45,期末考査
期末考査当日です。
期末考査初日。
いつもより三十分早く登校した白石は、教室の扉を静かに開けた。
まだ教室には数人しかいない。
窓から差し込む朝日が机を照らし、扇風機だけがゆっくりと回っている。
(よかった……。)
少しだけ早く来られた安心感と、試験への緊張が入り混じる。
鞄から数学の問題集を取り出し、昨日印を付けたページを開いた。
公式を確認する。
場合の数。
確率。
組合せ。
何度も解き直したページには、シャーペンの跡がいくつも残っていた。
そのとき、教室の扉が開く。
顔を上げると、神崎だった。
「あ……。」
「おはよう。」
「お、おはよう。」
神崎は短く挨拶を返すと、自分の席へ向かう。
鞄から英単語帳を取り出し、静かに読み始めた。
(神崎くんも早いんだ。)
以前なら、その姿を見るだけで落ち着かなかった。
でも今は違う。
同じ教室で、それぞれ試験に向かって勉強する。
そんな時間が、少し心地よかった。
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チャイムが鳴る。
試験監督の先生が答案用紙を配っていく。
教室は一気に静まり返った。
紙をめくる音。
シャーペンが走る音。
壁の時計だけが、規則正しく時を刻んでいる。
神崎はいつも通りだった。
問題用紙を一通り見渡し、解けるものから順番に解いていく。
(悪くない。)
難易度は標準的。
計算ミスさえしなければ問題ない。
一方、白石は一問一問慎重に解き進めていた。
(落ち着いて。)
(焦らなくていい。)
途中までは順調だった。
そして最後の大問に目を移した瞬間、手が止まる。
ある学級には四十人の生徒がいる。
その四十人を横一列に並べるとき、特定の二人が隣り合う確率を求めよ。
(……これ。)
見覚えがあった。
あの日の数学の授業。
黒板。
チョークの音。
そして、神崎の声。
「一つのまとまりとして考える。」
頭の中で、その言葉がはっきりと蘇る。
(そうだ。)
(二人を一つにする。)
白石は深呼吸を一つして、式を書き始めた。
三十九個として並べる。
二人の並び方は二通り。
全体は四十人。
答えを書き終えたところで、自然と肩の力が抜けた。
(解けた……。)
あのときは、自分では思いつかなかった考え方。
でも今は、自分の力で最後まで解くことができた。
小さな成長だった。
それでも、白石にとっては大きな一歩だった。
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試験終了のチャイムが鳴る。
一斉にため息が漏れた。
「終わったー!」
「数学、最後難しくなかった?」
「確率で詰んだ……。」
教室中からそんな声が聞こえる。
生田も机に突っ伏した。
「最後の問題、意味分かんなかった……。」
「私は、何とか。」
「えっ、解けたの!?」
「授業で似た考え方をやったから。」
「先生のやつ?」
白石は少しだけ迷ってから首を横に振った。
「……ううん。」
神崎に教えてもらった。
そう言おうとして、照れくさくなってやめた。
その代わり、小さく笑う。
「前に教えてもらったことを思い出したの。」
「へぇー。」
生田は感心したようにうなずいた。
少し離れた席では、桐生が大げさに頭を抱えていた。
「神崎! 最後の問題どうした!?」
「普通に。」
「普通じゃねぇよ!」
「まとまりで考えれば終わり。」
「あぁー! 終わってから言うな!」
男子たちが笑う。
そのやり取りを聞きながら、白石も思わず口元を緩めた。
(やっぱり……。)
(あのとき聞いてよかった。)
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二日目。
三日目。
教室は日に日に疲れた空気に包まれていった。
「あと一日……。」
「眠い……。」
「夏休みまで頑張ろう。」
そんな声が飛び交う。
神崎は相変わらず落ち着いて問題集を閉じ、白石は休み時間のたびに単語帳を開く。
勉強する姿が、もう当たり前になっていた。
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最終日。
最後のチャイムが鳴った瞬間、教室中から歓声が上がる。
「終わったぁ!」
「夏休みだー!」
「まだ終業式あるぞ!」
先生の一言に、教室が笑いに包まれた。
神崎は答案用紙を提出すると、大きく伸びをする。
(終わったな。)
白石も窓の外を見上げた。
真っ青な空に、大きな入道雲が浮かんでいる。
(やれることは、全部やった。)
結果がどうなるかは分からない。
でも、不思議と後悔はなかった。
その胸には、小さな自信が芽生え始めていた。
――そして数日後。
その努力は、数字となって返ってくることになる。
結果はちょっと意外かもしれませんね。どうなんでしょ。




