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君を好きになるのは、一週間だけのはずだった。  作者: 松茸の香料
第一章 青に染まるまで

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26/38

26,考査2,3日目

 二日目の朝。


 教室に入った瞬間、昨日とは違う空気を白石美月は感じた。


 一日目の「何も分からない怖さ」は薄れていた。


 その代わりにあるのは、疲労だった。


「昨日、何時までやった?」


「一時。」


「俺、十一時。」


「早っ。」


「いや、寝ないと無理。」


「分かる。」


 教室のあちこちでそんな会話が交わされる。


「桐生。」


「……。」


「生きてるか。」


「たぶん。」


「昨日、何時に寝た。」


「二十三時。」


「普通じゃん。」


「でも眠い。」


「知らん。」


 いつものような神崎の返答に、周囲から笑いが漏れる。


 試験期間だからといって、みんなが別人になるわけじゃない。


 ただ、少しだけ余裕がないだけだ。


◇◇◇


「始め。」


 二日目、一教科目。


 答案用紙が配られる。


 紙をめくる音。


 ペンの走る音。


 時計の針。


 昨日よりは落ち着いている。


 だからこそ、難しい問題に出会ったときの焦りもはっきり感じた。


(……分からない。)


 一度飛ばす。


 次へ進む。


 また戻る。


 問題文を読み直す。


 焦るな。


 時間はまだある。


 白石はゆっくり息を吐いた。


 昨日できたことを思い出す。


 落ち着いて読めば、見えてくることもある。


(……あ。)


 さっきまで白紙だった場所に、答えを書き込んだ。


◇◇◇


 二日目の試験が終わった放課後。


「あと一日!」


「マジか!」


「長かった……。」


「いや、まだ終わってないから。」


 解放感と絶望感が入り混じった声が飛び交う。


「神崎。」


「ん。」


「どうだった?」


 中山が声をかける。


「普通。」


「……。」


「お前は。」


「普通。」


 数秒の沈黙。


「嘘つき。」


「お互い様だろ。」


 中山は吹き出した。


「でも、ちょっと楽しい。」


「そうか。」


「頑張った分が試される感じ。」


 神崎は少しだけ考えてから言った。


「負けたくはない。」


「私も。」


 それだけ言って、中山は帰っていった。


 白石はその背中を見つめる。


(楽しい、か。)


 まだ分からない。


 でも、少しだけ羨ましかった。


◇◇◇


 三日目。


 最終日。


 教室の空気は、明らかに違っていた。


「あと二教科!」


「自由だー!」


「気抜くなって!」


「もう抜けてる!」


 笑い声が増えている。


 昨日までの重苦しさは薄れ、ゴールが見えたことによる高揚感が広がっていた。


 白石も、自分でも驚くほど落ち着いていた。


 緊張していないわけじゃない。


 でも。


(ここまで来たんだ。)


 図書館へ行った日。


 家で眠気と戦った夜。


 昼休みに問題を聞いたこと。


 放課後の静かな教室。


 一つずつ積み重ねてきた時間が頭をよぎる。


 それが、少しだけ自信になっていた。


◇◇◇


「始め。」


 最後の試験。


 ペンを握る。


 問題用紙をめくる。


(……よし。)


 解ける。


 もちろん、分からない問題もある。


 でも、何も書けないわけじゃない。


 授業で聞いたこと。


 ノートに書いたこと。


 問題集で間違えたこと。


 全部が少しずつ繋がっていく。


 最後の見直し。


 名前を書く欄。


 時計を見る。


 あと三分。


(終わるんだ。)


 その瞬間、急に実感が湧いた。


◇◇◇


「終了。」


 チャイムが鳴った。


 一瞬の静寂。


 そして。


「終わったぁぁぁ!」


 教室が歓声に包まれた。


「やっとだ!」


「寝る!」


「遊ぶ!」


「部活だー!」


 椅子を引く音。


 笑い声。


 安堵のため息。


 みんなの表情が、一気に明るくなる。


 白石はシャープペンシルを置いた。


 手が少し痛かった。


 でも。


(終わった。)


 心の底からそう思えた。


 ふと前を見る。


 神崎はいつもの表情で筆箱を片付けていた。


 中山は大きく伸びをしている。


 桐生は机に突っ伏しながら「俺は燃え尽きた……」と呟いていた。


 いつもの教室。


 いつものみんな。


 でも、少しだけ違う。


 それぞれが、それぞれなりに頑張った三日間だった。


「白石さん。」


「ん?」


「どうだった?」


 友達の問いかけに、白石は少し考える。


「分からない。」


「それな。」


「でも……。」


 白石は笑った。


「頑張れたと思う。」


 それは、順位の話ではなかった。


 何点取れたかでもなかった。


 図書館へ行った自分。


 眠い夜に机へ向かった自分。


 逃げずに積み重ねた自分。


 その全部を含めての言葉だった。


 六月の風が、開いた窓から吹き込む。


 中間考査は終わった。


 けれど。


 答案用紙に書いた答えだけじゃなく、この数週間で得たものも、確かに白石美月の中に残っていた。


 そして数日後。


 その努力は、数字となって返ってくることになる。


 まだ誰も知らない。

結果はどうなるんでしょうね。順位は廊下に張り出すのですが、その前に教科別の返却からやります。


あともう少しで第一章が終わりそうです。


文化祭のところやっと書き終わったぁ

※筆者はかなり先のところを書いており、それを少しづつ公開しています。

 一気に公開してほしいときは教えてください。

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