30,姉の一言
今日四話目。
放課後。
弓道場には、弦の音が静かに響いていた。
「離れ、もっと力抜いて。」
「はい!」
白石美月は小さく返事をして、もう一度弓を構える。
狙いを定める。
呼吸を整える。
そして――。
パシッ。
矢は的の少し右へ外れた。
「あー……。」
「惜しかったね。」
隣から声がした。
「春乃先輩。」
「お疲れ、美月。」
姉の白石春乃は、にこりと笑った。
「最近、なんか考え事してない?」
「え?」
「いや、なんとなく。」
美月は慌てて首を振る。
「してないよ。」
「ふーん?」
春乃は少しだけ目を細めた。
「テストの順位、気にしてるとか?」
「……。」
「図星だ。」
「お姉ちゃん……。」
春乃は笑った。
「だって、美月、分かりやすいもん。」
悔しかった。
三十一位。
悪くはなかった。
でも、あと少し届かなかった。
「……悔しかったの。」
「うん。」
「頑張ったから?」
「……うん。」
春乃は少しだけ驚いたように目を瞬いた。
「そっか。」
そして、ぽんと妹の肩を軽く叩く。
「じゃあ、次頑張ればいいじゃん。」
「そんな簡単に……。」
「簡単だよ。」
「え?」
「悔しいって思えるなら、次も頑張れるってことでしょ?」
春乃は当たり前みたいに言った。
「前の美月だったら、『まあいっか』って言ってた気がするし。」
「……。」
「悔しいってことは、本気だったんだよ。」
本気。
その言葉が胸に落ちる。
「……そう、なのかな。」
「そうだよ。」
春乃は笑った。
「だから、次はもっと上目指しな。」
「……うん。」
「二十位台?」
「……。」
「え、もっと上?」
「……分かんない。」
美月は困ったように笑った。
「でも。」
「うん?」
「前より、頑張りたいって思ってる。」
「それなら十分。」
春乃は満足そうに頷いた。
◇◇◇
「ただいま。」
「おかえり。」
夕食のあと。
自室の机に向かう。
中間考査の結果が入ったファイルを開く。
順位欄。
31位。
少し前までなら、満足していたかもしれない数字。
「……。」
でも今は違う。
もっと上を見たい。
もっと頑張りたい。
そう思ってしまう。
参考書を開く。
数学の問題集。
ペンを握る。
ふと。
頭の中に浮かんだのは、職員室前の掲示板だった。
一位。
神崎悠真。
二位。
中山雫。
二人の会話。
『次は勝つから。』
『結果が出てから言え。』
本気で競い合う人たち。
「……すごいな。」
ぽつりと呟く。
憧れ。
尊敬。
そして。
「……負けたくない。」
自分でも驚くほど小さな声だった。
誰に対してなのか。
二人にか。
三十一位だった自分にか。
まだ分からない。
でも。
問題集の余白に書いた数字を見つめながら、美月は小さく息を吐いた。
31。
そして、その隣に。
20。
さらに少し迷ってから。
18。
「……。」
無理かもしれない。
でも。
届かないとも思わなかった。
美月は消しゴムを置き、もう一度ペンを握る。
窓の外では、少しずつ夏の気配が濃くなっていた。
来年の今頃、自分はどこまで行けているだろう。
そんなことは分からない。
ただ一つだけ、はっきりしていることがあった。
――次は、もっと上へ。
静かな部屋に、シャープペンシルの音だけが響いていた。
報告です!今僕が書き溜めしている分が◯◯◯◯ところまで行きました。
◯の部分はとりあえず隠しておきます。(わかると思いますが)
イェーイ!パチパチパチィ
多分75話ぐらいのところになると思います。あと40話程度ですが、読み進めていってもらいたいと思います。
僕の頭の中では全部で300話程度になるので、まだまだ先がありますね。書き溜めも底尽きるので、いつか毎日投稿ができなくなります。頑張って書いていきます。




