35,梅雨のある1日
梅雨ですね、入れるの忘れそうになってて焦りました。
恋愛系の話って、こういうときは相合い傘をするもんですよ。
六月中旬。
梅雨前線は今年も律儀に日本列島へ居座り、青峰高校も朝から雨に包まれていた。
窓を叩く雨音は授業中も絶えず響き、グラウンドには誰もいない。
休み時間になるたび、
「また雨かぁ。」
「部活外でできないじゃん。」
「洗濯物乾かない……。」
そんな声が教室に広がる。
神崎悠真は窓際の席で、静かに参考書を閉じた。
雨は嫌いではない。
騒がしい教室が少しだけ静かになるからだ。
一方で白石美月は、窓を流れる雨粒をぼんやり眺めていた。
(梅雨、長いなぁ。)
雨の日は少しだけ気分が沈む。
けれど、同じ教室で神崎の姿が見えるだけで、その憂鬱も少し軽くなる。
そんなことを思ってしまう自分に、小さく苦笑した。
昼休み。
雨はさらに強くなっていた。
窓ガラスには無数の雨粒が流れ落ち、校庭は水たまりだらけだ。
「うわ、帰りもこれかな。」
「傘忘れたんだけど……。」
そんな話を聞き流しながら、神崎は弁当を食べ終える。
すると。
「神崎。」
桐生蓮が椅子を引いて座った。
「今日、部活終わったら一緒に帰る?」
「雨だし。」
「無理。」
「文化祭実行委員?」
「会議。」
「あー、そうだった。」
桐生は肩をすくめる。
「最近忙しいな、お前。」
「まあ。」
「卓球部もあるし。」
「別に平気。」
「無理すんなよ。」
「してない。」
短いやり取り。
桐生は笑って席へ戻っていった。
その様子を、少し離れた席から白石は眺めていた。
(忙しそう……。)
実行委員。
部活。
勉強。
全部ちゃんとやっている。
神崎は弱音を吐かない。
だからこそ、少し心配になる。
放課後。
実行委員の会議が終わる頃には、外は薄暗くなっていた。
雨脚は朝よりも強い。
「じゃあ今日はここまで!」
「お疲れー!」
教室を出ると、廊下には雨の匂いが漂っていた。
神崎は昇降口へ向かう。
神崎が靴を履き替えて外へ出ようとした時だった。
視界の端に、雨を見つめたまま立ち止まる白石が映る。
制服の肩は、昇降口まで走ってきたせいか少し濡れていた。
「……どうした。」
白石は少し驚いたように振り返る。
「あ……。」
困ったように笑う。
「傘、忘れちゃって。」
神崎は白石の濡れた肩を見る。
そして、自分の手に持っていた長傘を一度見下ろえた。
「これ使え。」
「え?」
「神崎くんは?」
「折りたたみあるから。」
そう言って鞄の横ポケットを軽く叩く。
「だから気にすんな。」
白石は目を丸くした。
「でも、それじゃ神崎くんの長傘が……。」
「明日取りに来ればいい。」
まるで大したことではないように言う。
「ほら。」
長傘を差し出す。
白石はしばらく受け取れなかった。
(そんな……。)
神崎にとっては、ただ傘を貸しただけ。
それだけなのだろう。
でも。
(また……。)
また、この人は。
困っている人を放っておけない。
しかも、それを特別なことだとも思っていない。
「……ありがとう。」
ようやく受け取ると、神崎はもう鞄から折りたたみ傘を取り出していた。
ぱちり、と小さな音を立てて傘が開く。
「じゃ。」
「あっ……うん。」
神崎はそのまま雨の中へ歩いていく。
白石は長傘を胸の前でぎゅっと握った。
(これ……。)
明日返さなきゃ。
そう思うだけなのに、胸が少しだけ弾む。
神崎にとっては、ただ一本の傘を貸しただけ。
白石にとっては。
"また一つ、神崎くんの優しさを知れた日"になった。
雨は相変わらず降り続いていた。
それでも白石の足取りは、不思議なくらい軽かった。
してない、だと・・・
作者が何いってんだって感じですよねw
現実はそんなに甘くないです。でも、明日傘を返すくだりができたので、ちょっと前進。




