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君を好きになるのは、一週間だけのはずだった。  作者: 松茸の香料
萌ゆる心

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56/62

56,夏の夜に 〜浴衣編〜

夏祭りは2回に分けて書きます。

今回は浴衣編です。

 八月最初の土曜日。

 昼間の暑さが少しだけ和らぎ始めた夕方。

 白石は自室の鏡の前で、少し落ち着かない様子で立っていた。

「美月ー、まだ?」

 階下から姉の声が聞こえる。

「もうちょっと!」

 そう返事をしながら、もう一度鏡を見る。

 淡い水色を基調に、小さな朝顔が散りばめられた浴衣。

 紺色の帯は姉が結んでくれた。

 髪もいつもより少しだけ高い位置でまとめられ、小さな白い髪飾りが揺れている。

(なんか……落ち着かない。)

 制服とも部活着とも違う自分の姿に、少し照れくさくなる。

 すると、部屋のドアがノックされた。

「入るよー。」

 姉が顔をのぞかせる。

「おー。」

 白石の姿を見るなり、嬉しそうに笑った。

「似合ってるじゃん。」

「そう?」

「うん。いつもの美月と雰囲気違う。」

「変じゃない?」

「全然。」

 姉は満足そうに頷く。

「そのままデート行けそう。」

「もう!」

 白石は少し頬を膨らませる。

「違うって。」

「はいはい。」

 姉は笑いながら部屋を出ていった。

「楽しんでおいで。」

「いってきます。」

 待ち合わせ場所は駅前の時計台。

 まだ開始時間より少し早い。

 白石が着くと、すでに一人が手を振っていた。

「美月!」

「生田ちゃん!」

 生田はクリーム色の浴衣に、赤い帯を締めていた。

「似合ってる!」

「ありがとう!」

 生田は白石を見て目を輝かせる。

「美月もすごく似合う!」

「なんか恥ずかしい……。」

「今日はいっぱい写真撮ろうね!」

 二人が話していると、

「ごめーん!」

 少し離れたところから声が聞こえた。

 朝比奈が駆け寄ってくる。

「待った?」

「全然。」

「セーフ!」

 朝比奈は薄紫色の浴衣姿だった。

 三人並ぶと、それぞれ雰囲気が違って面白い。

「よし!」

 生田が笑顔で言う。

「夏祭り、楽しもう!」

「おー!」

 三人は笑いながら会場へ歩き始めた。

 祭り会場へ近づくにつれて、人が増えていく。

 屋台からはソースや焼きとうもろこしの香ばしい匂いが漂い、子どもたちの笑い声が響いていた。

「まず何食べる?」

 朝比奈が辺りを見回す。

「たこ焼き!」

 生田が即答する。

「えー、かき氷!」

「先にご飯でしょ。」

 三人で笑い合いながら屋台を見て回る。

 たこ焼き。

 焼きそば。

 りんご飴。

 ベビーカステラ。

「誘惑多すぎる……。」

 白石が苦笑すると、生田が腕を組んできた。

「今日はカロリー気にしない日!」

「そんな日あるの?」

「ある!」

 三人はたこ焼きを買い、近くのベンチへ座る。

「熱っ!」

 朝比奈が慌てて口を押さえる。

「だから言ったのに。」

 白石が笑う。

「ふーふーしてから食べないと。」

「白石、お母さんみたい。」

「え?」

「確かに。」

 生田まで頷く。

「二人とも!」

 三人は顔を見合わせ、大笑いした。

 食べ終わると、生田がスマホを取り出した。

「写真撮ろ!」

「いいよ。」

 三人は屋台の提灯を背景に並ぶ。

「はい、チーズ!」

 カシャッ。

「かわいい!」

「朝比奈、目閉じてる。」

「うそ!」

「もう一枚!」

 何枚も撮り直しながら笑い声が響く。

 その様子を見ていた近くのおばあさんが、

「撮ってあげようか?」

と声をかけてくれた。

「あ、お願いします!」

 三人は並び直す。

「せーの!」

 夜店の明かりに照らされながら、夏の思い出が一枚の写真に収まった。

 写真を確認しながら歩いていると、生田がふと白石の横顔を見た。

「ねぇ、美月。」

「ん?」

「今日さ。」

「うん。」

「誰か探してる?」

 白石の足が、一瞬だけ止まった。

「え?」

「さっきからキョロキョロしてる。」

「そう?」

「してる。」

 朝比奈も頷く。

「確かに。」

 白石は慌てて首を振る。

「そ、そんなことないよ。」

「ほんとに?」

「うん。」

 そう答えながらも、自分でも気づいていた。

 人混みの向こうに、つい見覚えのある姿を探してしまっていることに。

(……なんでだろ。)

 補習で毎日のように会っていた。

 だから、祭りに来ていてもおかしくはない。

 そんなことを考えてしまう自分に、少しだけ苦笑する。

 そのとき、遠くからアナウンスが流れた。

『まもなく花火大会を開始いたします。観覧のお客様は――』

 人の流れが、一斉に川沿いへ向かい始める。

 三人も顔を見合わせた。

「行こっ!」

 白石は頷き、人の波の中へ足を踏み出した。

 その少し離れた場所に、神崎たちがいることを、まだ誰も知らなかった。

――花火編へ続く。

次の花火編は今日の17:00ごろに投稿します。確認してみてください

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