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君を好きになるのは、一週間だけのはずだった。  作者: 松茸の香料
第一章 青に染まるまで

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33/40

33,昼休みの作戦会議

前回から直接続くところです。

 六月も終わりに近づき、教室の空気は少しずつ夏めいていた。


 昼休み。


 弁当の蓋を開ける音や、購買帰りの生徒の声が入り混じる中、一年一組の一角では妙な盛り上がりを見せていた。


「なあ。」


「ん?」


「実行委員、結局誰になると思う?」


「まだ決まってないだろ。」


「でも神崎じゃね?」


「だから嫌だって言ってる。」


 神崎悠真は机に肘をつきながら、心底面倒そうな顔をした。


「いや、もうそれ昨日聞いた。」


「三回目だぞ。」


「何回聞かれても答えは同じ。」


「でも担任困ってたじゃん。」


「知らない。」


「薄情。」


「別に。」


「出た。」


 男子たちが笑う。


 桐生蓮もいつの間にか一組に顔を出していた。


「悠真ってさ。」


「何。」


「嫌だ嫌だ言いながら、最終的にやること多くね?」


「気のせい。」


「体育祭。」


「……。」


「理系部。」


「……。」


「質問対応。」


「……。」


「否定しろよ。」


「面倒。」


「認めた!」


 周囲から笑い声が上がる。


「神崎って便利な人間だな。」


「人聞き悪い。」


「でも実際、責任感あるじゃん。」


「ない。」


「ある。」


「ない。」


「ある。」


「……。」


「黙った。」


「もう決まりじゃん。」


「勝手に決めるな。」


 本気で嫌そうな顔をしているのに、どこか本気では押し切れない。


 その様子を見て、男子たちは楽しそうに笑っていた。


◇◇◇


 一方。


「……。」


 白石美月は、自分の席で静かにお弁当を食べていた。


 耳には自然と、神崎たちの会話が入ってくる。


「絶対やるって。」


「賭けるか?」


「俺は神崎が実行委員になる方に百円。」


「安っ。」


「高校生だぞ。」


「じゃあ俺も。」


「裏切るなよ。」


「神崎、期待されてるぞ。」


「期待してるのはお前らだけだ。」


 また笑いが起きる。


 白石は小さく箸を止めた。


 ――期待されている。


 それはきっと、本当だ。


 神崎は無愛想だし、愛想もいい方じゃない。


 面倒くさがりだし、「別に」が口癖だし。


 でも。


 誰かが困っていたら放っておけない。


 頼まれたことはちゃんとやる。


 だから、みんなも分かっているのだ。


「……すごいな。」


 ぽつりと漏れた声は、誰にも聞こえなかった。


◇◇◇


「白石。」


「えっ?」


 突然名前を呼ばれ、白石は肩を跳ねさせた。


 顔を上げる。


 神崎だった。


「英語。」


「え?」


「ノート。」


「……あ。」


 慌てて鞄の中を探る。


「ご、ごめん! 昨日返そうと思ってて……!」


「別に怒ってない。」


「でも……。」


「次の授業で使う。」


「あっ、うん!」


 ノートを差し出す。


「ありがとう。」


「別に。」


 受け取った神崎は、そのまま自分の席へ戻っていった。


 本当に、それだけだった。


 周囲も特に気に留めない。


 でも。


「……。」


 白石はそっと箸を握り直した。


 たった数秒のやり取り。


 それだけなのに。


 胸の奥が、少しだけ温かくなる。


「美月?」


「え?」


「どうしたの?」


「……なんでもない。」


 友人の問いかけに、白石は困ったように笑った。


「ほんと?」


「うん。」


 なんでもない。


 本当に、なんでもない。


 ノートを返しただけ。


 名前を呼ばれただけ。


 それなのに。


 ――嬉しい。


 そんな自分に気づいて、少しだけ頬が熱くなった。


◇◇◇


 昼休みの終わりを告げる予鈴が鳴る。


「よし、移動。」


「午後だるい。」


「神崎、実行委員頑張れ。」


「やらない。」


「まだ言ってる。」


「しつこい。」


「でも絶対やる。」


「……。」


「否定しろって。」


「別に。」


「出た!」


 教室に笑い声が広がる。


 窓の外では、強い日差しが校庭を照らしていた。


 六月の終わり。


 夏はもうすぐそこまで来ている。


 そして。


 まだ誰も知らない。


 この何気ない「実行委員」の話が、数か月後の文化祭で、彼らの日常を大きく変えることになることを。


次のところから、書いていた時期が少し飛ぶので、今までと違う感じになっていると思います。

違和感があると思いますが、読み進めてください。

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