54,忘れ物
補修二回目です。
補習二日目。
教室には今日も静かな空気が流れていた。
窓の外では蝉が鳴き続け、グラウンドからは運動部の掛け声が聞こえてくる。
「じゃあ、この問題を解いてみよう。」
先生の声が響く。
神崎はすぐにペンを動かし始める。
中山も負けじと問題へ向き合う。
白石も昨日教えてもらったことを思い出しながら、一行ずつ丁寧に式を書き進めていった。
分からないから止まるのではなく、分かるところまで考えてみる。
それだけでも、以前とは違っていた。
補習が終わるころには、時計の針は正午を少し回っていた。
「今日はここまで。」
先生がプリントをまとめる。
「課題は明日提出。分からないところがあれば、自分で考えてから質問すること。」
生徒たちはそれぞれ帰り支度を始めた。
「先生、この問題なんですけど。」
中山は今日も教壇へ向かう。
神崎は教科書とノートを鞄へしまい、教室を出ていった。
白石は配られたプリントをファイルへ挟み、机の上を整える。
いつものように、一つひとつ確認しながら荷物をまとめていると——
「あれ?」
神崎の席に、一冊のノートが残っていた。
表紙には数学の演習ノートと書かれている。
(忘れ物……。)
白石は教室の入口を見る。
もう姿はない。
先生はまだ中山へ説明している。
少しだけ迷った。
職員室へ届けることもできる。
でも——
(まだ、追いつけるかな。)
白石はノートを手に取り、小走りで廊下へ出た。
昇降口。
ちょうど靴を履き替えようとしていた神崎の背中が見えた。
「神崎くん!」
声をかけると、神崎が振り返る。
「白石?」
白石は少し息を弾ませながら近づいた。
「これ。」
差し出したのは数学の演習ノート。
神崎は目を丸くする。
「あ……。」
自分の鞄を開く。
入っていない。
「忘れてた。」
「机の上にあったよ。」
「気づかなかった。」
神崎は少し照れくさそうに笑った。
「ありがとう。助かった。」
「ううん。」
白石も自然と笑顔になる。
「数学のノートだから、ないと困るかなって。」
「明日の課題にも使うから、本当に助かった。」
神崎はノートを受け取り、大事そうに鞄へしまった。
「最近、忘れ物なんて珍しいね。」
白石が笑うと、神崎も苦笑する。
「研修とか補習とかで荷物が多くて。」
「なるほど。」
それだけの会話。
特別なことは何もない。
でも、不思議と気まずさはなかった。
沈黙になっても、居心地は悪くない。
「じゃあ。」
神崎が軽く会釈する。
「また明日。」
「うん。また明日。」
神崎は自転車置き場へ向かい、白石は反対方向へ歩き出す。
数歩進んだところで、白石はふと振り返った。
神崎はもう自転車に乗り、校門を出ていくところだった。
その背中を見送りながら、白石は小さく微笑む。
(ちゃんと渡せてよかった。)
たったそれだけの出来事。
それなのに、今日という一日は少しだけ特別なものになった気がした。
夏の青空の下、蝉の鳴き声は変わらず響いていた。
夏といえば夏祭り!
たのしぃなぁ




