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歓迎遠足に雨はつきもの

今回は歓迎遠足編です。(といっても一話だけですが…)

まだ2人の接点はないですが、ここから少しづつ関わっていく…はずです。

 歓迎遠足。


 新入生同士の親睦を深めるための恒例行事。


 目的地は、市内にある総合公園。


 現地集合、現地解散。


 クラスごとのレクリエーションのあと、自由時間を過ごして帰る予定だった。


「神崎ー!」


「……朝から元気だな。」


 改札前で待っていた神崎悠真のもとへ、朝倉陽菜が駆け寄る。


「なんで一人で行こうとしてるの?」


「一人で行ったら駄目なのか。」


「駄目じゃないけど、寂しくない?」


「別に。」


「高校二日目にしてその答え?」


「電車に乗って降りるだけだろ。」


「だからそういうところ!」


 陽菜は呆れたようにため息をついた。


「せっかくなんだから、クラスの人と仲良くしなよ。」


「昨日も言ってたな。」


「大事なことだからね。」


「そのうち覚える。」


「名前だけじゃなくて顔も覚えて。」


「努力はする。」


「お、珍しい。」


 神崎はスマホを取り出すこともなく、駅の時計を見た。


「そろそろ行くぞ。」


「ほんと連絡手段ないの不便じゃない?」


「困ったことない。」


「だから神崎なんだよなぁ……。」



「美月、こっちこっち!」


「ごめん、待った?」


「全然!」


 白石美月は改札前で、昨日少し話した女子たちと合流した。


「おはよう!」


「おはよう。」


「遠足楽しみだね!」


「うん。」


 思わず笑みがこぼれる。


 昨日は入学式で慌ただしかった。


 ちゃんと話せた人なんて数えるほどしかいない。


 でも今日は違う。


 もっと色んな人と話せるかもしれない。


 高校生活最初のイベント。


 少しだけ、わくわくしていた。


「お弁当持ってきた?」


「お母さんと一緒に作ったよ。」


「いいなぁ!」


「卵焼き上手くできた?」


「ちょっと焦げたかも。」


「それも思い出だよ!」


 女子たちが笑う。


 白石もつられて笑った。


「天気だけ心配だね。」


「午後から雨かもって。」


「えー。」


 ホームから見える空は、薄い灰色だった。


「大丈夫だよ。」


「降らないって信じよう!」


「うん。」


 そう答えながら、白石は空を見上げた。



 総合公園に着いた頃には、新入生たちの緊張も少しほぐれていた。


「一年一組、こっちに集合!」


 先生の声が響く。


「これから簡単なレクリエーションを行います!」


「よーし!」


「頑張るぞ!」


 盛り上がる声。


「神崎、お前も来い。」


「行ってる。」


「その顔は『面倒だな』って顔だぞ。」


「否定はしない。」


「する気もないのかよ。」


 男子たちの輪に入る。


「神崎って模試一位の?」


「らしいな。」


「自分のことだろ。」


「何点くらい取るんだ?」


「教科による。」


「会話しづらっ!」


 どっと笑いが起きる。


 神崎は少しだけ肩をすくめた。


 その少し離れた場所。


「白石さん、意外と面白いね!」


「え?」


「もっと静かなタイプかと思ってた。」


「そんなことないよ。」


「よかったー!」


「私も緊張してたから。」


 女子たちと笑い合う白石の姿があった。


 昨日より自然な笑顔。


 神崎はたまたまその方向に目を向けた。


(……白石。)


 昨日の自己紹介。


 読書が好きです。


 よろしくお願いします。


 それだけ言っていた女子。


 思ったより、普通だった。


 いや。


 普通だからこそ、昨日の印象と少し違った。


「神崎?」


「ん?」


「何見てんだ?」


「別に。」


 すぐに視線を戻した。



 レクリエーションは思った以上に盛り上がった。


 簡単なクイズ。


 グループ対抗ゲーム。


 自己紹介を兼ねた会話。


「次、好きな食べ物!」


「カレー!」


「子どもじゃん!」


「カレーを馬鹿にするな!」


 笑い声が広がる。


 白石も楽しかった。


 少しずつ名前を覚えて。


 話して。


 笑って。


(高校って、こういう感じなんだ。)


 そんなことを思った、その時だった。


 ぽつ。


「……あれ?」


 白石が空を見上げる。


 頬に、冷たい感触。


 ぽつ。


 ぽつ、ぽつ。


「え、雨?」


「うそ!?」


「マジかよ!」


 ざわめきが広がる。


 先生たちが慌ただしく動き始めた。


「全員、屋根のある場所へ移動してください!」



「天候悪化のため、本日の歓迎遠足はここで終了します!」


 体育館のような施設の中。


 先生の声に、生徒たちの悲鳴が上がる。


「ええええ!?」


「まだお弁当食べてない!」


「せっかくなのに!」


「うそだろー!」


「このまま現地解散とします! 気を付けて帰るように!」


 大きなため息。


 落胆の声。


 みんな名残惜しそうに荷物をまとめ始めた。


「しょうがないよね。」


「また何かあるって。」


「そうだよ。」


 女子たちが言う。


 白石も笑った。


「うん。」


「またみんなで遊ぼう!」


「そうだね。」


 でも。


 みんなが準備をしている間。


 白石は一歩だけ輪から離れた。


 施設の外。


 降り続く春の雨を見つめる。


 手に持った歓迎遠足のしおり。


 予定表には、自由時間や昼食の文字が並んでいた。


(もっとみんなと話したかったな。)


(お弁当も一緒に食べたかったし。)


(楽しみにしてたのに。)


 少しだけ。


 本当に少しだけ。


 肩が下がる。


「……。」


 眼鏡の奥の表情が曇った。


 ほんの数秒。


 それだけだった。



「神崎、帰るぞ。」


「ああ。」


 荷物を持って立ち上がった時。


 神崎は、たまたまそちらを見た。


 雨を見る白石。


 俯き加減の横顔。


 楽しそうにしていた女子たちの輪から、ほんの少しだけ離れた背中。


(……あ。)


 遠足が中止になれば残念だ。


 そんなの当たり前だ。


 でも。


 昨日の自己紹介。


 真面目そうな女子。


 感情を表に出さなそうな印象。


 だからこそ。


(楽しみにしてたんだな。)


 そう思った。


 それだけだった。


 話しかける理由はない。


 慰めるほど親しくもない。


 ただ。


 同じクラスの女子が少し残念そうにしている。


 それを見ただけ。


「神崎?」


「……なんでもない。」


「珍しい顔してる。」


「気のせいだ。」


 そう言って歩き出した。



「じゃあ、また月曜日!」


「バイバーイ!」


「気を付けてね!」


「またね!」


 女子たちと手を振って別れる。


 白石は駅のホームに立った。


 雨の匂いがする。


(もっとみんなと話したかったな。)


(でも、また学校で会えるし。)


 そう思って顔を上げる。


 向かい側のホーム。


 同じ制服。


 同じクラス。


 神崎悠真が立っていた。


 一瞬だけ目が合う。


「……。」


「……。」


 でも、それだけだった。


 会釈もない。


 挨拶もない。


 すぐにお互い視線を逸らす。


 まだ、ただのクラスメイト。


 名前は知っている。


 顔も知っている。


 それ以上でも、それ以下でもない。


 ただ。


 神崎の頭の片隅には。


 雨を見ながら少しだけ残念そうにしていた眼鏡の女子の姿が。


 白石の記憶の隅には。


 自己紹介を一言で終わらせた少し変わった男子の姿が。


 ほんの少しだけ、残っていた。


 高校生活二日目。


 歓迎遠足は、雨の匂いとともに終わった。


 そして二人の距離はまだ、教室の端から端くらい離れたままだった。


僕の歓迎遠足の時期は雨がなぜか多くて、何回も中止になったんですよね。

物語の中だけ行かせるのが気に食わなかったので、雨で中止にしました。来年は晴れるといいですね。


次は体育祭に向かって行きます。

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