31,いつもの放課後
前回は白石回でしたが、今回は神埼回です。
「神崎、次。」
「……ああ。」
放課後の卓球場。
乾いた打球音が絶え間なく響く。
神崎悠真はラケットを握り直し、台の前に立った。
「お願いしまーす!」
「よろしく。」
相手は二年生の先輩だった。
サーブ。
返球。
スマッシュ。
「うわっ!」
高く浮いたボールを、神崎は迷いなく打ち抜く。
パシン。
「……ありがとうございました。」
「お前、本当に一年か?」
「別に。」
「その『別に』、便利だな。」
周囲から笑いが漏れた。
神崎はラケットを台に置き、タオルで汗を拭う。
「悠真ー!」
聞き慣れた声が飛んできた。
「今日も理系部行くんだろ?」
桐生蓮だった。
「行く。」
「卓球して理系部って、よく体力もつよな。」
「普通だろ。」
「いや、普通じゃねえって。」
桐生は呆れたように笑った。
「そういや、今回も一位だったんだって?」
「……たまたま。」
「中山さん泣くぞ。」
「泣かないだろ。」
「じゃあ悔しがる。」
「それはそう。」
短いやり取り。
でも、神崎の口元はほんの少しだけ緩んでいた。
◇◇◇
「遅れました。」
「神崎くん、待ってたよ!」
理系部の部室。
机の上には数学パズルや実験器具が並んでいる。
「これ解けた?」
「まだ。」
「嘘でしょ。三年生も苦戦してるんだけど。」
「そう。」
神崎は紙を受け取った。
数式を見つめる。
数分後。
「できた。」
「は?」
「え?」
「ちょっと待って。」
部室がざわつく。
「早くない!?」
「別に。」
「だから、その『別に』なんなの!」
先輩のツッコミに、小さな笑いが起きた。
神崎は解答用紙を机に置く。
「これ、場合分けした方が早いです。」
「あー……なるほど。」
「すげぇ。」
「理系部の展示、今年も助かるわ。」
「……。」
神崎は窓の外を見た。
夕焼け。
校庭では運動部の掛け声が聞こえる。
「文化祭も忙しくなりそうだな。」
「実行委員やるなら、なおさらだろ。」
「まだ決まってない。」
「でも頼まれたら断らないじゃん。」
「……。」
「否定しないんだ。」
神崎は少しだけ目を伏せた。
「面倒だけど。」
「うん。」
「頼まれたなら、やる。」
「お前、そういうとこだよな。」
根っからのお人好し。
本人は絶対に認めないだろうけれど。
◇◇◇
帰り道。
昇降口で靴を履き替える。
ふと、掲示板の前を通った。
中間考査の順位表。
一位。
神崎悠真。
「……。」
少しだけ視線を下げる。
二位。
中山雫。
『次は勝つから。』
『結果が出てから言え。』
思い出して、少しだけ肩をすくめた。
「絶対言うだろ。」
次も挑んでくる。
それでいい。
その方が張り合いがある。
三十一位のところにはまだ目が止まることはなかった。




