43,○○○に向けて
こういうの好き
放課後。
終礼が終わると同時に、神崎は文化祭実行委員会の教室へ向かった。
今日は各部活動・委員会の代表が集まる合同会議だ。
議題は一つ。
「文化祭で何をやるか。」
教室の前には、文化祭担当の先生が立っていた。
「今年も例年通り、各団体で企画を考えてもらう。」
「ただし、飲食は衛生面の関係で条件付きだ。」
ホワイトボードには次々と案が書かれていく。
「お化け屋敷!」
「脱出ゲーム!」
「展示!」
「写真館!」
意見が飛び交う中、理系部の部長――中山雫の兄が静かに手を挙げた。
「理系部としては、実験の体験コーナーを考えています。」
「例えば?」
「液体窒素を使った実験や、簡単な化学実験です。」
「安全面は?」
「こちらで管理します。」
先生はうなずいた。
「いい案だ。」
その隣で、神崎はノートに淡々とメモを取っていた。
「神崎。」
部長が小声で呼ぶ。
「発表用のスライド、作れるか?」
「できます。」
「じゃあ頼む。」
「分かりました。」
神崎は短く答えた。
その日の会議は、各団体の方向性だけ決めて終了した。
理系部は、
実験体験コーナー
身近な科学展示
来場者向けの簡単な実験
を中心に進めることになった。
「じゃあ来週までに資料まとめよう。」
「はい。」
神崎は立ち上がる。
ふと思い出した。
(……パソコン。)
資料を作るには、自分のノートパソコンが必要だ。
朝、教室のロッカーに入れたままだったことを思い出し、教室へ戻る。
教室の扉を開ける。
夕日が差し込み、昼間とは違う静けさが広がっていた。
誰もいないと思っていた。
「……あ。」
窓際の席で、一人だけ机に向かっている生徒がいた。
白石だった。
眼鏡を掛け直しながら、数学の問題集を開いている。
神崎の声に気付き、顔を上げた。
「あ、神崎くん。」
「まだいたのか。」
「うん。部活終わってから少しだけ。」
そう言って、机の上の問題集を少し照れくさそうに閉じる。
「勉強?」
「次の模試もあるし。」
「そうか。確率、苦手なんだな。」
「うん。どうしても運が関わっているようにしか思えなくて。」
「現実では運もあるかもしれないが、数学だからな。」
「現実と違って、自分の努力とかは関係がない。」
そう言って神崎は自分のロッカーを開け、ノートパソコンの入ったケースを取り出した。
白石は少し気になって尋ねる。
「それ、文化祭の?」
「ああ。」
「今日、会議があった。」
「どんなこと話したの?」
「まだ企画決め。」
「そっか。」
少し間が空く。
夕日が教室を橙色に染める。
静かな空気。
不思議と気まずくはない。
神崎はパソコンケースを肩に掛ける。
「じゃあ。」
「うん。また明日。」
「ああ。」
教室を出ていく神崎。
扉が閉まる音が響く。
白石は閉じた扉を見つめ、小さく息を吐いた。
("また明日"……。)
ほんの四文字。
それだけなのに、自然に交わせるようになった。
少し前の自分なら、きっと緊張して言えなかっただろう。
白石はもう一度問題集を開く。
ページの端には、昼休みに神崎が教えてくれた数学のメモが残っていた。
その文字を見て、ふっと笑みがこぼれる。
「……頑張ろう。」
誰に聞かせるでもなく、小さく呟いて、再びシャーペンを走らせた。
文化祭に向けて、少しずつ動き始めましたね。
もうそろそろ夏休みです。




