夏の教室
久しぶりに二人が再会します。ストーリー上では2話ですが、現実はもっと長いです。
夏休みに入って二週間ほどが過ぎた。
朝から強い日差しが照りつける中、神崎は学校への坂道を歩いていた。
部活動の生徒とは違い、制服姿の生徒はまばらだ。
今日は、成績上位者を対象とした補習初日。
教室に入ると、いつもの喧騒はなく、十数人ほどの生徒が静かに席へ着いていた。
「おはよう。」
窓際の席から声がした。
中山だった。
「おはよう。」
神崎も短く返す。
中山は参考書を開いたまま、問題を解いている。
「夏休みなのに勉強か。」
「神崎もでしょ。」
「まあ。」
二人は軽く笑い合う。
期末考査では、中山が一位、神崎が二位。
順位は競っていても、必要以上に張り合う関係ではない。
互いに認め合うライバルだった。
神崎が自分の席へ向かう。
その途中、教室の後ろの方に視線が止まった。
「あ……。」
白石だった。
神崎に気付くと、小さく笑って会釈する。
「おはよう。」
「おはよう。」
たったそれだけ。
それだけなのに、どこか懐かしい。
毎日のように顔を合わせていたはずなのに、夏休みに入ってからは一度も会っていなかった。
白石も同じことを思っていた。
(久しぶりだ。)
ほんの二週間。
それだけなのに、不思議と長く感じる。
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「じゃあ始めるぞ。」
先生が教壇に立つ。
補習は通常授業よりも少人数だ。
問題演習が中心で、教室には鉛筆を走らせる音だけが響いていた。
数学。
英語。
現代文。
どれも難易度は普段より少し高い。
白石は数学の問題集を見つめ、小さく眉をひそめた。
(これ……。)
少し考える。
以前なら手が止まっていただろう。
けれど、今は違う。
(落ち着いて。)
問題文を整理する。
条件を書き出す。
先生の説明。
そして、期末考査前に神崎が教えてくれた解き方。
(まず条件を一つずつ。)
ノートに式を書き進める。
最後までたどり着いた。
答えは合っていた。
(できた。)
思わず小さく息を吐く。
教室の前では先生が頷いた。
「白石、その解き方でいい。」
「はい。」
少しだけ自信がついた。
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一時間目が終わる。
休み時間。
教室には穏やかな空気が流れていた。
白石は水筒を持って廊下へ出る。
ちょうど、自動販売機から戻ってきた神崎と目が合った。
「あ。」
「久しぶり。」
「……うん。」
白石は少し照れながら笑う。
「部活、大変?」
「暑いけど。」
神崎が答える。
「卓球だから。」
「理系部もあるんだよね。」
「ああ。研修もある。」
「忙しそう。」
「白石も弓道部だろ。」
「うん。」
短い会話。
でも、不思議と途切れない。
「……順位。」
神崎がふと思い出したように言う。
「おめでとう。」
白石は目を丸くした。
「え?」
「八位。」
「あ……。」
その一言だけで十分だった。
神崎がちゃんと覚えていてくれた。
それだけで胸がいっぱいになる。
「ありがとう。」
自然と笑みがこぼれる。
神崎も小さく頷いた。
「努力してたからな。」
それだけ言って教室へ戻っていく。
白石はその背中を見送りながら、胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じていた。
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「神崎。」
教室へ戻ると、中山が声を掛けてきた。
「この英語、どう訳した?」
神崎は問題集を覗き込む。
「そこは……。」
二人で答えを確認する。
「なるほど。」
「次は負けない。」
中山が笑う。
「俺も。」
神崎も短く返した。
そのやり取りを見ていた白石は、少しだけ羨ましく思った。
(やっぱりすごいな。)
同じ目線で競い合える相手がいる。
そんな神崎の姿は、少しだけ遠く見えた。
でも。
(私も頑張ろう。)
そう思わせてくれる人でもあった。
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午前中の補習が終わる。
「また明日。」
先生の声とともに、生徒たちは帰り支度を始めた。
教室を出るタイミングが、偶然重なる。
「帰る?」
神崎が聞く。
「うん。」
「じゃあ。」
二人は並んで廊下を歩き始めた。
夏の日差しが、窓から長く差し込んでいた。
その距離は、一学期よりほんの少しだけ近くなっていた。
もうすぐ夏休み編が終わります。
来年はもっと長くなってくれ・・・




