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君を好きになるのは、一週間だけのはずだった。  作者: 松茸の香料
第一章 青に染まるまで

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18/31

18,二人一組

ペアワークです。

あのペアワークです。


隣が中良かったりしたらめっちゃいいけど、嫌いな人だったら終わるやつです。


白石よかったね。

「じゃあ、今日はプリントを使ってペアワークをする。」


 五時間目の英語。


 先生がそう言った瞬間、教室のあちこちからため息と笑い声が上がった。


「隣の人と協力して進めること。読み終わった人から確認しておけ。じゃあ始めて。」


 それだけ言うと、先生は教卓で何かの書類を整理し始めた。


 あとは半分放任状態だった。


「うわ、眠い。」


「これ何問あるんだよ。」


「早く終わらせようぜ。」


 教室は一気に賑やかになる。


 白石美月は、手元のプリントを見つめた。


 隣の席。


 つまり、相手は神崎悠真。


「……。」


「……。」


 ほんの少しの沈黙。


 先に口を開いたのは神崎だった。


「俺から読む。」


「あ、うん。」


 相変わらず簡潔だった。


 感情を込めるでもなく、面倒くさそうにするでもなく、ただ授業を進めるために役割を決める。


 白石は小さく頷いた。


「The library was closed when we arrived there.」


「図書館は、私たちがそこに着いた時には閉まっていた。」


「合ってる。」


「じゃあ次。」


 淡々と進んでいく。


 周囲では、


「それ違くね?」


「いや、たぶんこっち。」


「もう分かんない。」


 という声が飛び交っていた。


「これ。」


 神崎がプリントを指で示す。


「ん?」


「次、読む。」


 白石も視線を落とした。


 そして。


 思わず、固まった。


If I were brave enough, I would tell the person I love how I feel.


(……え。)


 一瞬、意味が頭に入ってこない。


 もう一度読む。


 間違いじゃない。


 確かに、そう書いてある。


(なに、この例文……。)


「……?」


 神崎はそんな白石の様子に気づくことなく、いつもの調子で英文を読み上げた。


「If I were brave enough, I would tell the person I love how I feel.」


 教室のざわめきの中。


 隣から聞こえる声だけが、妙にはっきり耳に届く。


 白石は俯いた。


「……訳。」


「えっ。」


「白石。」


「あ、うん。」


 心臓がうるさい。


 顔を上げられない。


 でも、答えないわけにはいかなかった。


「……もし、もっと勇気があれば。」


「うん。」


「好きな人に、自分の気持ちを伝えるのに。」


「そうだな。」


 神崎はプリントに目を落としたまま言った。


「仮定法だから。」


「え?」


「現実とは違うってことだろ。」


「……。」


「実際には勇気がなくて、伝えてない。」


「……そうだね。」


 白石はプリントを見つめた。


 文字が少し滲んで見える気がした。


(もし、勇気があれば。)


(好きな人に、自分の気持ちを伝えるのに。)


(……そんなの。)


 無理だ。


 今の自分には。


 隣になっただけで嬉しくて。


 『おはよう』と『また明日』で一日頑張れてしまうような自分に。


 そんなこと、言えるわけがない。


「白石。」


「……え?」


「難しかったか?」


 神崎は首を傾げた。


 本当に、不思議そうに。


 ただの英語の問題でつまずいていると思っているような顔だった。


「ううん。」


 白石は慌てて首を振った。


「大丈夫。」


「そっか。」


 神崎はそれ以上聞かなかった。


 またプリントに目を落とす。


「次、読むぞ。」


「……うん。」


 教室は相変わらず騒がしい。


 誰かが笑っていて。


 誰かが答え合わせをしていて。


 先生は教卓で書類をめくっている。


 そんな、どこにでもある五時間目。


 きっと神崎は、この英文のことなんて明日には忘れてしまう。


 ただの例文。


 ただの仮定法。


 それだけだから。


 でも。


 白石美月は、たぶん忘れない。


 六月の英語の授業。


 二人一組のプリント。


 そして、隣から聞こえた声。


「If I were brave enough, I would tell the person I love how I feel.」


 もし、もっと勇気があれば。


 好きな人に、自分の気持ちを伝えるのに。


 白石はそっとプリントを閉じた。


 そして小さく思う。


(……今は、まだ無理。)


(でも、いつか。)


 その「いつか」が来るのかは分からない。


 それでも。


 隣の席で交わした、たった一つの英文は、静かに胸の奥へと残り続けたのだった。


次からはようやく一学期中間考査編です。

結構書く内容が多くなりそうなので,長くなります。多少不都合が出ますが、10話ほどは飛ばして読んでもらってもいいです。

神崎に白石が惚れるだけなので。それもそれで可愛いからいっかって思う人は読んでください。


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