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君を好きになるのは、一週間だけのはずだった。  作者: 松茸の香料
第一章 青に染まるまで

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27,返ってくるもの

考査返却です。全4話あります。今日中に四話とも投稿するので確認しておいてください。


17:00 18:00 20:00 21:00の四回です。

 中間考査が終わって数日。


 朝の教室には、久しぶりに部活の話題や週末の話が戻ってきていた。


 ――はずだった。


「今日、返ってくるよね。」


「やめて。」


「いや、返ってくるでしょ。」


「知ってるけど、聞きたくないんだって。」


「数学だけ異世界に置いてきた。」


「回収してこい。」


 そんな会話があちこちで飛び交う。


 笑っている人もいる。


 机に突っ伏している人もいる。


 いつも通りのようで、どこか落ち着かない。


 白石美月も、自分の席で筆箱をいじっていた。


(返ってくるんだ……。)


 試験中の緊張とは違う。


 答案用紙に書いた答えが、数字になって戻ってくる。


 頑張った。


 でも、本当に結果につながっているのかは分からない。


 それを知るのが、少し怖かった。


◇◇◇


 一時間目、国語。


「はい、テスト返すぞー。」


 先生が答案の束を持って教室へ入ってくる。


「うわ……。」


「来た……。」


「静かにしろー。」


 前から順番に名前が呼ばれていく。


 答案を受け取るたびに、


「やった!」


「終わった。」


「思ったより取れてた!」


 小さな声が漏れる。


「白石。」


「はい。」


 受け取った答案を、そっと裏返した。


 **七十八点。**


「……。」


 もう一度見る。


 名前。


 点数。


 見間違いじゃない。


(七十八点……。)


 決して飛び抜けた点数じゃない。


 でも。


(悪くない。)


 そう思えた。


 以前なら、「もっとやればよかった」と後悔したかもしれない。


 でも今回は違った。


 頑張った上での七十八点。


 それが嬉しかった。


◇◇◇


 二時間目、数学Ⅰ。


「今回、少し平均は低めだったな。」


 先生の言葉に、教室がざわつく。


「だよね。」


「最後の問題、意味分からんかった。」


「途中で諦めた。」


 白石も、無意識に手に力が入った。


「白石。」


「はい。」


 答案を受け取る。


 ゆっくりと裏返す。


 **七十二点。**


「……!」


 思わず目を見開いた。


 苦手だった数学。


 図書館で解いた問題。


 昼休みに質問した公式。


 何度もやり直した類題。


 全部が頭をよぎる。


(七十二……。)


 もっと低いと思っていた。


 だからこそ、その数字は予想以上に嬉しかった。


「どうだった?」


 後ろの女子が小声で聞いてくる。


「七十二。」


「え、すごくない?」


「そんなことないよ。」


「いや、数学で七十超えは普通にすごいって。」


 白石は照れくさそうに笑った。


◇◇◇


 休み時間。


 教室のあちこちで答案を見せ合う声が聞こえる。


「一問ミスったー。」


「そこ合ってたの!?」


「マジか。」


 そんな中。


「神崎。」


 前の方から、中山の声が聞こえた。


「ん?」


「数学。」


「何点だった?」


 神崎は少しだけ答案を見た。


「九十七。」


「……は?」


 中山が目を丸くする。


「最後の問題、解けたの?」


「解けた。」


「嘘。」


「嘘ついてどうする。」


 神崎は淡々と答える。


 中山は自分の答案に視線を落とした。


「九十五。」


「高いだろ。」


「二点。」


「ん?」


「二点差。」


 悔しそうに唇を尖らせる。


「まだ一教科だけど。」


「そうだな。」


「でも悔しい。」


「まだ全部返ってきてない。」


「分かってる。」


 中山は小さく笑った。


「でも、次は負けない。」


「おう。」


 短いやり取り。


 それだけなのに。


(すごいな。)


 白石は思った。


 自分は七十二点で嬉しかった。


 頑張った結果が返ってきたことが嬉しかった。


 でも。


 あの二人は違う。


 九十五点でも悔しがって。


 九十七点でも満足した様子はなくて。


 もう次を見ている。


(本当に別世界だ。)


 だけど。


 図書館で見た付箋だらけの参考書も。


 放課後の静かな教室も。


 その世界が、才能だけでできているわけじゃないことを、白石は知っていた。


◇◇◇


 三時間目、英語コミュニケーション。


「白石。」


「はい。」


 答案を受け取る。


 裏返す。


 **八十二点。**


「……。」


 自然と頬が緩んだ。


 仮定法。


 英単語。


 長文。


 ペアワークで扱った例文。


 家で何度も見返したページ。


 あの時間が、数字になって返ってきていた。


「白石さん、どうだった?」


「八十二。」


「えっ!?」


「すご!」


「本当に頑張ったんだね。」


「……うん。」


 その言葉に、白石は少しだけ胸が熱くなった。


◇◇◇


 放課後。


「もう嫌だ。」


 桐生は机に突っ伏した。


「まだ三教科しか返ってきてないのに。」


「あと七教科あるぞ。」


 神崎の言葉に、桐生は顔を上げる。


「お前、なんでそんな平然としてんの。」


「返ってくるものは変わらないし。」


「それ言えるの、神崎くらいだから。」


「中山は?」


「悔しい。」


「即答だ。」


「だって悔しいし。」


 中山は笑った。


「でも、楽しい。」


「そうか。」


「次の教科は勝つ。」


「頑張れ。」


「そっちこそ。」


 二人のやり取りに、桐生は呆れたようにため息をつく。


「本当に別の生き物だな。」


「失礼。」


「否定しないんだ。」


 教室に笑いが広がった。


 白石は机の上の答案を見つめる。


 国語、七十八点。


 数学Ⅰ、七十二点。


 英語コミュニケーション、八十二点。


 まだ三教科。


 順位なんて全く分からない。


 でも。


(思ったより、悪くない。)


 それどころか。


(頑張ってよかった。)


 そう思える自分がいた。


 窓の外では、部活へ向かう生徒たちの声が響いている。


 返ってきていない答案は、あと七枚。


 期待と不安を抱えながら。


 白石美月は、机の上の答案を丁寧に重ねた。


 まだ、結果は出ていない。


 でも。


 積み重ねた時間は、確かに数字になり始めていた。


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