34,文化祭の出し物
文化祭ネタが続きます。
文化祭実行委員に選ばれたのは、七月の終わりが近づいた放課後だった。
「じゃあ、一年生の文化祭実行委員はこの二人で決定ね」
担任の言葉に、教室のあちこちから安堵の息が漏れる。
「え、神崎? お前やるの?」
「意外なんだけど」
「別に」
神崎悠真は、窓際の席に座ったまま短く答えた。
本当は断ろうと思っていた。
面倒そうだったし、卓球部も理系部もある。
だが、最後まで決まらず困っている空気を見てしまった。
「神崎くん、もしよかったら……」
学級委員の女子が申し訳なさそうに声を掛けた時点で、半分負けだった。
「……誰もやらないならやる」
そう言った瞬間、教室から拍手が起こった。
「助かったー!」
「神崎、ありがとう!」
「いや、お前ならなんとかしてくれそうだし」
(別に……)
感謝されるほどのことでもない。
神崎はそう思いながら、配られた実行委員の資料を眺めた。
そこには大きく、
『青峰高校文化祭 クラス企画会議』
と書かれていた。
◇◇◇
数日後。
ホームルームの時間。
黒板には大きく『文化祭の出し物を決めよう』と書かれていた。
「はい、じゃあ意見ある人ー!」
実行委員の女子が前に立つ。
途端に教室が騒がしくなる。
「お化け屋敷!」
「定番すぎない?」
「脱出ゲームやりたい!」
「いや、準備大変だろ」
「映画上映とか?」
「一年じゃ無理じゃね?」
意見だけが飛び交い、まとまる気配はない。
神崎は腕を組みながら黙って聞いていた。
(……うるさいな)
「神崎くんはどう思う?」
突然話を振られる。
「別に」
「いや、それじゃ困るって!」
「……利益出せるやつ」
「え?」
「文化祭って売上とか来場者数とかあるだろ。だったら人が来るやつ」
現実的な意見だった。
「たしかに……」
「神崎ってそういうこと考えるんだ」
「意外」
「普通だろ」
すると後ろの席から声が上がった。
「じゃあカフェとか?」
「メイド喫茶!?」
「それ絶対先生に止められる!」
「普通の喫茶店ならよくない?」
「でも一年生って調理制限なかったっけ?」
「飲み物と市販品なら大丈夫じゃない?」
少しずつ話が具体的になっていく。
その様子を、白石美月は静かに見ていた。
「白石さんは?」
「えっ」
名前を呼ばれ、小さく肩を震わせる。
「私は……」
眼鏡の奥の瞳が少し泳ぐ。
「休憩できる場所って、来る人も嬉しいと思うので……カフェ、いいと思います」
「おー!」
「白石さん賛成!」
「確かに」
「神崎も?」
「……反対する理由はない」
白石はほっとしたように笑った。
「よかった」
その小さな笑顔を見て、神崎は視線を逸らす。
「でもカフェだけだと地味じゃない?」
誰かが言った。
教室が再びざわつく。
「もっと目玉欲しい!」
「人呼べるやつ!」
「ステージとか?」
「吹奏楽あるしなあ」
「ダンス部?」
「ダンス部じゃなくてもできるんじゃね?」
その一言で空気が変わった。
「クラス全員でダンス!?」
「楽しそう!」
「え、でも踊れない!」
「動画見ながら練習すればいけるって!」
「青春っぽくない?」
「写真映えする!」
次々と賛成意見が上がっていく。
神崎は黒板を見た。
『カフェ』
『ダンス』
二つの文字。
「……神崎?」
「どう思う?」
「別に」
また口癖が出る。
「だから別にじゃなくて!」
クラス中からツッコミが飛んだ。
神崎は少しだけ考えてから口を開く。
「ダンスは時間決めればいい」
「?」
「カフェ営業して、決まった時間だけダンスやる。客も見れるし、準備も分担できる」
教室が静まり返った。
「……あ」
「それ、いいかも」
「確かに!」
「両方できるじゃん!」
「神崎、天才!」
「いや、普通だろ」
「普通じゃないって!」
一気に空気が盛り上がった。
「じゃあ、一年一組の文化祭企画は――」
実行委員の女子が黒板に大きく書く。
『青峰カフェ&ダンスパフォーマンス』
拍手が起こった。
「決定ー!!」
「よっしゃ!」
「楽しみ!」
「ダンス誰が教える!?」
「カフェのメニュー考えよう!」
一気に文化祭らしい熱気が教室を包む。
騒がしくなるクラスの中。
白石はそっと神崎の方を見た。
「神崎くん」
「ん?」
「さっきの案、すごかったね」
「……別に」
「ふふっ」
困ったように笑う。
「神崎くんって、ちゃんとみんなのこと考えてるよね」
「そんなことない」
「ううん」
白石は小さく首を振った。
「私、知ってるから」
誰もやりたがらなかった実行委員を引き受けたこと。
ちゃんと利益や準備のことまで考えていたこと。
面倒くさそうにしながら、結局困っている人を放っておけないこと。
白石は、そんな神崎をずっと見ていた。
「……?」
「なんでもない」
嬉しそうに微笑む白石に、神崎はわずかに眉をひそめる。
「変なやつ」
「そうかも」
でも。
教室の喧騒の中で、白石は胸の奥が少し温かくなるのを感じていた。
文化祭まで、あと二か月ほど。
きっと忙しくなる。
神崎くんは実行委員として、もっと大変になるだろう。
それでも。
(神崎くんを見てると、私も頑張ろうって思える)
黒板に書かれた企画名を見つめながら、白石はそっと拳を握った。
この文化祭が、どんな思い出になるのか。
まだ誰も知らない。
ただひとつ確かなのは。
神崎悠真にとっては「クラスの出し物を決めた日」に過ぎなくても――。
白石美月にとっては。
神崎と同じ未来を思い描けたことが、どうしようもなく嬉しかったということだった。
なぜ僕がこんなに文化祭を推しているのかはあとになったらわかります。
ダンス...結構前に出てきていたようなかんじが・・・




