24,テスト前日
テスト前日の話です。最近は短めですね、web小説だったらこれくらいがいいのかな
中間考査前日。
朝、教室に入った瞬間、白石美月はいつもとの違いに気づいた。
「英語の単語テストならまだしも、本番は無理だって……。」
「昨日、理科のワーク三周した。」
「嘘つけ。」
「本当だって!」
「終わった……俺の中間考査、まだ始まってもないのに終わった……。」
あちこちから聞こえる悲鳴と冗談。
それでも、その奥には確かな緊張があった。
机に向かう人。
友達同士で問題を出し合う人。
ノートを見返す人。
普段は授業が始まるまで騒がしい教室も、今日はどこか落ち着かない。
白石も席に着くと、鞄から英単語帳を取り出した。
(あと一日。)
ページをめくる。
見覚えのある単語。
以前は何度見ても頭に入らなかったのに、今では自然と意味が浮かぶものも増えていた。
その小さな変化が、少しだけ嬉しかった。
◇◇◇
四時間目。
担任は教科書を閉じると、教卓に寄りかかった。
「よし。前日だからな。残りは自習にする。」
教室がざわつく。
「分からないところがあるやつは友達に聞いてもいい。ただし、騒ぐなよ。」
そう言って椅子に腰掛けた。
しばらくすると。
教室は不思議な静けさに包まれた。
ページをめくる音。
シャープペンシルの音。
消しゴムを使う音。
誰かの小さなくしゃみ。
それだけが聞こえる。
白石は英語のノートを見返した。
仮定法。
比較。
関係代名詞。
一つずつ確認していく。
ふと、視線を横に向ける。
神崎悠真は数学の問題集を解いていた。
迷いなく。
一定の速さで。
時折、止まって考えることはあっても、すぐにまたペンが動く。
(やっぱり、すごいな。)
でも、もうただ「すごい」で終わらなかった。
図書館で見た努力。
昼休みにくれた短い助言。
放課後の教室。
その積み重ねを知っている。
(ちゃんと頑張ってるからなんだ。)
白石は視線を戻し、自分のノートに向き直った。
◇◇◇
放課後。
帰る準備をする生徒たちの間を、中山が歩いていく。
「神崎。」
「ん。」
神崎は顔を上げた。
「……眠そう。」
「お前も。」
「昨日、二時。」
「馬鹿だろ。」
「うるさい。」
中山は苦笑した。
少しだけ、いつもの勝気な雰囲気とは違って見えた。
「でもさ。」
「何だ。」
「明日、楽しみ。」
「……。」
「頑張った分、ちゃんと返ってくるかもしれないじゃん。」
神崎は少し考えるように窓の外を見た。
「そうだな。」
「だから。」
中山は真っ直ぐ神崎を見る。
「負けたくない。」
「俺も。」
短い返事。
でも、それだけで十分だった。
「じゃあ、明日。」
「おう。」
中山は小さく笑うと、教室を出ていった。
白石はその背中を見送る。
(あの二人でも……。)
緊張するんだ。
不安になるんだ。
それでも、前を向く。
それが少し意外で。
でも、なんだか安心した。
◇◇◇
家に帰ると、机の上には使い込んだ問題集が積まれていた。
書き直したノート。
付箋。
短くなったシャープペンシル。
完璧じゃない。
分からないところだって、まだある。
それでも。
(ここまでやった。)
図書館へ行った。
家でも勉強した。
眠い日も、やる気が出ない日も、机に向かった。
以前の自分なら、ここまで続かなかったかもしれない。
ベッドに横になる。
天井を見上げる。
目標は二十位台。
届くだろうか。
失敗したら。
思ったよりできなかったら。
そんな考えが次々と浮かんでくる。
だけど。
『やった分しか点にならないし。』
図書館で聞いた声。
『たぶん大丈夫。』
昼休みに言われた短い言葉。
白石は目を閉じた。
(……大丈夫。)
怖い。
緊張する。
でも。
それ以上に。
(頑張った。)
そう言える自分がいた。
六月の夜。
静かな部屋の中で、白石は小さく息を吐く。
そして。
「……よし。」
誰に聞かせるでもなく呟いた。
「明日、頑張ろう。」
中間考査まで、あと数時間。
長かった一週間の先にある最初の挑戦が、もうすぐ始まろうとしていた。
次はテスト当日です。1話で締めようと思っているので、長くなりそうです。




