44,期末前日
期末考査の時期ですね。現実ではもう終わってるか。
七月も半ばを過ぎた。
教室の天井では扇風機がゆっくりと回り、窓の外からは蝉の鳴き声が絶え間なく聞こえてくる。
来週から期末考査。
その言葉だけで、教室の空気はいつもより少しだけ張りつめていた。
「やばい……。」
「数学まだ全然やってない。」
「英語捨てようかな。」
「捨てるな。」
桐生の一言に、神崎は即座に返す。
「いや、時間足りねぇって!」
「全部やれ。」
「鬼か。」
男子たちが笑い合う。
神崎は笑うことなく問題集を開いた。
すでに試験範囲は一通り終わらせている。
あとは確認だけだ。
ふと視線を上げる。
数列の問題集を開いている白石が目に入った。
休み時間だというのに、黙々とシャーペンを動かしている。
(また勉強か。)
最近、よく見る光景だった。
昼休みも。
放課後も。
少し時間があれば問題集を開いている。
以前はそんな印象はなかった。
気付けば、それが当たり前になっていた。
「神崎。」
桐生が肩をつつく。
「聞いてる?」
「……何。」
「お前、今回も一位取るんだろ?」
「そのつもり。」
「中山も気合入ってるらしいぞ。」
「知ってる。」
神崎は短く答える。
順位は気になる。
負けるつもりもない。
だが、その一方で、もう一人気になる存在がいた。
(白石は……。)
そこまで考えて、自分でも少し不思議に思う。
(なんで気になるんだ。)
勉強を頑張っているのを知っているからか。
順位を上げてきたからか。
理由は自分でもよく分からなかった。
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昼休み。
白石は生田たちと昼食を食べ終えると、すぐに問題集を開いた。
「また勉強?」
生田が苦笑する。
「あと一週間しかないから。」
「真面目だなぁ。」
白石は照れ笑いを浮かべる。
「前よりは、できるようになった気がするの。」
「神崎くんのおかげ?」
その言葉に、白石の手が止まる。
「……少しだけ。」
「少しだけ?」
「教えてもらった問題、ちゃんと解けるようになったから。」
生田は優しく笑った。
「じゃあ、その成果を見せないとね。」
「うん。」
白石は力強くうなずいた。
今回は、自分でも少しだけ自信があった。
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放課後。
帰ろうとした神崎は、教室に一人残る白石を見つけた。
机には英語の単語帳と数学の問題集。
どちらも使い込まれている。
「まだやるのか。」
白石が顔を上げる。
「あ、神崎くん。」
「うん。もう少しだけ。」
「そうか。」
神崎は鞄を持ち直した。
一歩だけ歩いて、ふと止まる。
「今回。」
白石が首をかしげる。
「前より、いけそうか?」
突然の質問だった。
白石は少し驚いたあと、小さく笑う。
「……うん。」
「頑張る。」
その返事を聞いて、神崎は短くうなずいた。
「そうか。」
少しだけ間が空く。
そして、神崎はいつもの調子で言った。
「期待してる。」
たった四文字。
それだけ言い残して、教室を出ていく。
白石はしばらく扉を見つめていた。
胸の奥が、じんわりと熱くなる。
(期待してる……。)
好きな人から掛けられたその一言だけで、不思議なくらい力が湧いてきた。
白石は問題集を開き直す。
ページの上には、まだ解き終えていない問題。
シャーペンを握り直し、小さく息を吸う。
「……よし。」
その声は誰にも聞こえなかった。
けれど、その日一番力強い決意だった。
今回の考査は控えめに描写しています。
変なエピ入れたせいで、告白とかするの100話ぐらいになりそう・・・




