33,昼休みの作戦会議
前回から直接続くところです。
六月も終わりに近づき、教室の空気は少しずつ夏めいていた。
昼休み。
弁当の蓋を開ける音や、購買帰りの生徒の声が入り混じる中、一年一組の一角では妙な盛り上がりを見せていた。
「なあ。」
「ん?」
「実行委員、結局誰になると思う?」
「まだ決まってないだろ。」
「でも神崎じゃね?」
「だから嫌だって言ってる。」
神崎悠真は机に肘をつきながら、心底面倒そうな顔をした。
「いや、もうそれ昨日聞いた。」
「三回目だぞ。」
「何回聞かれても答えは同じ。」
「でも担任困ってたじゃん。」
「知らない。」
「薄情。」
「別に。」
「出た。」
男子たちが笑う。
桐生蓮もいつの間にか一組に顔を出していた。
「悠真ってさ。」
「何。」
「嫌だ嫌だ言いながら、最終的にやること多くね?」
「気のせい。」
「体育祭。」
「……。」
「理系部。」
「……。」
「質問対応。」
「……。」
「否定しろよ。」
「面倒。」
「認めた!」
周囲から笑い声が上がる。
「神崎って便利な人間だな。」
「人聞き悪い。」
「でも実際、責任感あるじゃん。」
「ない。」
「ある。」
「ない。」
「ある。」
「……。」
「黙った。」
「もう決まりじゃん。」
「勝手に決めるな。」
本気で嫌そうな顔をしているのに、どこか本気では押し切れない。
その様子を見て、男子たちは楽しそうに笑っていた。
◇◇◇
一方。
「……。」
白石美月は、自分の席で静かにお弁当を食べていた。
耳には自然と、神崎たちの会話が入ってくる。
「絶対やるって。」
「賭けるか?」
「俺は神崎が実行委員になる方に百円。」
「安っ。」
「高校生だぞ。」
「じゃあ俺も。」
「裏切るなよ。」
「神崎、期待されてるぞ。」
「期待してるのはお前らだけだ。」
また笑いが起きる。
白石は小さく箸を止めた。
――期待されている。
それはきっと、本当だ。
神崎は無愛想だし、愛想もいい方じゃない。
面倒くさがりだし、「別に」が口癖だし。
でも。
誰かが困っていたら放っておけない。
頼まれたことはちゃんとやる。
だから、みんなも分かっているのだ。
「……すごいな。」
ぽつりと漏れた声は、誰にも聞こえなかった。
◇◇◇
「白石。」
「えっ?」
突然名前を呼ばれ、白石は肩を跳ねさせた。
顔を上げる。
神崎だった。
「英語。」
「え?」
「ノート。」
「……あ。」
慌てて鞄の中を探る。
「ご、ごめん! 昨日返そうと思ってて……!」
「別に怒ってない。」
「でも……。」
「次の授業で使う。」
「あっ、うん!」
ノートを差し出す。
「ありがとう。」
「別に。」
受け取った神崎は、そのまま自分の席へ戻っていった。
本当に、それだけだった。
周囲も特に気に留めない。
でも。
「……。」
白石はそっと箸を握り直した。
たった数秒のやり取り。
それだけなのに。
胸の奥が、少しだけ温かくなる。
「美月?」
「え?」
「どうしたの?」
「……なんでもない。」
友人の問いかけに、白石は困ったように笑った。
「ほんと?」
「うん。」
なんでもない。
本当に、なんでもない。
ノートを返しただけ。
名前を呼ばれただけ。
それなのに。
――嬉しい。
そんな自分に気づいて、少しだけ頬が熱くなった。
◇◇◇
昼休みの終わりを告げる予鈴が鳴る。
「よし、移動。」
「午後だるい。」
「神崎、実行委員頑張れ。」
「やらない。」
「まだ言ってる。」
「しつこい。」
「でも絶対やる。」
「……。」
「否定しろって。」
「別に。」
「出た!」
教室に笑い声が広がる。
窓の外では、強い日差しが校庭を照らしていた。
六月の終わり。
夏はもうすぐそこまで来ている。
そして。
まだ誰も知らない。
この何気ない「実行委員」の話が、数か月後の文化祭で、彼らの日常を大きく変えることになることを。
次のところから、書いていた時期が少し飛ぶので、今までと違う感じになっていると思います。
違和感があると思いますが、読み進めてください。




