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君を好きになるのは、一週間だけのはずだった。  作者: 松茸の香料
第一章 青に染まるまで

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22/35

22,放課後の勝負

白石と神崎の会話は出てきません。神崎と同じぐらい頭がいいという化物がもう一人いるので、そいつがなにか言ってきそうです。

 部活動停止期間に入った放課後の教室は、いつもより静かだった。


 窓の外では運動部の掛け声も聞こえない。


 グラウンドを渡る風の音と、時折廊下を通る足音だけが、夕方の校舎に小さく響いていた。


「じゃ、俺は帰る!」


 桐生は鞄を肩にかけながら大きく伸びをした。


「家だと全然勉強できないんだよなー。」


「じゃあ図書館行けばいいだろ。」


「神崎みたいな優等生と一緒にするなって。」


「やるかやらないかだろ。」


「うわ、正論。」


 桐生は苦笑した。


「白石さんも頑張れよー。」


「あ、うん。」


「じゃあまた明日!」


 元気よく手を振って、教室を出ていく。


 残ったのは、数人の生徒だけだった。


 白石美月は英語の問題集を広げる。


 テストまであと数日。


 図書館へ行った日から、少しずつ勉強時間は増えていた。


 正直、しんどい。


 でも。


(もう少しだけ。)


 シャープペンシルを握り直す。


 ふと視線を上げると、数席離れた場所で神崎悠真もノートを広げていた。


 数学の問題集。


 付箋の貼られた参考書。


 いつもの無表情。


 それなのに、なぜか真剣さだけは伝わってくる。


「神崎。」


 静かな教室に声が響いた。


 顔を上げる。


 前の方の席にいた中山が、プリントを片手に立っていた。


「ん?」


「今回。」


 中山は真っ直ぐ神崎を見る。


「私、一位取るから。」


「そうか。」


「……それだけ?」


「頑張れ。」


「だから、その反応が腹立つの。」


 中山は小さくため息をついた。


「私、本気だから。」


「俺も。」


 神崎はペンを置いた。


「負ける気はない。」


 その声は静かだった。


 大きく宣言するわけでもない。


 熱く語るわけでもない。


 ただ、当たり前のことを言うように。


「へえ。」


 中山は少しだけ笑った。


「じゃあ勝負ね。」


「別にいい。」


「負けた方がジュース一本。」


「……。」


「逃げないよね?」


 神崎は少しだけ考えてから答えた。


「負ける気ないし。」


「言ったね。」


「おう。」


 それだけだった。


 それだけなのに。


 教室の空気が少しだけ変わった気がした。


(すごい……。)


 白石は思わず二人を見つめる。


 学年一位を目指す人。


 それを当然のように受け止める人。


 自分とは違う場所にいる人たち。


 でも。


 神崎は特別な才能だけでそこにいるわけじゃない。


 図書館で見た付箋だらけの参考書。


 予定が細かく書かれた範囲表。


 そして。


『やった分しか点にならないし。』


 あの言葉。


(遠いな。)


 今の自分とは、まだ距離がある。


 だけど。


(少しでも近づきたい。)


 そう思えた。


「じゃ。」


 中山は鞄を持った。


「テストで決着ね。」


「おう。」


「ジュース、楽しみにしてる。」


「気が早い。」


「そっちこそ。」


 中山は笑って教室を出ていった。


 再び静けさが戻る。


 夕日が窓から差し込み、机の上に長い影を落としていた。


 白石は目の前の英語の問題集を見つめる。


 あと数日。


 今の自分にできることは、一つしかない。


 シャープペンシルを握る。


 一問ずつ。


 少しずつ。


 追いつけなくても。


 せめて、近づけるように。


 放課後の静かな教室には、紙をめくる音と、ペン先が走る音だけが続いていた。


島流しにあっていた間、更新をしていなかったのですが、PVが40もありました。

ありがとうございます!

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