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君を好きになるのは、一週間だけのはずだった。  作者: 松茸の香料
第一章 青に染まるまで

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初夏のリズム

体育祭編です。ここで白石の意外な特技が出てくるのですが、それがのちに関係するとかしないとか…

かなり先の話になりますね。


五話ほどにまたがる体育祭編もよろしくお願いします。

 4月の青峰高校は、どこか落ち着かなかった。


 窓の外では新緑が揺れ、昼休みになると中庭のベンチは弁当を広げる生徒たちで埋まる。


 入学してから二週間。


 最初はぎこちなかった教室の空気も、いつの間にか変わっていた。


「おはよー。」


「昨日の課題やった?」


「やばい、英単語テスト忘れてた。」


「今さら?」


 笑い声が飛び交う。


 クラスの誰がどんな人なのか、少しずつ分かり始める頃だった。


「ホームルーム始めるぞー。」


 担任が教室に入ってくる。


「来週から体育祭練習が本格的に始まる。今年も三年がダンスを教えてくれるから、ちゃんと覚えろよ。」


「うわー。」


「もうそんな時期か。」


「ダンス無理なんだけど。」


 教室中から悲鳴が上がる。


 神崎悠真は教科書を閉じた。


「ダンスって必要か?」


 ぼそりと呟く。


 すると、近くの席から朝倉陽菜が振り返った。


「伝統だから。」


「その説明で納得できるやついるのか?」


「毎年やってるんだって。」


「毎年やってるから正しいとは限らない。」


「神崎、絶対ダンス苦手でしょ。」


「……否定はしない。」


「珍しい。」


 陽菜は吹き出した。


「勉強万能でも踊れないことあるんだ。」


「別競技だろ。」


「競技じゃないから。」



 六時間目。


 一年生たちは体育館へ向かった。


 体育館の中はすでに熱気に包まれていた。


 二年生。


 三年生。


 そして一年生。


 三学年が一堂に会する光景は圧巻だった。


 前方には、腕章をつけた三年生たちが並んでいる。


「静かにお願いしまーす!」


 マイクを持った三年生の女子が声を張った。


「青峰高校の体育祭ダンスは、全学年で踊る伝統です!」


 ざわついていた体育館が静かになる。


「最初はできなくて当たり前です!」


「私たちも一年生の時はボロボロでした!」


 どっと笑いが起こった。


「だから安心して、一緒に頑張りましょう!」


「よろしくお願いしまーす!」


 三年生たちが頭を下げる。


 その慣れた姿に、一年生たちは思わず拍手を送った。


「先輩すご……。」


「場慣れしてる。」


「三年後、ああなるのかな。」


「無理だろ。」


 そんな声があちこちから聞こえる。



 音楽が流れ始めた。


「まずは見本を見てください!」


 三年生たちの動きは揃っていた。


 ステップ。


 ターン。


 手の振り。


 テンポよく変わるフォーメーション。


「……。」


 見ていた一年生たちは沈黙した。


「え?」


「無理じゃない?」


「速くない?」


「待って待って待って。」


「嘘でしょ。」


 数秒後。


 体育館は悲鳴に包まれた。



「じゃあ、一緒にやってみましょう!」


 三年生が笑顔で言った。


「右足から!」


「はい!」


「次、左!」


「え?」


「回って!」


「どっち!?」


 大混乱だった。


「違う違う!」


「そこ逆!」


「先輩待ってください!」


「足がもつれた!」


 あちこちで笑い声が上がる。


「神崎! 逆!」


 陽菜の声。


「何が。」


「全部!」


「……。」


「なんでその動きになるの!?」


「分からん。」


「今のどうやったの!?」


「こっちが聞きたい。」


 男子たちが吹き出した。


「神崎、ダンス壊滅的じゃん。」


「初めて親近感湧いた。」


「放っとけ。」


 神崎は眉間にしわを寄せた。


 勉強と違って正解が分からない。


 妙に悔しかった。



「白石さん!」


「え?」


「ちょっと見て!」


「えっと……。」


 女子グループの一角。


「すごくない?」


「え、ほんとだ。」


「動き綺麗。」


「覚えるの早っ!」


 白石美月は困ったように瞬きをした。


「そんなことないよ。」


「あるって!」


「ダンス習ってた?」


「ううん。」


「じゃあなんで?」


「小さい頃、音楽番組見ながら真似してただけ。」


「それだけで?」


「う、うん。」


「才能じゃん!」


「いやいや。」


 白石は苦笑した。


 本人に自覚はなかった。


 でも。


 音に合わせるのが自然だった。


 リズムを取ることが苦じゃなかった。


「白石さん、ここ教えて!」


「えっとね。」


 人差し指で流れを確認する。


「右、左、前。」


「こう?」


「そうそう!」


「できた!」


「ありがとう!」


「私でよければ。」


 照れくさそうに笑った。



「……。」


「神崎?」


「ん?」


「何見てんの?」


 男子の一人に声をかけられる。


 神崎は視線を戻した。


「別に。」


 でも。


 さっき見えた光景が頭に残っていた。


 歓迎遠足で。


 雨を見ながら少しだけ残念そうにしていた女子。


 自己紹介では静かな印象だった女子。


 その白石が。


 女子たちに囲まれながら、困ったように笑っていた。


 楽しそうに踊っていた。


「白石さんって意外だよな。」


 誰かが言った。


「真面目一本って感じだった。」


「分かる。」


「ダンス上手いのびっくり。」


「……。」


 神崎は少しだけ考える。


 そして。


「まあ。」


 短く答えた。


「上手いな。」


 それだけだった。



「今日はここまで!」


 三年生の声に、体育館中から安堵のため息が漏れる。


「疲れたー!」


「足痛い!」


「明日筋肉痛だ。」


「まだ始まったばっかりだぞ!」


 三年生の笑い声。


「一年生、頑張れー!」


「頑張ります!」


 帰り支度をする生徒たち。


「白石さん、また教えてね!」


「えっ。」


「お願い!」


「私でよければ。」


「やった!」


 女子たちが笑う。


 一方。


「神崎。」


「何。」


「来週までに覚えといて。」


「努力はする。」


「珍しく前向き。」


「できないのは気持ち悪い。」


「負けず嫌いだねぇ。」


「別に。」


 そう言いながら、神崎は鞄を肩にかけた。


 体育館を出る。


 初夏の風が吹き抜けた。


 入学して二週間。


 同じ教室で過ごしていても、知らないことはたくさんある。


 遠足を楽しみにしていたこと。


 案外よく笑うこと。


 そして。


 ダンスが上手いこと。


 まだ、ただのクラスメイト。


 でも。


 "白石美月"という名前の輪郭は、少しずつはっきりし始めていた。


 体育祭まで、あと二週間。


 この行事が誰かの恋を動かすことを、まだ誰も知らない。


 ただ、高校一年生の4月は、賑やかに過ぎていくのだった。


僕の学校では、4月後半に体育祭があって、全員参加の種目はダンスとリレーでした。どちらも練習量が多くてきつかったですが、それもいい思い出として扱っています。


今回はダンスを入れたので、次はリレーかな〜

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