22,放課後の勝負
白石と神崎の会話は出てきません。神崎と同じぐらい頭がいいという化物がもう一人いるので、そいつがなにか言ってきそうです。
部活動停止期間に入った放課後の教室は、いつもより静かだった。
窓の外では運動部の掛け声も聞こえない。
グラウンドを渡る風の音と、時折廊下を通る足音だけが、夕方の校舎に小さく響いていた。
「じゃ、俺は帰る!」
桐生は鞄を肩にかけながら大きく伸びをした。
「家だと全然勉強できないんだよなー。」
「じゃあ図書館行けばいいだろ。」
「神崎みたいな優等生と一緒にするなって。」
「やるかやらないかだろ。」
「うわ、正論。」
桐生は苦笑した。
「白石さんも頑張れよー。」
「あ、うん。」
「じゃあまた明日!」
元気よく手を振って、教室を出ていく。
残ったのは、数人の生徒だけだった。
白石美月は英語の問題集を広げる。
テストまであと数日。
図書館へ行った日から、少しずつ勉強時間は増えていた。
正直、しんどい。
でも。
(もう少しだけ。)
シャープペンシルを握り直す。
ふと視線を上げると、数席離れた場所で神崎悠真もノートを広げていた。
数学の問題集。
付箋の貼られた参考書。
いつもの無表情。
それなのに、なぜか真剣さだけは伝わってくる。
「神崎。」
静かな教室に声が響いた。
顔を上げる。
前の方の席にいた中山が、プリントを片手に立っていた。
「ん?」
「今回。」
中山は真っ直ぐ神崎を見る。
「私、一位取るから。」
「そうか。」
「……それだけ?」
「頑張れ。」
「だから、その反応が腹立つの。」
中山は小さくため息をついた。
「私、本気だから。」
「俺も。」
神崎はペンを置いた。
「負ける気はない。」
その声は静かだった。
大きく宣言するわけでもない。
熱く語るわけでもない。
ただ、当たり前のことを言うように。
「へえ。」
中山は少しだけ笑った。
「じゃあ勝負ね。」
「別にいい。」
「負けた方がジュース一本。」
「……。」
「逃げないよね?」
神崎は少しだけ考えてから答えた。
「負ける気ないし。」
「言ったね。」
「おう。」
それだけだった。
それだけなのに。
教室の空気が少しだけ変わった気がした。
(すごい……。)
白石は思わず二人を見つめる。
学年一位を目指す人。
それを当然のように受け止める人。
自分とは違う場所にいる人たち。
でも。
神崎は特別な才能だけでそこにいるわけじゃない。
図書館で見た付箋だらけの参考書。
予定が細かく書かれた範囲表。
そして。
『やった分しか点にならないし。』
あの言葉。
(遠いな。)
今の自分とは、まだ距離がある。
だけど。
(少しでも近づきたい。)
そう思えた。
「じゃ。」
中山は鞄を持った。
「テストで決着ね。」
「おう。」
「ジュース、楽しみにしてる。」
「気が早い。」
「そっちこそ。」
中山は笑って教室を出ていった。
再び静けさが戻る。
夕日が窓から差し込み、机の上に長い影を落としていた。
白石は目の前の英語の問題集を見つめる。
あと数日。
今の自分にできることは、一つしかない。
シャープペンシルを握る。
一問ずつ。
少しずつ。
追いつけなくても。
せめて、近づけるように。
放課後の静かな教室には、紙をめくる音と、ペン先が走る音だけが続いていた。
島流しにあっていた間、更新をしていなかったのですが、PVが40もありました。
ありがとうございます!




