46,順位表
期末考査が終わって数日。
朝から教室はどこか落ち着かなかった。
「今日だよな。」
「順位出るらしい。」
「やだなぁ……。」
廊下では、他のクラスの生徒までそわそわしている。
学年順位は、一階の掲示板に張り出される。
休み時間になると、毎回人だかりができるのが恒例だった。
一時間目が終わる。
チャイムが鳴ると同時に、教室を飛び出す生徒が何人もいた。
「見に行こう!」
「神崎、行くぞ!」
桐生に腕を引かれ、神崎も立ち上がる。
「別に急がなくても……。」
「気になるだろ!」
「……まあ。」
二人は人混みの中へ向かった。
掲示板の前はすでに大勢の生徒で埋まっていた。
「見えねぇ!」
「押すなって!」
桐生は背伸びをしながら順位表を探す。
神崎は人の隙間から視線を滑らせた。
一位。
その名前を見た瞬間、目が止まる。
一位 中山 雫
(……。)
そのすぐ下。
二位 神崎 悠真
神崎は静かに順位表を見つめた。
悔しくないと言えば嘘になる。
ほんの数点。
それだけ届かなかった。
(負けたか。)
不思議と頭は冷静だった。
次は勝つ。
それだけだ。
「えっ!?」
桐生が大きな声を上げる。
「中山が一位!?」
「ああ。」
「珍しいじゃん。」
「今回は向こうが上だった。」
神崎はそれ以上何も言わなかった。
順位表から目を離し、何気なく下へ視線を移す。
そこで、もう一つ見慣れた名前が目に入った。
八位 白石 美月
(……八位。)
一瞬だけ目を見開く。
中間考査では三十一位だった。
二十人以上、一気に順位を上げている。
(すごいな。)
自然とそう思った。
少し遅れて、白石と生田たちも掲示板へやって来た。
「緊張する……。」
「大丈夫だって!」
「いや、でも……。」
白石は恐る恐る順位表を見る。
上から順番に目で追っていく。
一位。
二位。
三位。
まだない。
(やっぱり……。)
そう思った、そのとき。
八位 白石 美月
「……え。」
思わず声が漏れた。
もう一度見る。
間違いない。
八位だった。
「美月!」
生田が肩を揺らす。
「一桁じゃん!」
「すごっ!」
「本当だ……。」
信じられなかった。
三十一位だった自分が。
一桁。
目標だった場所に、少しだけ手が届いた。
気付けば、目の奥が熱くなっていた。
(頑張って……よかった。)
教室へ戻る途中。
廊下で神崎とすれ違う。
「あ。」
白石が立ち止まる。
「神崎くん。」
「ん。」
一瞬だけ沈黙が流れる。
何を話せばいいのか分からない。
そんな空気を破ったのは神崎だった。
「お前。」
白石は顔を上げる。
「結構上がったな。」
その声はいつも通りだった。
大げさに褒めるわけでもない。
驚いたような口調でもない。
ただ、事実をそのまま伝えるような一言。
それでも。
その一言が、白石には何より嬉しかった。
「……うん。」
自然と笑みがこぼれる。
「ありがとう。」
「別に。」
神崎は照れくさそうに視線を逸らした。
「頑張ったんだろ。」
「……うん。」
短いやり取りだった。
それだけで十分だった。
神崎はそのまま教室へ戻っていく。
白石はその背中を見送りながら、小さく拳を握った。
(もっと頑張ろう。)
(次は、もっと近づきたい。)
学年一位ではなく。
好きな人の隣に立てるくらいまで。
その目標が、白石の中ではっきりと形になった瞬間だった。
神崎くん、次頑張らないとですね。
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