夏の寄り道
次は白石の番です。
夏休みに入って五日目。
朝から強い日差しが照りつける中、弓道場には弦を払う音が静かに響いていた。
「会、長く保って。」
顧問の指導を受けながら、白石はゆっくりと息を整える。
弓を引き切り、的だけを見つめる。
――離れ。
放たれた矢は一直線に飛び、的の黒をかすめた。
「惜しい。」
隣で見ていた生田が笑う。
「でも最近、だいぶ安定してきたよね。」
「そうかな?」
「うん。前より全然いい。」
白石は少し照れくさそうに笑った。
期末考査が終わってからも、勉強だけではなく部活も手を抜いていない。
毎日の積み重ねが、少しずつ結果になり始めていた。
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「終わったぁ……。」
午前の練習が終わると、生田が道着の袖で額の汗を拭いた。
「暑すぎる……。」
「今日は特にね。」
朝比奈も苦笑する。
三人は更衣室で着替えを済ませ、昇降口を出た。
強い日差しに思わず目を細める。
「コンビニ寄っていかない?」
生田の一言に、二人は顔を見合わせた。
「賛成。」
「私も。」
学校近くのコンビニでアイスと飲み物を買い、店の前の日陰にあるベンチへ腰を下ろす。
「生き返る……。」
生田がアイスを一口食べ、大げさに肩を落とす。
その様子に、白石と朝比奈は思わず笑った。
「夏休みなのに、毎日学校来てる気がする。」
「部活あるからね。」
「まあ、それも高校生って感じだけど。」
しばらくは、他愛もない話が続いた。
宿題のこと。
部活のこと。
二学期の文化祭のこと。
そんな話題が一段落したところで、生田がストローをくわえたまま、にやりと笑った。
「そういえばさ。」
その表情を見た瞬間、白石は少し嫌な予感がした。
「……何?」
「神崎くんとは、夏休み入ってから会ってないの?」
白石の動きが止まる。
「……うん。」
「へぇ。」
生田は意味ありげに頷いた。
「寂しい?」
「えっ!?」
「その反応。」
「ち、違うって!」
慌てて否定する白石を見て、生田は声を上げて笑う。
「図星じゃん。」
「もう!」
白石が頬を膨らませる。
そのやり取りを見ていた朝比奈が、小さく笑いながら口を開いた。
「昨日、塾で神崎くん見たよ。」
その一言で、白石の視線が朝比奈へ向く。
「本当?」
「うん。」
「元気だった?」
「いつも通り。」
「……いつも通り?」
「授業始まる前にはもう席に座ってて、終わったらすぐ帰る。」
朝比奈は苦笑する。
「相変わらず真面目。」
白石は少し安心したように微笑んだ。
「そうなんだ。」
「でもね。」
朝比奈は少し考えるように言葉を続ける。
「質問されたらちゃんと教えてくれるし、先生とも普通に話してるよ。」
「それは学校と同じだね。」
生田が笑う。
「うん。」
白石も自然と笑みを浮かべる。
その笑顔を見逃さず、生田がすぐに口を挟んだ。
「ほら。」
「え?」
「今、笑った。」
「え?」
「神崎くんの話してるときだけ。」
白石は思わず自分の頬に触れる。
本当に笑っていたらしい。
「わ、私……。」
「無意識なんだ。」
朝比奈がくすっと笑う。
「そういうところ、かわいいけどね。」
「からかわないでよ……。」
恥ずかしくて俯く白石。
二人はそんな白石を見て、また笑った。
笑われているのに、不思議と嫌な気はしない。
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アイスを食べ終え、三人は歩き始める。
「そういえば補習って来る?」
生田が思い出したように聞く。
「うん。」
白石は頷く。
「順位上がったから、今回は上位者補習。」
「朝比奈も?」
「私は行くよ。」
朝比奈は少し考えてから付け加えた。
「神崎くんも、多分来ると思う。」
その言葉に、白石の足がほんの少しだけ止まる。
(会える……。)
夏休みに入ってから初めて。
ほんの少しだけ、その日が楽しみになった。
蝉の鳴き声が響く帰り道。
照りつける太陽は変わらないのに、白石の足取りは来たときよりも少しだけ軽くなっていた。
次回、補修です。
あと、夏休み編もうそろそろ終わります。




