練習からやります!」


「全員リレーって本当に全員なんですね……。」


「うちの学校の伝統だからね。」


 三年生が笑った。


「速い人だけじゃなくて、みんなで繋ぐのが大事なんだよ。」


 その言葉に、少しだけざわめきが落ち着く。


「じゃあ、一組は走順確認!」


「うわぁ……。」


「緊張する。」


 クラスごとに集まる。


「誰が最初?」


「アンカー誰?」


「神崎、速いんだろ?」


「だから普通だって。」


「絶対嘘。」


 男子たちが騒ぐ。



「そういえばさ。」


「ん?」


「一年三組に、めちゃくちゃ速い人いるらしいよ。」


「え?」


「中学の県大会優勝したとか。」


「マジで?」


 そんな噂が聞こえ始めた頃だった。


「一年三組、バトンパス確認するよー!」


 三年生の声。


 すると。


 一人の男子が軽く手を挙げた。


「はいはい。」


 背は高め。


 短く切った黒髪。


 日に焼けた肌。


 どこか気の抜けたような笑み。


「桐生、お前ちょっと見本やって。」


「えぇ、俺?」


「頼む!」


「はいはい。」


 男子はスタート位置へ向かった。


「誰?」


「知らない。」


「一年三組の桐生蓮。」


「桐生?」


 次の瞬間。


 パンッ。


 軽く地面を蹴っただけだった。


「……え?」


「速っ。」


「嘘。」


 一年生たちの視線が、一斉に集まる。


 フォームが綺麗だった。


 無駄がない。


 風を切るように走る。


 みるみる距離が開いていく。


 軽く流しているようにしか見えないのに。


「すご……。」


「なにあれ。」


「速すぎる。」


 ゴールした桐生は振り返り、困ったように笑った。


「そんな見るなって。」


「いや見るだろ!」


「普通じゃない!」


「普通だって。」


「その普通、絶対違う!」


 どっと笑いが起きた。



「神崎くん。」


「ん?」


 休憩中。


 少し離れた場所から白石が声をかけてきた。


「さっきの人、すごかったね。」


「ああ。」


「びっくりした。」


「速かったな。」


「神崎くんも走るんだよね?」


「まあ。」


「意外。」


「お前も。」


「え?」


「ダンス。」


 白石は一瞬止まった。


「……見てたの?」


「見えるだろ。」


「そっか。」


 少しだけ照れくさそうに笑う。


「ありがとう。」


「褒めてない。」


「でも、上手いって思ったんでしょ?」


「……事実だ。」


「それなら十分。」


 白石は嬉しそうに笑った。


「神崎くんって、不思議だね。」


「どこが。」


「ちゃんと見てるのに、褒めてる自覚ないところ。」


「そんなつもりない。」


「ふふ。」


 その時。


「白石さーん!」


「こっち来て!」


 女子たちの声。


「あ、ごめん。」


「行ってこい。」


「うん。」


 白石は小さく手を振って駆けていった。


「またね。」


「ああ。」



「神崎ー!」


「何。」


「お前、女子と話してたな。」


「たまたまだ。」


「珍しい。」


「そうか?」


「白石さんだろ?」


「……たぶん。」


「名前覚えてるじゃん。」


「同じクラスだし。」


「へぇ。」


 男子たちが意味ありげに笑う。


「違う。」


「まだ何も言ってない。」


「そういうところだぞ。」


「意味が分からん。」


 神崎はため息をついた。



 練習の終わり。


 クラスごとに円になって座る。


「全員リレーって、速い人だけじゃ駄目なんだね。」


「そりゃ全員だし。」


「バトン落としたら怖いな。」


「大丈夫、大丈夫!」


 笑い声。


 誰かの励まし。


 まだぎこちない連帯感。


 でも。


 最初の頃より、確かにクラスになっていた。


 神崎は遠くを見る。


 一年三組。


 桐生蓮が誰かと笑っていた。


 誰とでも話せるような空気。


 周りを自然と明るくするような雰囲気。


(……変なやつだな。)


 そう思った。


 その一方で。


「白石さん、またダンス教えて!」


「私も!」


「えぇ?」


「お願い!」


「わ、分かった。」


 困ったように笑う白石の姿も視界に入った。


 歓迎遠足。


 ダンス練習。


 そして今日。


 少しずつ。


 本当に少しずつ。


 クラスメイトたちの輪郭がはっきりしていく。


 まだ、特別じゃない。


 まだ、ただの同級生。


 でも。


 体育祭という行事は、確実に一年一組の距離を縮めていた。


 四月の空は高く青い。


 体育祭まで、あと十日。


 まだ誰も知らない。


 この賑やかな日々の中で。


 誰かの恋が、静かに形を変え始めていることを。


体育祭の花形、全員参加リレーです。リレーの時にめっちゃ活躍する人っていましたよね。

当時はそんな人のことを少し憎らしく思っていたんですけど、流石にそれを書くのは趣旨が違うと思い、やめておきました。

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