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君を好きになるのは、一週間だけのはずだった。  作者: 松茸の香料
第一章 青に染まるまで

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21,昼休みの質問

割と短めです。白石ナイスゥ!

 昼休みのチャイムが鳴った瞬間、教室の空気は一気に緩んだ。


「腹減ったー!」


「購買行くやついる?」


「今日のパン何だっけ?」


 椅子を引く音。弁当箱を開ける音。友達を呼ぶ声。


 さっきまでの授業中とは別の教室みたいだった。


 白石美月は鞄から弁当を取り出しながら、机の端に置いた数学のプリントに目を落とした。


 中間考査まで、あと数日。


 図書館で勉強してからというもの、以前よりも机に向かう時間は増えていた。


 それでも。


「……。」


 分からない問題は、分からない。


 さっきの授業で解説された問題を見返す。


 途中式までは理解できる。


 でも、その先で手が止まる。


(ここ、どうしてこうなるんだろう……。)


 消しゴムで消しては書き直し、また止まる。


 そんなことを繰り返していた時だった。


「食べないのか?」


「え?」


 顔を上げる。


 隣の席の神崎悠真が、パンの袋を開けながらこちらを見ていた。


「弁当。」


「あ、食べるよ。」


「ならいい。」


 それだけ言って、神崎は焼きそばパンにかぶりついた。


(……いや、よくない。)


 白石は心の中で突っ込む。


 きっと、ずっと同じ問題を見ていたから気になったのだろう。


 それだけだ。


 それだけなのに。


 隣から話しかけられただけで、心臓は少し忙しくなる。


 白石はプリントを見つめた。


 図書館の時みたいに、また聞いてもいいのだろうか。


 でも昼休みだ。


 神崎だって休憩したいはず。


「……。」


「……。」


 神崎は黙々とパンを食べている。


 白石はプリントを見る。


 神崎を見る。


 プリントを見る。


「……神崎くん。」


「ん?」


「これ。」


 意を決してプリントを少しだけ差し出した。


「ここの途中式、分からなくて。」


 神崎は口の中のものを飲み込むと、プリントに視線を落とした。


「……。」


「……。」


 数秒。


「ここ。」


 神崎は問題の一行を指差した。


「この公式使う。」


「あ。」


「さっき先生が黒板に書いてたやつ。」


「えっと……。」


「これ。」


 白石のノートを軽く指で示す。


 見返してみると、確かに同じ形が書いてあった。


「だから、ここをこうして。」


「……あ。」


 止まっていた歯車が、少しずつ動き出す。


「それで、こう?」


「そう。」


「できた……。」


「ならよかった。」


 神崎はプリントから目を離した。


 説明は短い。


 でも、不思議と分かりやすかった。


「神崎くんって、教えるの上手だね。」


「そうか?」


「うん。」


「別に。」


 神崎は残りのパンを食べる。


「分かるやつが分からないやつに教えてるだけだし。」


「でも、全部答え言わないよね。」


「自分で解いた方が覚えるだろ。」


「……たしかに。」


 白石は思わず笑った。


 なんとなく。


 その考え方も神崎らしいと思った。


「白石。」


「え?」


「理解は早いと思う。」


「えっ。」


「公式忘れてただけだろ。」


「……。」


「ちゃんと見たらできてたし。」


 神崎は何でもないことのように言った。


「だから、たぶん大丈夫。」


 そう言って、空になったパンの袋を畳む。


 白石は返事ができなかった。


 大丈夫。


 たぶん。


 そんな短い言葉なのに。


 それだけで、さっきまで難しく見えていた問題が、少しだけ簡単に思えた。


「……ありがとう。」


「ん。」


 神崎は小さく頷いた。


 その時。


「神崎ー! 購買行こうぜ!」


 後ろから桐生の声が飛んできた。


「もう食べた。」


「早っ!」


「お前が遅い。」


「白石さん、こいつ昼休みも勉強してなかった?」


「してた。」


「うわ、真面目。」


「桐生も勉強しろ。」


「嫌です。」


 教室に笑い声が広がる。


 白石はプリントを閉じた。


 窓の外では、初夏の風が校庭の木々を揺らしている。


 昼休み。


 ただ分からない問題を聞いただけ。


 たったそれだけの出来事。


 それなのに。


(……嬉しいな。)


 白石はこっそりと思った。


 図書館で見た努力する姿。


 昼休みに何気なくかけてくれる言葉。


 たくさん話すわけじゃない。


 特別扱いされているわけでもない。


 それでも。


 こういう小さな時間があるたびに。


 神崎悠真という存在は、少しずつ白石美月の中で大きくなっていくのだった。


作者が島流しに会うのため、今週末まで、投稿できません。


頑張ってやろうとはしますが、投稿可能かわかりません。


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