表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
君を好きになるのは、一週間だけのはずだった。  作者: 松茸の香料
萌ゆる心

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
45/54

45,期末考査

期末考査当日です。

 期末考査初日。


 いつもより三十分早く登校した白石は、教室の扉を静かに開けた。


 まだ教室には数人しかいない。


 窓から差し込む朝日が机を照らし、扇風機だけがゆっくりと回っている。


(よかった……。)


 少しだけ早く来られた安心感と、試験への緊張が入り混じる。


 鞄から数学の問題集を取り出し、昨日印を付けたページを開いた。


 公式を確認する。


 場合の数。


 確率。


 組合せ。


 何度も解き直したページには、シャーペンの跡がいくつも残っていた。


 そのとき、教室の扉が開く。


 顔を上げると、神崎だった。


「あ……。」


「おはよう。」


「お、おはよう。」


 神崎は短く挨拶を返すと、自分の席へ向かう。


 鞄から英単語帳を取り出し、静かに読み始めた。


(神崎くんも早いんだ。)


 以前なら、その姿を見るだけで落ち着かなかった。


 でも今は違う。


 同じ教室で、それぞれ試験に向かって勉強する。


 そんな時間が、少し心地よかった。


---


 チャイムが鳴る。


 試験監督の先生が答案用紙を配っていく。


 教室は一気に静まり返った。


 紙をめくる音。


 シャーペンが走る音。


 壁の時計だけが、規則正しく時を刻んでいる。


 神崎はいつも通りだった。


 問題用紙を一通り見渡し、解けるものから順番に解いていく。


(悪くない。)


 難易度は標準的。


 計算ミスさえしなければ問題ない。


 一方、白石は一問一問慎重に解き進めていた。


(落ち着いて。)


(焦らなくていい。)


 途中までは順調だった。


 そして最後の大問に目を移した瞬間、手が止まる。


   ある学級には四十人の生徒がいる。


   その四十人を横一列に並べるとき、特定の二人が隣り合う確率を求めよ。


(……これ。)


 見覚えがあった。


 あの日の数学の授業。


 黒板。


 チョークの音。


 そして、神崎の声。


   「一つのまとまりとして考える。」


 頭の中で、その言葉がはっきりと蘇る。


(そうだ。)


(二人を一つにする。)


 白石は深呼吸を一つして、式を書き始めた。


 三十九個として並べる。


 二人の並び方は二通り。


 全体は四十人。


 答えを書き終えたところで、自然と肩の力が抜けた。


(解けた……。)


 あのときは、自分では思いつかなかった考え方。


 でも今は、自分の力で最後まで解くことができた。


 小さな成長だった。


 それでも、白石にとっては大きな一歩だった。


---


 試験終了のチャイムが鳴る。


 一斉にため息が漏れた。


「終わったー!」


「数学、最後難しくなかった?」


「確率で詰んだ……。」


 教室中からそんな声が聞こえる。


 生田も机に突っ伏した。


「最後の問題、意味分かんなかった……。」


「私は、何とか。」


「えっ、解けたの!?」


「授業で似た考え方をやったから。」


「先生のやつ?」


 白石は少しだけ迷ってから首を横に振った。


「……ううん。」


 神崎に教えてもらった。


 そう言おうとして、照れくさくなってやめた。


 その代わり、小さく笑う。


「前に教えてもらったことを思い出したの。」


「へぇー。」


 生田は感心したようにうなずいた。


 少し離れた席では、桐生が大げさに頭を抱えていた。


「神崎! 最後の問題どうした!?」


「普通に。」


「普通じゃねぇよ!」


「まとまりで考えれば終わり。」


「あぁー! 終わってから言うな!」


 男子たちが笑う。


 そのやり取りを聞きながら、白石も思わず口元を緩めた。


(やっぱり……。)


(あのとき聞いてよかった。)


---


 二日目。


 三日目。


 教室は日に日に疲れた空気に包まれていった。


「あと一日……。」


「眠い……。」


「夏休みまで頑張ろう。」


 そんな声が飛び交う。


 神崎は相変わらず落ち着いて問題集を閉じ、白石は休み時間のたびに単語帳を開く。


 勉強する姿が、もう当たり前になっていた。


---


 最終日。


 最後のチャイムが鳴った瞬間、教室中から歓声が上がる。


「終わったぁ!」


「夏休みだー!」


「まだ終業式あるぞ!」


 先生の一言に、教室が笑いに包まれた。


 神崎は答案用紙を提出すると、大きく伸びをする。


(終わったな。)


 白石も窓の外を見上げた。


 真っ青な空に、大きな入道雲が浮かんでいる。


(やれることは、全部やった。)


 結果がどうなるかは分からない。


 でも、不思議と後悔はなかった。


 その胸には、小さな自信が芽生え始めていた。


 ――そして数日後。


 その努力は、数字となって返ってくることになる。


結果はちょっと意外かもしれませんね。どうなんでしょ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ