26,考査2,3日目
二日目の朝。
教室に入った瞬間、昨日とは違う空気を白石美月は感じた。
一日目の「何も分からない怖さ」は薄れていた。
その代わりにあるのは、疲労だった。
「昨日、何時までやった?」
「一時。」
「俺、十一時。」
「早っ。」
「いや、寝ないと無理。」
「分かる。」
教室のあちこちでそんな会話が交わされる。
「桐生。」
「……。」
「生きてるか。」
「たぶん。」
「昨日、何時に寝た。」
「二十三時。」
「普通じゃん。」
「でも眠い。」
「知らん。」
いつものような神崎の返答に、周囲から笑いが漏れる。
試験期間だからといって、みんなが別人になるわけじゃない。
ただ、少しだけ余裕がないだけだ。
◇◇◇
「始め。」
二日目、一教科目。
答案用紙が配られる。
紙をめくる音。
ペンの走る音。
時計の針。
昨日よりは落ち着いている。
だからこそ、難しい問題に出会ったときの焦りもはっきり感じた。
(……分からない。)
一度飛ばす。
次へ進む。
また戻る。
問題文を読み直す。
焦るな。
時間はまだある。
白石はゆっくり息を吐いた。
昨日できたことを思い出す。
落ち着いて読めば、見えてくることもある。
(……あ。)
さっきまで白紙だった場所に、答えを書き込んだ。
◇◇◇
二日目の試験が終わった放課後。
「あと一日!」
「マジか!」
「長かった……。」
「いや、まだ終わってないから。」
解放感と絶望感が入り混じった声が飛び交う。
「神崎。」
「ん。」
「どうだった?」
中山が声をかける。
「普通。」
「……。」
「お前は。」
「普通。」
数秒の沈黙。
「嘘つき。」
「お互い様だろ。」
中山は吹き出した。
「でも、ちょっと楽しい。」
「そうか。」
「頑張った分が試される感じ。」
神崎は少しだけ考えてから言った。
「負けたくはない。」
「私も。」
それだけ言って、中山は帰っていった。
白石はその背中を見つめる。
(楽しい、か。)
まだ分からない。
でも、少しだけ羨ましかった。
◇◇◇
三日目。
最終日。
教室の空気は、明らかに違っていた。
「あと二教科!」
「自由だー!」
「気抜くなって!」
「もう抜けてる!」
笑い声が増えている。
昨日までの重苦しさは薄れ、ゴールが見えたことによる高揚感が広がっていた。
白石も、自分でも驚くほど落ち着いていた。
緊張していないわけじゃない。
でも。
(ここまで来たんだ。)
図書館へ行った日。
家で眠気と戦った夜。
昼休みに問題を聞いたこと。
放課後の静かな教室。
一つずつ積み重ねてきた時間が頭をよぎる。
それが、少しだけ自信になっていた。
◇◇◇
「始め。」
最後の試験。
ペンを握る。
問題用紙をめくる。
(……よし。)
解ける。
もちろん、分からない問題もある。
でも、何も書けないわけじゃない。
授業で聞いたこと。
ノートに書いたこと。
問題集で間違えたこと。
全部が少しずつ繋がっていく。
最後の見直し。
名前を書く欄。
時計を見る。
あと三分。
(終わるんだ。)
その瞬間、急に実感が湧いた。
◇◇◇
「終了。」
チャイムが鳴った。
一瞬の静寂。
そして。
「終わったぁぁぁ!」
教室が歓声に包まれた。
「やっとだ!」
「寝る!」
「遊ぶ!」
「部活だー!」
椅子を引く音。
笑い声。
安堵のため息。
みんなの表情が、一気に明るくなる。
白石はシャープペンシルを置いた。
手が少し痛かった。
でも。
(終わった。)
心の底からそう思えた。
ふと前を見る。
神崎はいつもの表情で筆箱を片付けていた。
中山は大きく伸びをしている。
桐生は机に突っ伏しながら「俺は燃え尽きた……」と呟いていた。
いつもの教室。
いつものみんな。
でも、少しだけ違う。
それぞれが、それぞれなりに頑張った三日間だった。
「白石さん。」
「ん?」
「どうだった?」
友達の問いかけに、白石は少し考える。
「分からない。」
「それな。」
「でも……。」
白石は笑った。
「頑張れたと思う。」
それは、順位の話ではなかった。
何点取れたかでもなかった。
図書館へ行った自分。
眠い夜に机へ向かった自分。
逃げずに積み重ねた自分。
その全部を含めての言葉だった。
六月の風が、開いた窓から吹き込む。
中間考査は終わった。
けれど。
答案用紙に書いた答えだけじゃなく、この数週間で得たものも、確かに白石美月の中に残っていた。
そして数日後。
その努力は、数字となって返ってくることになる。
まだ誰も知らない。
結果はどうなるんでしょうね。順位は廊下に張り出すのですが、その前に教科別の返却からやります。
あともう少しで第一章が終わりそうです。
文化祭のところやっと書き終わったぁ
※筆者はかなり先のところを書いており、それを少しづつ公開しています。
一気に公開してほしいときは教えてください。




